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赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~  作者: 木山楽斗
第四章 毒々しき心

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第68話 毒魔将の思い

 ツヴァイから受け継いだ鎧を纏ったアンナと、メデュシアから力を受け継いだラミアナの戦いは、未だ続いていた。


「聖なる光よ、剣になれ……」


 アンナの言葉で、聖なる光は聖剣へと戻っていく。


「勇者……!」


 ラミアナは、アンナを睨みつけてくる。

 その厄介な目は、アンナを捉えて離さない。


「がはっ!」

「ラミアナ……!?」


 そこで、ラミアナは大きく口を開いた。

 さらに、そこから、紫色の液体が放たれる。


「これは!?」


 アンナは、その液体から逃れるように、体を動かす。

 その液体は、先程アンナを苦しめた毒である。


「な、何故……?」


 アンナは、それが放たれたことに驚いた。

 ラミアナは、その毒を使うことを、一番嫌っていたはずだ。それなのに、毒を使うとは思っていなかった。


「……何?」


 それに驚いているのは、ラミアナも同じである。

 その毒は、ラミアナの意識とは関係なく放たれたのだ。


「勇者アンナ! それは、禁術の影響だ!」

「禁術……そうか!」


 ツヴァイからの言葉で、アンナは思い出す。禁術の効力の一つを。

 禁術は、かけられたものの精神に作用するものである。その作用とは、使用者の精神に引きずられるということ。


「つまり、ラミアナの精神に反して、メデュシアという兵の精神が毒を吐かさせたのか……」

「私の精神が……メデュシアに? 馬鹿な……?」


 ツヴァイの発言は、ラミアナを大きく動揺させた。

 ラミアナにしてみれば、部下を信用して力を貸してもらったのだ。その部下に裏切られたような気持になり、それが信じられなかった。


「がはっ!」


 その瞬間、ラミアナに生えた二本の手が動く。

 それと同時に、ラミアナの体も起動した。


「勇者! 許さん!」


 ラミアナは、アンナに向かってきたのだ。

 それはまるで、操り人形のようであった。


停止の魔眼(フリーズ・アイ)!」

「くっ!」


 ラミアナの目が光輝き、アンナの体が停止する。

 先程の攻防で、それが数秒のものだとわかっているが、それでも危険であることは変わらない。


「次で終わらせてやる!」

「くっ!」


 ラミアナは、大きく飛び上がり、アンナの頭上をとる。

 そして、その四本の剣から突きが放たれた。


(ネオ)蛇の嵐(スネーク・ストーム)!」

「ぐわっ!?」


 アンナの体に、その突きが当たる。

 魔人の鎧槍(アーマード・ランス)があるため、直接突き刺さることはなかったが、その衝撃に痛みが走った。


「……動く!」


 そこで、アンナの体が動く。ラミアナの魔眼が解けたのだ。

 アンナは、鎧に聖闘気を纏わせる。


聖なる(セイント・)鎧の障壁(アーマー・バリア)!」


 アンナの防御力が上がり、ラミアナの攻撃を防いでいく。

 ラミアナは、そこで一度動きを変える。


「それは、先程見た!」

「何!?」


 その四本の腕が、広げられ、ラミアナが体勢を横にした。


(ネオ)回転剣舞(ブレード・ロール)!」

「くっ!?」


 その回転が、鎧を纏ったアンナと衝突する。

 アンナは、防御することしかできず、その場を動けなかった。


「このまま削りきってやる!」

「おおおおおっ!」


 剣によって、アンナの纏う聖闘気が破られ、その下の鎧を傷つけていく。

 アンナは、その衝撃により、体勢を低くする。


「これで終わりだあああああ!」

「まだだ!」


 アンナは、聖闘気をラミアナの体に流し込んでいく。


「ぐわああああ!」


 その聖闘気により、ラミアナは叫びをあげる。

 だが、勢いは減ったが、その回転を止めることはない。

 このまま、アンナを切り裂くためだ。


「くっ!」


 そこでアンナは、覚悟を決める。

 一か八かでもやるしかない。方法は、先程ツヴァイが見せてくれた。


変化(チェンジ・)(ランス)!」


 アンナの鎧が、槍に変わっていく。

 その衝撃によって、ラミアナの体が少し浮き上がる。


聖なる槍(セイント・ランス)!」

「むううっ!?」


