噴水広場
切れまくりの息を整えようと何度も深呼吸を繰り返す。美和ちゃんも深呼吸をしている。でも、僕とはまるで違う。山の上にはいるかのように、気持ちよさそうに思いっきり空気を吸い込んでいる。
視線が合うと、思わず笑いがこみ上げてきて弾けた。
ステージの興奮と、いたずらをした後の高揚感みたいなものが、笑いとなって弾けている。美和ちゃんの楽しそうに笑う姿に、さらに弾ける。
木々と植栽に囲まれた噴水広場には人の姿はなく、遠くからざわめきだけが届いている。そんな場所に、僕らの笑い声だけが弾けていた。
「なんか気持ちよかったね」
美和ちゃんの声に、僕の言葉が続く。「最高だった。歌めちゃくちゃうまいんだね」
「いやいや。それより大ちゃん、あの曲吹けるんだね」
僕が、昔にちょっとね、というと美和ちゃんは、小さくうなずいた。なぜか、瞳が潤んで見える。
時々、そんな表情を浮かべる美和ちゃん。僕が何もいっていないのに、この曲大好きだから、と言い訳のように言葉を返してくる。そして、あえて話題を変えるように、
「なんか喉渇いちゃったね」
彼女の胸のうちが気になりながらも、「じゃあ、ジュースでも買ってくるよ。遅刻のお詫びに奢っちゃうから、美和ちゃん、なんか飲みたいものある?」
あえて、ふれることなく、言葉を返した。今はそうすることが一番いい。そんな気がしたから。
「ほんとに? じゃあ、何でもいいよ」
「何でもっていうのが、けっこう困るんだよね」
「大ちゃんのセンスで、最高のをお願いします」
「マジで」
「はい。センスのお手並み拝見です」
美和ちゃんがニヤニヤと、楽し気にほほ笑んでいる。
「分かった。文句はなしだからね」
首にかかるストラップからはずしたサックスを美和ちゃんに預け、ざわめきに向かって走った。