表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/160

第7話 旅の始まり

 アンナとカルーナが旅に出る決意をしてから、三日が経っていた。

 あの日の後、家に来た兵士に、話を伝えると、王都まで馬車で送っていってもらえることになった。

 そして、アンナとカルーナの体調を考慮して、数日の猶予を与えてくれた。

 その兵士は、アンナと事件の後に、話していた兵士であり、王都までの馬車の御者も彼が行うらしい。なんでも、護衛役も兼ねているようだ。

 今日は、出発の日であり、二人は、ソテアとグラインと向き合っていた。


「二人とも、辛くなったら、いつでも帰っておいで。逃げたくなったら、いつでも逃げておいで。僕達の望みはただ一つ、二人が無事に帰ってくることなんだから」

「二人とも、体に気をつけるんだよ。あんた達二人、力を合わせて、頑張るんだよ」

「うん、ありがとう。叔父さん、叔母さん」

「行ってくるね。お父さん、お母さん」


 二人との別れを済ませ、外に出ると、すでに準備はできていた。


「兵士さん。もう大丈夫ですか?」

「ああ、アンナさん、もう準備はできています」


 アンナが話しかけると、兵士は大きく頷いた。

 二人が、馬車に乗って、間もなく馬車が出発した。





「ところで、お姉ちゃん。これから、どこへ向かうのか、ちゃんと理解している?」


 馬車の中で、隣に座るカルーナがアンナに話しかけてきた。


「え? 王都でしょ、それくらいわかってるよ」

「本当に?」


 正直なところ、アンナは、家の外のことはあまり知らなかった。しかし、姉としての威厳が、それを言い出すことを拒んでいた。


「まず、王都の名前、言ってみて」

「え? 名前……」


 アンナが暮らしているのは、ウィンダルス王国という場所だった。だが、王都の名前とは一体なんなのか、アンナは悩むことになった。

 ウィンダルス王国なのだから、ウィンダルスでいいのではと思ったが、それだと簡単すぎるとも感じた。


「わかってないでしょ」

「あ、はい、そうです」

「はあー、やっぱり……あ! 勘違いしないでね、今のはお姉ちゃんに対するため息じゃないよ」

「え? じゃあ、誰に対するため息なの?」

「お母さんだよ。やっぱり、お姉ちゃんをほぼ監禁状態にするのは、まずかったと思うよ。お姉ちゃん、世間のことあんまりわかってないもん」

「うっ……」


 確かに、アンナは一般的なことには弱かった。ソテアから知識として、教育は受けたものの、実際に使うことが少なすぎて、身についていないのだった。


「いや、でも、叔母さんに習ったり、本で読んだりはしてるんだよ」

「うん。けど、それじゃあ、身に着かないよ。実際に外に出たりすると、そういう情報って、よくわかったりするし」

「王都の名前か……聞いたことはあるかもしれないけど、覚えてないんだなあ」

「王都の名前は、ミルストスっていうんだ。町に出てると、王都ミルストスでも話題、とか目にするよ」

「ああ、思い出した! 確か、いつか聞いた気がする」


 アンナは、ソテアからそんなことを聞かされたことを思い出していた。


「うーん、自分の知識不足を感じるなあ。本も読むけど、物語とかが中心だからなあ」

「お姉ちゃんの知識は、私がカバーするよ。やっぱり、実際に目にしたり、使ったりしないと、そういうのって覚えられないし」

「よろしく頼むよ」


 アンナは、早速、カルーナがいてくれてよかったと思ったのだった。


「カルーナ、ついでに聞いてもいい?」

「うん? 何?」

「その、王都ミルストスまでって、結構かかるんだよね?」

「うん、だから、途中で村に泊まっていくみたいだよ」

「やっぱり遠いんだね……」


 アンナが今まで行ったことがあった場所は、家と町だけだった。そのため、その外側の世界の広さを知らなかった。


「世界って、広いんだね……」

「お姉ちゃん……」


 馬車は揺られ、進んで行く。





 しばらく馬車の旅が続き、一つの村に到着した。


