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赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~  作者: 木山楽斗
第四章 毒々しき心

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第61話 映りし姿は

 カルーナは、ピュリシスと対峙していた。

 ピュリシスは、半鳥と半魚の姿を使い分けることで、カルーナを苦しめている。

 カルーナは必死に思考を加速させ、ピュリシスを倒す方法を考えていた。


「ふふ、お前の必殺技は、もう私に通用しない……この二つの姿があれば、お前の攻撃は防げる」

「……いいえ、まだ手はある」


 カルーナは、その手に魔力を集中させる。

 ある一つの作戦を実行することに決めたのだ。


紅蓮の火球(ファイアー・ボール)!」

「何!?」


 カルーナが火球を放ったが、ピュリシスは目を丸くする。

 なぜなら、その目標はピュリシスから大きく外れているからだ。

 飛んでいるピュリシスに対して、火球の目的地は地面。これがどういう意図か、ピュリシスには理解できなかった。


「何を考えている!」

「さあ……」


 火球が地面に着弾し、起爆する。


「これは……!?」


 するとその爆発は、辺りに大きな砂埃を巻き上げた。

 その砂埃によって、ピュリシスの視界が奪われる。


「小賢しい真似を……風の回転(ウィンド・スピニング)!」


 ピュリシスは体を回転させた。

 その回転によって引き起こされた風で、砂埃が吹き飛んでいく。


「風を操れる私に、こんな目つぶしは意味がないぞ!」


 ピュリシスの視界が晴れくる。

 そして、先程までと同じ位置にカルーナの姿を発見した。


「喰らうがいい……風の刃(ウィンド・カッター)!」


 ピュリシスから、風でできた刃が打ち出される。

 それは一直線に、カルーナ目がけて飛んでいく。

 カルーナは、そこから動くことがなく、風の刃がそこに着弾する。


「ふふ……終わりのようだな」


 カルーナの体が、二つに割れ、その上側が地面に落ちた。


「なんだ?」


 その瞬間、不思議なことが起こる。

 地面に落ちたカルーナの上半身は、その衝撃によって砕け散ったのだ。

 さらに、カルーナの体からは一滴の血すら流れておらず、下半身は微動だにしていない。


「何故……」


 そのことにピュリシスが驚いていると、その後ろから声が響く。


紅蓮の不死鳥ファイア・フェニックス!」

「何!?」


 ピュリシスの後方から、火の鳥が襲ってきた。

 ピュリシスはそれに反応できず、その体が炎に包まれる。


「くっ! 風の回転(ウィンド・スピニング)!」


 しかし、すぐに回転し、炎を払っていく。

 払われた炎は、すぐに再生を開始する。


「うっ! 風の回転(ウィンド・スピニング)!」


 さらに回転を重ねるが、それに合わせて火の鳥は再生していく。


「まだだ!」


 再生する炎に対して、ピュリシスは肉体を変化させる。

 半鳥から半魚へ、その体が変化した。


「この体なら……」


 半魚の持つ水の力によって、火の鳥が鎮火していく。

 火の鳥はそれ以上再生することなく、ピュリシスの脅威は去ったと思われた。


「……はっ!」

「この距離なら!」


 そこで、ピュリシスは、カルーナが接近していたことに気づく。

 カルーナは杖を構え、ゆっくりと口を開いた。


氷結呪文(アイス)!」


 カルーナの杖には、魔力を込めることで魔法が使える、魔石が埋め込まれている。

 カルーナは、その魔石に魔力を込めて、魔法を放ったのだ。


「うぐっ……」


 ピュリシスの体が、どんどんと凍りついていく。

 咄嗟の出来事であったため、ピュリシスは対応できない。


「……まさか、私が見ていたのは……」

「……そう、あなたが見ていたのは、氷に映し出された私……」

「……そういうことか」


 カルーナは、砂埃が起こってからすぐに、自身のいた場所に氷を作り出した。

 それから、直進しピュリシスの後ろまで周り込んだ。

 そこで待機し、ピュリシスが氷に攻撃するのを待ったということである。


「み、見事だ……」


 ピュリシスの体は、どんどんと凍り、最早動きがとれなくなっていた。

 つまり、これは勝負の決着を意味している。


「これで終わり……」


 カルーナは、ゆっくりと右手を構えた。

 そして、その手に魔力を集中させる。


「これで、私の負けか……」

小さな(リトル)紅蓮の(ファイアー・)――」


 カルーナが魔法を放とうとした、その瞬間だった。


「ピュリシス様!」

「何!?」

「お前達は!?」


 ピュリシスの体が、その場から離れていく。

 毒魔団の部下達が、横から入り込み、その体を運んでいったのだ。


「お前達、なんのつもりだ……」

「ピュリシス様は我らが要!」

「ここで死なせるわけにはいきません!」

「くっ……!」


 部下たちはそのまま、洞窟の奥へと駆けて行く。

 カルーナは、それを追おうとしていたが、その行く手を毒魔団に遮られる。


「ここは通さん!」

「くっ……!」


 カルーナに残された体力は少ないため、この人数は相手できない。


「カルーナさん!」

「我々が!」


 しかし、カルーナも一人ではなかった。

 イルドニア王国軍の兵士達が、カルーナを助けるために駆け付けたのだ。


「皆さん、ありがとうございます……だけど……」


 だが、ピュリシスの姿はもう見えなくなっていた。

 奥に何があるかわからない以上、カルーナも迂闊に踏み込むことはできない。


「くっ! ならば、とりあえずお下がりください!」

「こいつらの相手は我々がします」

「……わかりました。お願いします」


 それだけ言って、カルーナは後退していく。

 ピュリシスとの戦いで、体力も魔力もほとんど消費しているため、少し休むことにしたのだ。


「はあああ!」

「でやあああああ!」


 カルーナが下っていると、目の前で戦いが始まっていた。

 イルドニア王国軍と毒魔団、二つの兵士達は、ほぼ互角の戦いを繰り広げる。


「だけど……」


 しかし、カルーナはイルドニア王国軍の勝利を確信していた。なぜなら、毒魔団側の将ともいえたピュリシスは、敗走した形だ。つまり、士気はかなり下がっている。

 一方、イルドニア王国軍は、カルーナの勝利によって、士気が上がっているのだ。

 どちらが有利かは、とてもわかりやすい。


「ぐわああ!」

「ぬわああ!」


 その様子は、すぐに戦場に現れた。

 だんだんと、毒魔団側が追い詰められているのだ。


「……これで、ここは恐らく大丈夫……」


 カルーナは、この戦場の勝ちを確信した。

 ピュリシスについても、しばらくの間は動くことはできないだろう。よって、カルーナの心配は、自分以外の場所に向く。


「お姉ちゃん、ティリアさん、ガルスさん……」


 自分の仲間が、どうなっているか心配でしかたなかった。


「けど……きっと、大丈夫……」


 だが、カルーナはすぐに頭を切り替える。

 自分の頼もしい仲間達が負けることなど、ないと信じて。

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