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赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~  作者: 木山楽斗
第一章 勇者の旅立ち

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第17話 剛魔将デルゴラド②

「ぶははは! 行くぞ! 勇者」


 自ら鎧を砕いたデルゴラドは、大地を蹴りながら、アンナに向かってきた。

 そのスピードは、鎧をまとっていた時よりも速かった。


「くっ!」


 先程までの攻防で、アンナはかなり疲労していた。

 体中から、痛みを感じ、肉体的にも、精神的にも厳しく感じていた。

 それでも、なんとか気合で、体に力を入れる。

 アンナは剣を構えて、その攻撃に備える。

 正面から攻撃してきたら、受け流すつもりだった。

 今度は、遠距離攻撃でも、受けられる心構えができていた。


「ふん!」


 デルゴラドは、正面から棍棒を振るってきた。


受け流し(パリィ)!」


 アンナは、当然その攻撃を、受け流しにかかる。


「ぶはは」

「何っ!?」


 しかし、その瞬間、意外なことが起こった。

 デルゴラドが、その棍棒から手を離したのだ。

 受け流しによって、棍棒は吹き飛んだが、アンナが無防備になってしまった。

 その行為に、アンナは思わず、目を見開いた。

 戦闘中に、武器を放つ、その行動を予測することが、まったくできなかった。

 次の一撃は、確実に喰らうことになる。

 アンナは、歯を食いしばりながら、攻撃に備えることしかできなかった。


「さあ! 行くぞ!」


 デルゴラドは、大きく腕を振り上げ、そこに闘気が集中する。

 空気が震え、アンナは恐怖を感じていた。


鬼の一撃(オーガ・ストライク)


 デルゴラドの拳が、アンナに対して振るわれた。

 大きな衝撃が巻き起こり、アンナの体が、大きく後ろに吹き飛んだ。

 激しい痛みとともに、アンナの意識は、薄れていった。





 アンナの体が地面に落ち、そして動かなくなったのを見て、デルゴラドは勝ちを確信した。

 恐らく、まだ息はあるだろうが、このままとどめを刺せばいいだけだ。

 そう思いながら、デルゴラドがアンナに近づこうとすると、後方から気配を感じた。

 その瞬間、後ろから声が放たれた。


小さな(リトル)紅蓮の火球(ファイアー・ボール)!」


 さらに、デルゴラドに、炎の弾が当たり爆発した。

 威力自体は大したことはなかったが、デルゴラドは後ろを振り返った。


「何……?」


 デルゴラドの目に、一人の少女が映った。


「お姉ちゃんに、近づくな……」


 それは、カルーナであった。

 カルーナは、ボゼーズを倒した後、すぐにアンナを追いかけた。

 そして、ここに着いた時、倒れているアンナが目に入ったのだ。

 そこで、現状を大まかに把握した。

 自分がアンナを助けなけらばならないと、攻撃を放った。


「ほう、確か勇者の仲間だったか……?」


 デルゴラドの方は、その少女が、以前ボゼーズから報告された時、アンナの後ろにいた者であると思い出していた。

 それを認識した瞬間、デルゴラドの心は怒りに満ち溢れていた。

 なぜなら、この少女が、ここに来たということは、一つのことを表すからだ。


「ボゼーズに、ここには誰も通すなと言ったはずだが……?」

「ボゼーズなら、私が倒したよ……」

「貴様のような小娘が……ボゼーズを、倒しただと」

「……気になるなら、見て来ればいいよ」


 カルーナは、デルゴラドの反応から、彼がボゼーズを大切に思っていたことがわかった。

 心苦しかったが、今はそれを利用させてもらった。

 デルゴラドの怒りがこちらに向けば、アンナを助けることができるからだ。


「……」


 デルゴラドの体は、震えていた。

 長年付き添ってきた忠臣を失ったことにより、その心中は激情に駆られていた。

 そして、その感情は、目の前の少女に向けられることになった。


「許さんぞ! 小娘!」

「く……!」


 デルゴラドが、カルーナに向かってきた。

 カルーナは、震えていた。大きな威圧感に、恐怖を感じていた。

 カルーナの体は、ボゼーズの戦闘で、かなり疲労していた。

 そのため、瞬発的に動くことができなかった。


「ふん!」

「きゃあ!」


 デルゴラドの一撃によって、カルーナの体は、地面に叩きつけられた。

 カルーナは、痛みに声をあげたが、思ったよりもその一撃が重くないことに気がづいた。

 デルゴラドは、地面に倒れたカルーナを見下し、冷たい目で言い放った。


「立ち上がれ、ただでは殺さんぞ。徹底的に痛めつけてやる……」

「はあ、はあ……」


 デルゴラドの目は、怒りに満ちていた。

 どうやら、ボゼーズのことがよほど大切だったらしく、カルーナに多大な憎しみを抱いているようだった。

 だが、アンナを助けたかったカルーナにとっては、それが好都合だった。

 デルゴラドが、自分を痛みつければつけるほど、アンナが回復する時間を稼げるからだ。


(私の役目は、それでいい。後は、お姉ちゃんがなんとかしてくれる……)