「ここは、ケシルの村です。今から、宿をとるので、馬達を見ていて頂けますか? 」

「あ、兵士さん、それなら、一つお願いがあるんですけど……」


 兵士の言葉に、カルーナが反応した。

 アンナが、疑問に思っていると、カルーナが言葉を発した。


「私と、お姉ちゃんは同じ部屋にして欲しいんです」

「え? カルーナ?」


 アンナが驚いていると、カルーナは笑顔で語り始めた。


「あのね、これからの作戦会議とか、馬車の中でも話したけど、宿でも話したいでしょ」

「え? いや、別に……んん?」


 返答しようとしたアンナの口を、カルーナは手で押さえ塞いだ。


「という訳で、兵士さん、よろしくお願いします」

「あ、ええ、わかりました。そのように話を通しておきます」


 そう言って、兵士は宿の方へ向かった。

 そこで、カルーナは、やっとアンナの口を解放した。


「ぷはあ、一体、なんのつもりなの?」

「別にいいでしょ。それとも、私と同じ部屋は嫌なの?」

「嫌じゃないけど、宿の中くらい休まして欲しいよ?」

「あ、あれは嘘だよ。単に一緒の部屋がよかっただけ」


 それなら、素直にそう言えばよかったのではないかと、アンナは思った。しかし、カルーナの年頃だと、恥ずかしかったのかもしれない。

 だが、それを言ったら、怒られる気がしたので、黙っておくことにした。


「そうなんだ。それならよかったよ」

「ありがとう、お姉ちゃん」


 話が終わったので、二人は馬の様子を見ることにした。

 馬車は二頭の馬が引いているのだが、二頭とも大人しくしていた。近づいても、それは変わらなかった。


「あなた達も疲れたよね。ありがとう」

「お、お姉ちゃん、すごいね」


 アンナは、馬を撫でていたが、カルーナは恐怖からかそこまですることができなかった。


「マルカブ、シェアト、お疲れ様、明日もよろしくね」


 馬の名前は、兵士から聞いていた。

 黒い馬がマルカブ、銀色の馬がシェアトというらしい。

 そうしながら、待っていると、兵士が帰ってきた。


「お二人とも、宿がとれましたので、お先にどうぞ。自分は、馬車をしまってきますので」

「あ、はい、ありがとうございます」

「兵士さん、お疲れ様です」


 アンナとカルーナは、すぐに宿へと向かった。

 兵士が話を通してくれていたため、宿の主はすぐに部屋に案内してくれた。

 部屋にはベットが二つあるため、二人部屋のようだった。

 アンナは、部屋に入るなり、ベットに横たわった。


「ふー、やっぱり馬車の中より、部屋の方がいいね」

「お姉ちゃん、この宿、お風呂あるって、後で一緒に行こう?」

「うん、いいよ。それじゃあ、ちょっと休んだら行こうか」





 二人は、ベットで寝転がりながら、休んでいたが、何やら外から、声が聞こえた。

 今は、すでに、日も落ちてきている。そんな時間に騒ぐのは、少し気になった。


「なんだか、外が騒がしいね」

「うん、お姉ちゃん、ちょっと、見に行ってみようよ。何か、嫌な予感がする……」

「……行ってみよう」


 二人が、部屋から出ると、丁度、同じ宿に泊まっていた兵士が外に駆け出していくのが見えた。

 同じように外の騒ぎを聞きつけたのだろう。

 兵士に続いて、二人も外に出た。すると、村の人々が騒いでいた。しかし、どうやら、その騒ぎは穏やかなものではないらしい。


「悲鳴……?」

「カルーナ、私の後ろにいて」

「あ、うん」


 アンナは、何かただごとではないことが起きていると、理解した。

 カルーナを自分の後ろにいさせ、右手から、聖剣を取り出した。


「騒ぎの方に向かうよ」


 アンナとカルーナは、小走りで、騒ぎの方向へ向かった。


「あっちからだ!」


 そして、角を一つ曲がった時、騒ぎの原因を視認することができた。


「お姉ちゃん、あれって……」

「ああ、あれは……」


 アンナは、その存在を睨みつけ、叫んでいた。


「魔族!」

 

 そこには、異形の者達が数人立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