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僕らのガッカリ桜  作者: ゆらゆらゆらり
安田大地編
5/58

遅刻の代償✌

 やはり、今日は祭り日和で間違いない。多くの人が公園の入り口へと流れていく。待ち合わせているのか、入口横には立ち止まっている人の姿も見受けられる。

 だが――その姿はどこにもない。

 周りを何度も確認にしても、やっぱり……。


 入口横の大時計へと目が向かう。


「20分遅刻か……」


 キズナという綱があるとするなら、家族、恋人、友達は太い綱でも、昨日出会ったばかりの彼女との間にあるのは細い紐。いや、20分も遅刻すれば簡単に切れてしまう蜘蛛の糸だったということか。


 愚かさにため息が漏れる。


 それでも、あきらめきれずに中へと向かい、キョロキョロと視線を走らせる自分がいる。

 目に映る楽しげな人たちに、もうひとつため息が。


 あぁ、あれを一緒に食べたかったなぁ……。


 露天の店主に母親が支払いをしている横で、焼きそばを手にした男の子が待ち切れなかったのか、一本つまんで麺の先をくわえると同時に、するっと吸い上げた。


 家に帰って、父ちゃんの蕎麦をすすって、胃も心もなぐさめるしかなさそうだ。


 今日は手に持つサックスのケースがやけに重い。その重みを感じながら振り返ると、


「おっそい!」


 その声に視線が泳ぐ。向かうべき場所を求めて。

 貯水池を囲むように立つ桜。

 人の流れを避けるようにして、一本の桜に身を寄せている姿。

 握られた割りばしが指差すように僕に向かっている。


 ほんの数メートルだけど、人の間を縫って走った。そして、すかさず、ごめん、と声をかけた。


「遅いから、食前デザートにチョコバナナ」、しかめっつらで、「食べちゃった」


 そう言って、バナナがささっていたであろう割りばしを放り投げた。

 回転した割りばしが綺麗な弧を描き、大きな段ボール箱に。


「あれっ?」


 美和ちゃんは、こけるような仕草でガクンと体を崩した。

 道横にゴミ箱として設置されている段ボール。その手前に着地している。

 拾いに向かいかけた僕の横を、美和ちゃんが跳ねるように過ぎ、割り箸を拾い上げると、


「頼むよ……」


 割りばしを見つめて呟くように声をかけ、ごみ籠の上で手を広げた。

 その姿に自然と顔の筋肉が緩んでいく。

 振り返った美和ちゃんに、改めて遅くなったことをあやまると、


「いきなり遅刻とは、お主もやるのう。本来なら切腹だが、今日のところは焼きそば奢りでゆるそうではないか」


 真剣な顔で時代劇風に言う美和ちゃんに、一瞬、戸惑ったがすぐに、


「はぁっ、はあー。奢らせていただきます」


 立ったまま土下座のマネをして頭を下げた。そして、ゆっくり顔をあげると、にっこり笑顔が迎えてくれていた。


「じゃっ、行こう大ちゃん!」


 美和ちゃんの弾む足取りに、僕の心も弾んでいた。


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