 聖なる光を纏った槍が、ラミアナに突き刺さった。

 その衝撃によって、ラミアナの回転が止まっていく。

 そして、そのまま天井に叩きつけられる。


「がはっ!」

「おおおおおおおっ!」


 アンナは、大地を蹴り上げ、空中に飛び立つ。


変化(チェンジ・)(アーマード)!」


 さらにその手に握る槍を、鎧へと変化させていく。


「聖なる光よ! 剣になれ!」


 アンナは、聖剣を再びその手に戻す。


聖なる十字斬り(セイント・クロス)!」

「ぐわあああっ!」


 聖剣による十字の斬撃が、ラミアナに当たり、その身を切り裂いた。

 その体から、赤い血が噴き出る。


「くっ!」

「がはっ!」


 その後、二人の体が地面に叩きつけられた。

 ダメージは、アンナよりもラミアナの方が、遥かに大きい。


「ぐぬぬぬ……」

「ラミアナ……」


 二人は同時に立ち上がり、お互いに睨み合う。

 両者とも、次が最後の攻防であることがわかっていた。


「かあああっ!」

「何!?」


 そこで、ラミアナは自らの目に指を突き刺す。その目から、鮮血が迸る。


「メデュシアよ……お前の心遣いは感謝する。だが、最期の戦いだけは、この私だけでやりたい。私の正々堂々で……戦いたい!」

「ラミアナ……そんな……」


 ラミアナに新たなに生えた手が、その向きを変えた。

 その腕は、ラミアナの体に絡みつき、抱きしめる形となったのだ。


「ありがとう……メデュシア。私も……すぐに……」

「……」


 アンナは驚いていた。それと同時に、理解する。メデュシアという部下は、ラミアナを邪魔していた訳ではないということを。

 ただ、ラミアナを守るために、どんな手でも使っていただけに過ぎずないのだ。どれだけラミアナが嫌がっても、最善と思う手を打っていた。それが、その抱きしめる形でわかったのだ。


「これで……」

「ああ……」


 ラミアナは、その手の剣を交差させる。

 それに合わせて、アンナも聖剣を構えた。


「目は見えないが……お前の位置が手にとるようにわかる。遠慮はいらんぞ……」

「……もちろんだ!」


 アンナは大きく大地を蹴って、ラミアナの元に駆け出す。

 ラミアナもアンナに向かっていく。


「はあああああああ!」

「しゃああああああ!」


 二人の剣がぶつかり合って、鮮血が飛び散る。

 勝者は、ただ一人。


「み、見事だ……」

「ラミアナ……」


 大きな音とともに、ラミアナの体が地面に倒れた。

 アンナは、ゆっくりとそちらに歩み寄る。それと同時に、鎧は槍に戻す。


「……できれば、お前とは毒などなく戦いたかった」

「それが……正々堂々だから?」

「そうだ」


 アンナは、ラミアナの元で腰を下ろした。

 その身をゆっくりと抱き上げ、その手を握る。


「最初から毒を使っていれば、あなたの勝ちだった」

「そんなものは勝利ではない。私にとっては……」


 ラミアナは、アンナの手を握り返した。

 戦いの中で、二人はある程度わかりあえたのかもしれない。


「最期に言い残すことは……?」

「……ない」

「本当に?」


 アンナは、ある一つのことが気になっていた。

 それは、ラミアナが抱いているであろう思い。


「ガルスにも……?」

「……」


 アンナは、ラミアナがガルスに特別な思いを抱いていたのではないかと、推測していた。

 その口ぶりから、なんとなくそう思ったのだ。


「憧れていたんだ……」

「え?」

「彼の生き方こそ、私の理想だった。彼のようになりたかった……だが、そうはできなかった」


 ラミアナの目から血が流れていた。

 それは恐らく、涙なのだろう。


「このことは、竜魔将……ガルスに言わなくていい。奴とは、一人の魔将として対等でありたい……」

「……わかった」


 それは、ラミアナの覚悟である。

 それを無下にすることは、アンナにはできない。


「最後の相手が、お前のような戦士でよかった」

「ありがとう……」

「さらばだ……アンナ……敵ではあるが、幸、運、を……」


 そこで、ラミアナの体から力が抜ける。彼女の命が、失われたのだ。

 アンナとラミアナの戦いが、ここに決着したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔族魔将は世が世なら理想の上司でもったいないですね
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