第49話 半人半魔の力
アンナは、ツヴァイとの距離を一気に詰めていく。
ツヴァイは、魔法も使えるため、最早間合いのことなど気にしている場合ではなかった。
「そう簡単に、通すと思うか!」
ツヴァイは、その槍をアンナ目がけて、突き刺した。
「そんな攻撃!」
「馬鹿め! 単純な突きではないわ!」
アンナは突きを躱しながら距離を詰めようとしたが、その瞬間、槍から電撃が放たれた。
「ぐっ!」
「ふん!」
さらに、ツヴァイは槍を大きく薙ぎ払い、アンナの体は大きく弾き飛ばされ、壁に激突した。
「ぐあっ!」
その痛みに声をあげながら、アンナは態勢を立て直す。
「雷の槍!」
「くっ……!」
ツヴァイの一撃によって、壁が破壊され、辺りに破片が散らばった。アンナは、すぐにその場から離れる。
「なんて威力だ……」
ツヴァイの攻撃を見て、アンナは驚愕していた。
槍と魔法の連携攻撃は、とても厄介であり、その威力も大きい。
前回の戦いでは、ツヴァイが正体を隠していたこともあって、魔法を使ってこなかった。しかし、今回は最初から全力の攻撃を浴びせられる。そのため、ツヴァイは相対的に強くなっていた。
「この程度か? 拍子抜けだな……」
ツヴァイは槍を構え直しながら、アンナをあざ笑った。自身の優位を理解し、アンナを見下しているようだ。
「お前には、前回苦しめられたものだが、俺の本気にはついてこられないようだな……」
「……ツヴァイ、何を焦っているんだ?」
「何?」
アンナがそう言うと、ツヴァイが顔を歪めた。
「前のお前は、もっと気高い者だった……だが、今のお前は、見るに堪えない邪悪さを感じる」
「ふっ! 何を言うかと思えば……」
ツヴァイは、明らかに動揺していた。彼も、自身が普通ではないことを理解しているようだ。どうやら、ツヴァイの弱点は、そのコンプレックスのようだった。
「俺は必ずお前を倒し、魔王軍での確固たる地位を得るのだ!」
「だが、そうしたところで周りが、あなたを受け入れてくれるのか……?」
「何……?」
そこを突くのは気が引けたが、アンナも勝つために手段を選んでいる場合ではない。ツヴァイの心の隙を攻撃し、その間に逆転のための準備をする。それが、アンナの今できる作戦だった。
「例え、私を倒したとしても、あなたが半人半魔であることは揺るがない。そして、周りからの評価が変わることなどないだろう」
アンナは、自身の体に聖なる光を巡らせる。ツヴァイの魔闘気に対抗するには、勇者の力、聖闘気しかない。この会話は、それを練るための時間稼ぎに過ぎなかった。
そこで、アンナは聖闘気の特訓を思い出す。
◇
アンナは一度目の交戦から、ツヴァイに対抗できる聖闘気の修得に励んでいた。
実はツヴァイとの戦いの中で、一つだけ手がかりのようなものを見つけることができた。
「魔闘気……」
それは、ツヴァイの纏っていた魔闘気である。闘気と魔力を合わせたそれは、聖闘気と似ていた。そこで、魔闘気の感覚を頼りに、自身の闘気と聖なる光を混ぜ合わせていく。
「これだ……!」
自分の体で、二つの力が合わさっていくのを、アンナは実感していた。
「よし……あれ?」
しかし、アンナが体を動かすと、聖闘気は分離してしまった。どうやら、集中が途切れてしまったためらしい。
「難しいな……」
聖闘気は、かなり集中していなければ使えないようだ。
「だけど、感覚は掴めた」
アンナは確かに、聖闘気の修得を確信するのだった。
◇
その後、何度もやってみたが、動きながら聖闘気を作ることはできなかった。だが、今の状況なら存分に作ることができた。
「周りからどう見られているかなんて、自分の立場で変わるはずだ。私は、ティリアが半人半魔でもなんとも思わなかった」
