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僕らのガッカリ桜  作者: ゆらゆらゆらり
安田大地編
8/58

弾ける

 美和ちゃんの歌声に、体の中の何かがあふれ出してる。それが息となって吹き込まれていく。指が躍るようにはしゃいでいる。

 今まで抑えていたもの、抑え込んでいたものが吹き飛んでいく。


 小3だった頃の自分が浮かんでくる。

 必死に練習していた自分。大変できついのに楽しくてしょうがなかったあの頃。


 僕は……僕はサックスが……。


 指は止まり、音はやんでいる。いや、新たな音が――拍手が聞こえてくる。いくつもの大きな拍手が。

 気付かぬうちに、ステージ前に人が集まっている。


 ヤバイ!


 美和ちゃんへと視線を向ければ、彼女も僕を見ている。

 ステージ前の状況に焦る僕に対し、美和ちゃんは楽しくてしょうがない、そんな顔をしている。


 とその時。




「おいっ! 勝手に何をしている」


 大声が聞こえたと思ったら、拍手をする人をかき分けるようにして、誰かが近づいてくる。

 髪をピッチリとセットし、眼鏡を掛けた中年男性が舞台下で足を止めた。スーツの胸元には、関係者だということを示す小さな身分証らしきものがある。

 鋭い眼光が、斜め下から突き刺さってくる。


 これはマジでヤバそうだ。

 どうする? と視線をそっと横へと流すと、


「行こう!」


 美和ちゃんは声と同時に走り出し、両手を広げてステージから舞った。


「マジかよ」


 そうするしかなさそうだ。っていうか、僕の体も動いている。サックスを抱きしめて、舞台から飛び降りた。

 そして、美和ちゃんの背中を追って走った。


 逃げ出していく僕らなのに、拍手が見送ってくれていた。




――取り残されたサックスケース。それには、まったく気付いていなかった。


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