第61話 映りし姿は
カルーナは、ピュリシスと対峙していた。
ピュリシスは、半鳥と半魚の姿を使い分けることで、カルーナを苦しめている。
カルーナは必死に思考を加速させ、ピュリシスを倒す方法を考えていた。
「ふふ、お前の必殺技は、もう私に通用しない……この二つの姿があれば、お前の攻撃は防げる」
「……いいえ、まだ手はある」
カルーナは、その手に魔力を集中させる。
ある一つの作戦を実行することに決めたのだ。
「紅蓮の火球!」
「何!?」
カルーナが火球を放ったが、ピュリシスは目を丸くする。
なぜなら、その目標はピュリシスから大きく外れているからだ。
飛んでいるピュリシスに対して、火球の目的地は地面。これがどういう意図か、ピュリシスには理解できなかった。
「何を考えている!」
「さあ……」
火球が地面に着弾し、起爆する。
「これは……!?」
するとその爆発は、辺りに大きな砂埃を巻き上げた。
その砂埃によって、ピュリシスの視界が奪われる。
「小賢しい真似を……風の回転!」
ピュリシスは体を回転させた。
その回転によって引き起こされた風で、砂埃が吹き飛んでいく。
「風を操れる私に、こんな目つぶしは意味がないぞ!」
ピュリシスの視界が晴れくる。
そして、先程までと同じ位置にカルーナの姿を発見した。
「喰らうがいい……風の刃!」
ピュリシスから、風でできた刃が打ち出される。
それは一直線に、カルーナ目がけて飛んでいく。
カルーナは、そこから動くことがなく、風の刃がそこに着弾する。
「ふふ……終わりのようだな」
カルーナの体が、二つに割れ、その上側が地面に落ちた。
「なんだ?」
その瞬間、不思議なことが起こる。
地面に落ちたカルーナの上半身は、その衝撃によって砕け散ったのだ。
さらに、カルーナの体からは一滴の血すら流れておらず、下半身は微動だにしていない。
「何故……」
そのことにピュリシスが驚いていると、その後ろから声が響く。
「紅蓮の不死鳥!」
「何!?」
ピュリシスの後方から、火の鳥が襲ってきた。
ピュリシスはそれに反応できず、その体が炎に包まれる。
「くっ! 風の回転!」
しかし、すぐに回転し、炎を払っていく。
払われた炎は、すぐに再生を開始する。
「うっ! 風の回転!」
さらに回転を重ねるが、それに合わせて火の鳥は再生していく。
「まだだ!」
再生する炎に対して、ピュリシスは肉体を変化させる。
半鳥から半魚へ、その体が変化した。
「この体なら……」
半魚の持つ水の力によって、火の鳥が鎮火していく。
火の鳥はそれ以上再生することなく、ピュリシスの脅威は去ったと思われた。
「……はっ!」
「この距離なら!」
そこで、ピュリシスは、カルーナが接近していたことに気づく。
カルーナは杖を構え、ゆっくりと口を開いた。
「氷結呪文!」
カルーナの杖には、魔力を込めることで魔法が使える、魔石が埋め込まれている。
カルーナは、その魔石に魔力を込めて、魔法を放ったのだ。
「うぐっ……」
ピュリシスの体が、どんどんと凍りついていく。
咄嗟の出来事であったため、ピュリシスは対応できない。
「……まさか、私が見ていたのは……」
「……そう、あなたが見ていたのは、氷に映し出された私……」
「……そういうことか」
カルーナは、砂埃が起こってからすぐに、自身のいた場所に氷を作り出した。
それから、直進しピュリシスの後ろまで周り込んだ。
そこで待機し、ピュリシスが氷に攻撃するのを待ったということである。
「み、見事だ……」
ピュリシスの体は、どんどんと凍り、最早動きがとれなくなっていた。
つまり、これは勝負の決着を意味している。
「これで終わり……」
カルーナは、ゆっくりと右手を構えた。
そして、その手に魔力を集中させる。
「これで、私の負けか……」
「小さな紅蓮の――」
カルーナが魔法を放とうとした、その瞬間だった。
「ピュリシス様!」
「何!?」
「お前達は!?」
ピュリシスの体が、その場から離れていく。
毒魔団の部下達が、横から入り込み、その体を運んでいったのだ。
「お前達、なんのつもりだ……」
「ピュリシス様は我らが要!」
「ここで死なせるわけにはいきません!」
「くっ……!」
部下たちはそのまま、洞窟の奥へと駆けて行く。
カルーナは、それを追おうとしていたが、その行く手を毒魔団に遮られる。
「ここは通さん!」
「くっ……!」
カルーナに残された体力は少ないため、この人数は相手できない。
「カルーナさん!」
「我々が!」
しかし、カルーナも一人ではなかった。
イルドニア王国軍の兵士達が、カルーナを助けるために駆け付けたのだ。
「皆さん、ありがとうございます……だけど……」
だが、ピュリシスの姿はもう見えなくなっていた。
奥に何があるかわからない以上、カルーナも迂闊に踏み込むことはできない。
「くっ! ならば、とりあえずお下がりください!」
「こいつらの相手は我々がします」
「……わかりました。お願いします」
それだけ言って、カルーナは後退していく。
ピュリシスとの戦いで、体力も魔力もほとんど消費しているため、少し休むことにしたのだ。
「はあああ!」
「でやあああああ!」
カルーナが下っていると、目の前で戦いが始まっていた。
イルドニア王国軍と毒魔団、二つの兵士達は、ほぼ互角の戦いを繰り広げる。
「だけど……」
しかし、カルーナはイルドニア王国軍の勝利を確信していた。なぜなら、毒魔団側の将ともいえたピュリシスは、敗走した形だ。つまり、士気はかなり下がっている。
一方、イルドニア王国軍は、カルーナの勝利によって、士気が上がっているのだ。
どちらが有利かは、とてもわかりやすい。
「ぐわああ!」
「ぬわああ!」
その様子は、すぐに戦場に現れた。
だんだんと、毒魔団側が追い詰められているのだ。
「……これで、ここは恐らく大丈夫……」
カルーナは、この戦場の勝ちを確信した。
ピュリシスについても、しばらくの間は動くことはできないだろう。よって、カルーナの心配は、自分以外の場所に向く。
「お姉ちゃん、ティリアさん、ガルスさん……」
自分の仲間が、どうなっているか心配でしかたなかった。
「けど……きっと、大丈夫……」
だが、カルーナはすぐに頭を切り替える。
自分の頼もしい仲間達が負けることなど、ないと信じて。