 カルーナは、確信していた。アンナは必ず立ち上がり、自分を助けてくれると。


「はあ、はあ」

「そうだ。それでいい」


 カルーナは、痛みを堪えながら、ゆっくりと立ち上がった。

 デルゴラドは、カルーナに手を伸ばし、その頭を掴み、持ち上げた。


「このまま、握りつぶしてもいいのだがなあ」

「あが……」


 頭にかかる力にカルーナは、声をあげた。

 少しでも力が強くなれば、カルーナの頭は破裂してしまうだろう。

 しかし、その痛みの中で、カルーナは、ある一つのことを認識していた。

 そのことに、無意識に口の端を釣り上げてしまった。


「何を笑っている……?」


 それを奇妙に思ったデルゴラドの耳に、自分でもカルーナでもない声が聞こえてきた。


「やめろ……!」


 それは、鋭い怒りが込められた少女の声であった。


「何……!? まさか!?」


 デルゴラドが後ろを振り返ると、一人の少女が立ち上がっていた。


「勇者……!?」


 そこには、勇者アンナの姿があった。





 アンナは、混濁する意識の中で、カルーナが自分を助けにきたことを認識していた。

 しかし、体を動かすことができないでいた。

 痛みと疲労によって、体は限界のように思えた。

 そこで目に入ったのが、カルーナが、デルゴラドによって痛めつけられる姿であった。

 その姿を見た瞬間、アンナの心に怒りが湧いた。それと同時に、体に力が入った。

 そして、デルゴラドに対して、言い放ったのだ。


「今更、立ち上がり何になる?」

「その手を離せ……」

「ふん……離すはずがなかろう」

「あぐ……」


 デルゴラドは、カルーナを掴んだまま、アンナの方に体を向けた。


「攻撃できるか? こいつに当たるぞ?」


 デルゴラドは、口の端を歪めながら、そう言い放った。

 カルーナを盾にするという卑劣な方法に、アンナは深い怒りを覚えた。

 心の奥底が、燃え上がるような感覚に陥り、今までにないほど、怒りが湧いた。


(許さない……だけど、今は、怒りに任せても意味がない)


 だが、その怒りが逆に、アンナを冷静にしていた。

 怒りに任せても、カルーナを助けられないと、状況を分析することができていた。


「ぶはは、無理か? なら、こちらから行こう!」


 デルゴラドが、ゆっくりとアンナに近づいてくる。

 正面から戦えば、カルーナを巻き込んでしまう。

 アンナは、加速する思考の中で、ある一つのことを考えていた。

 それは、王城で見た、勇者に関する書物を見てから、ずっと考えていることだった。


(勇者とは、聖なる光を使う者。聖なる光、それが聖剣なのだとしたら)


 アンナは、手に握る剣に注目する。

 光のように、白い剣は、いつもと変わらず輝いていた。


(これが、聖なる光なら、剣の形をしている必要がないはずだ……)


 アンナは、目を瞑り、心の中でイメージする。聖なる光のイメージを、形作っていく。

 今、手に持っているのは剣ではなく、聖なる光の力なのだと、自分に認識させる。


(……はっ!)


 そして、掴んだ。今、アンナの手には、聖なる光が宿っていた。


「終わりだあ!」


 正面には、カルーナを盾にしながら、アンナを攻撃しようとしているデルゴラドの姿があった。

 アンナは、聖剣を振るった。


「バカめ! こいつに当たるだけだ!」


 剣の軌道は、明らかにカルーナを斬る軌道であった。

 そのため、デルゴラドは、勝利を確信していた。

 しかし、結果はまったく異なるものになった。


「聖なる光よ! 曲がり、そして、伸びろ!」


 アンナがそう叫ぶと、聖剣は変形し、カルーナから軌道を外していった。

 さらに、デルゴラドの体を周り、背中に剣の先が突き刺さった。


「ぐああ!」


 デルゴラドは、不意の痛みに驚き、カルーナからてを離してしまう。


「カルーナ!」

「お姉ちゃん!」


 落ちるカルーナを受け止めながら、アンナは、デルゴラドから距離をとった。

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