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赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~  作者: 木山楽斗
第四章 毒々しき心

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第56話 流れし毒

 アンナは、悩んでいた。

 現在、とてもまずい状況であるからだ。


「勇者様……」

「お姉ちゃん……」


 アンナは、カルーナとティリアとともに入浴していた。

 すると、王女であるセリトアが何故か入ってきたのだ。

 そして、セリトアはアンナの隣に陣取った。元々、カルーナが隣にいたので、アンナは二人に挟まれることになってしまったのだ。


「……なんだろう、この状態」


 ちなみにティリアは、カルーナの隣で呑気にしている。彼女は、この騒動をそもそもわかっていない。


「勇者様、ここならゆっくりとお話できますね」

「え? いや、それは……」

「今までの冒険、聞かせてもらえますか?」


 それは、つい先程、またの機会と言ったはずのことだ。


「またの機会にということになったんじゃないでしょうか……」

「だから、この機会にだと思いまして……」

「またの機会……」


 アンナは、セリトアが割りと自己中心的だと思った。一国の王女様のため、甘やかされていたのだろうか。


「王女様? お姉ちゃんは疲れているんです。お風呂の中で、そんな話はしないでください」

「……そうですか。それなら、仕方ないですね……」


 カルーナは笑っていない笑顔で、助け船を出した。すると、セリトアは意外にも簡単に引き下がる。聞き分けはいいようだ。


「勇者様……」

「えっ……!?」


 その代わりというかのように、セリトアはアンナとの距離を詰めてくる。


「む……」

「あっ……」


 それに合わせて、カルーナも距離を詰めてきた。二人に挟まれ、アンナは縮こまる。


「ふ、二人とも? 狭いよ……?」

「そうですか?」

「そんなことないと思うけど」


 何故か、ここだけは二人の意見が合っている。

 その後の風呂でも、アンナは息苦しい思いをするのだった。





 アンナはカルーナとともにベッドに入っていた。

 今日のカルーナは、アンナにかなり接近してくる。


「カルーナ?」

「お姉ちゃん? 何かな?」

「その……」


 アンナは、カルーナに今日のことを聞くべきか迷っていた。そんなことを聞けば、カルーナが気を悪くするかもしれない。

 しかし、聞かなければ、カルーナの真意はわからないため、アンナは意を決し質問することにした。


「カルーナ、今日のこと、嫌だったの……かな?」

「……うん」


 アンナの言葉に、カルーナはゆっくりと頷く。


「だって、王女様……お姉ちゃんに近すぎるもん」

「やっぱり、そうなんだ……」


 やはり、セリトアのことが気になっていたようだ。


「お姉ちゃんから、どうにか言ってくれないかな?」

「うーん、まあ、相手は王女様だし、強く言えないしなあ……」

「だよね。だから、嫌なんだ……だって、立場でわがままを通すなんて、絶対間違えてるもん」

「それは……そうかもしれないけど」


 アンナは、相手が王女だから遠慮している面がある。それが、カルーナにとってはなおさら気にいらないようだ。


「まあ、仕方ないっていうのもわかるんだけど……嫌なものは、嫌なんだ……」

「けど、そんなに気にすることでもないんじゃない。話してみたら、案外いい人かもしれないし……」

「それは……」


 カルーナは、何故かセリトアに対する敵意が大きい。アンナにとっては、それが疑問でもあった。


「お姉ちゃんが、とられる気がして……」

「とられる? そんなことにはならないよ?」

「うん……わかってはいるんだけどね……」


 何か思うところがあるのか、カルーナの表情は晴れなかった。





 毒魔団のメデュシアは、メデューサという魔族だ。

 メデューサは、基本的にはラミアと変わらない見た目をしているが、その髪だけは無数の蛇で構成されている。