体に、聖なる光と闘気が混ざり合うのを感じる。アンナの体に、聖闘気が発現する。
「それは彼女の性格やしてきたことが、彼女が信用できると思えるようなことだったからだ。あなたは、鎧魔団の手下達に何をしてきた? 逃げられた理由は、そこにあるんじゃないのか?」
「だ、黙れ……!」
ツヴァイは、アンナの煽りに顔を歪めながら、槍に電撃を走らせた。
「雷の槍!」
そして、その槍を携え、アンナに向かってきた。
「喰らえ!」
「今だ!」
向かってきたツヴァイに対して、アンナは聖剣を振るう。
「無駄だ! 俺の力にそんなものは効かん!」
「聖なる斬撃!」
「何!?」
聖闘気を纏った一撃が、ツヴァイの攻撃とぶつかり合った。激しい光とともに、二つの力が爆発した。
「くっ!」
「ぬうっ!」
二人の体は同時に吹き飛び、壁に叩きつけられた。お互いにすぐに態勢を立て直し、相手を見据える。
「成功した……」
「なんだ? 今のは……」
二人はお互いに構えながら、そう呟いていた。
アンナは、聖闘気による一撃が成功したことを確信し、ツヴァイは困惑していた。
「まさか……俺と喋っている間に何かを?」
そこで初めて、ツヴァイは自身が乗せられていたことに気づいた。
「くっ! 前回と同じ手か……」
ツヴァイが、この手に嵌るのは二回目であった。ツヴァイは、自身の不甲斐なさにイラつきながら拳を握りしめるのだった。
「さて……」
アンナは、相手を観察しながら、再び聖闘気を練り始める。聖闘気を練るには、数秒の時間が必要だった。
そのため、なんとか時間が欲しかったが、それをツヴァイは許してくれそうもない。だが、少量なら作り出すことができる。
「行くぞ!」
ツヴァイは再び、槍に電撃を込めていた。次の一撃が来ることを予感させる。
アンナは、ぎりぎりまで聖闘気を練ることに専念する。少しでも多くの聖闘気を作り出さなけらば、その一撃に対抗できないかもしれないからだ。
「喰らえ!
「おおっ!」
飛び掛かってきたツヴァイに対して、アンナは聖剣を構えた。先程よりも威力は劣るかもしれないが、それでも聖闘気を纏った攻撃が行える。
「雷の槍!」
「聖なる斬撃!」
聖剣と槍が、再びぶつかり合う。
聖闘気と魔闘気、二つの力が混ざり合い、大きな光が放たれる。
「くううっ!」
「ぬうっ!」
だが、先程と違い、二つの力は拮抗してはいない。
アンナよりも、ツヴァイの力の方が大きく、アンナは、どんどん後退していった。
ツヴァイは、笑みを浮かべながら、言い放った。
「はは! さっきの力は使えないようだな!」
「くううっ!」
ツヴァイの魔闘気は、予想よりも強力であった。アンナが、あれだけの時間をかけて練った聖闘気で、やっと互角なのである。
「お前の力が何かは知らんが、そんな力では俺に勝つことなどできない!」
「くっ……!」
アンナの体は、大きく吹き飛んだ。
「くううっ!」
アンナは痛みを確信し、歯を食いしばって衝撃に備えた。
しかし、その痛みが訪れることはなかった。
「えっ……?」
アンナの体は、何もかに受け止められており、壁に衝突することはなかった。
「まさか……いや……」
一瞬、カルーナが自分を助けてくれたのかと思ったが、華奢な彼女が、吹き飛んできた自分を受け止めることは難しいと、直後に思い至った。そもそも、背中の感覚が、自分よりも大きな男であると感じさせた。
「な……何故、お前が……?」
ツヴァイの方を見ると、驚きに顔を歪めていた。その驚き様も、カルーナではないことを表していた。
ゆっくりと、後ろを振り返ると、アンナもよく知っている人物がそこにいた。
その人物は、ゆっくりと口を開いた。
「無事か……? アンナ……」
「あなたは……竜魔将……ガルス!?」
そこには、死んだはずの竜魔将が立っていた。