 彼女は、同じく毒魔団のピュリシスに呼び止められていた。

 ピュリシスは、セイレーンという種族の女性だ。人間のような体だが、腕にあたる部分は羽になっており、その足は鳥のようである。


「ピュリシス……何用かしら?」

「メデュシア……貴様何を考えているのだ?」

「何を? そんなこと決まっているでしょう。イルドニア王国の攻略を考えているのよ」


 少し怒ったような口調のピュリシスを、メデュシアは軽い調子で躱した。


「攻略……では、その毒をどうしようというのだ?」

「……察しがいいのね。これを、イルドニア王国に流れる川に流し込むのよ」

「なっ!」


 メデュシアの言葉に、ピュリシスは目を丸くする。


「そんな手を使うなど、卑劣だ。我らが将、ラミアナ様は、そんなことを望んではいないぞ!」

「……あの方は甘いのよ。いつまで経っても、正々堂々。そんなことでは戦に勝つことなどできないわ……」

「貴様! ラミアナ様を侮辱するのか!?」


 メデュシアの将を馬鹿にするような発言に、ピュリシスは激昂した。


「忠誠心というのは素敵なものよ。ただ、真の部下は、主の間違いを正すのも仕事」

「戯言を!」

「あら、わかっていないのかしら? このままだとどうなるかを」

「何?」

「現在、魔王軍は劣勢と言ってもいい程よ。いつまで経っても成果が得られなければ、ラミアナ様の立場も危ういわ」

「くっ……」


 メデュシアの言葉には、ピュリシスも納得できる部分がある。

 現在の魔王軍は、二つの魔団を失い、かなり疲弊している状態だ。格魔将に、迅速に成果をあげるように、魔王から通達があった程に。そのため、早く成果を出さなければ、毒魔将ラミアナも危ういのだ。


「戦いは綺麗事じゃないわ……簡単な方法で、相手を疲弊させられるなら、そうするべきなのよ」

「だが、しかし……」

「あなたは、見て見ぬ振りをするだけでいいの。これは、私が独断ですることなんだから」

「あ、ああ……」


 ピュリシスは、メデュシアの甘言に惑わされてしまうのだった。







 イルドニア王国にアンナ達が着いた次の日、事件は起こった。


「よく来てくれたのう……」

「王様!? 一体何があったんですか!?」


 アンナ達は朝早くに、イルドニア王に呼び出された。何か、深刻な問題が発生したようなのだ。


「大変なことになってしまったのだ。国に流れている川に、毒が流し込まれたようじゃ」

「毒……?」

「さらに、それによって、川の近くにある村の住人が……全滅してしまったのじゃ」

「全滅!? そんな……」


 そこで聞かされたのは、衝撃的な出来事であった。イルドニア王国の数多くの村が、一夜にして滅ぼされたのだ。

 実行犯は、考えるまでもなかった。アンナは、拳を握りしめながら、その名前を口にする。


「毒魔団……!」

「なんという卑劣か……我が国の民達が……」


 皆が悲しむ中、一人だけ顎に手を当て、考えている者がいた。それは、ガルスだ。


「……その作戦には、違和感がある」

「ガルス? どういうこと?」

「俺の知る毒魔将ラミアナは、間違ってもそんな手を使うような女ではない。恐らく、何者かが独断で実行した作戦なのだろう」

「でも、それがわかっても……」

「つまり、ラミアナはこのことに必ずけじめをつけるはずということだ」


 次の瞬間、ガルスの言った言葉が真実となった。イルドニア王に、一人の兵士が駆け寄り、耳打ちしたのだ。


「ど、どうやら、毒魔将ラミアナから一報が届いたようじゃ」

「それは……! 一体、どんなことなんですか?」

「……魔宮の洞窟の見取り図と我々への宣言のようじゃ」


 毒魔将ラミアナが渡してきたものは、魔宮の洞窟内で、どこに自身とその部下がいるかというものであった。

 そして、その状態で、戦い決着をつけようという、いわば果たし状のようのである。


「やるしかないみたいだな……毒魔将、ラミアナ……」


 アンナは、まだ見ぬ強敵に対して、体を震わせるのであった。

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