遅刻の代償✌
やはり、今日は祭り日和で間違いない。多くの人が公園の入り口へと流れていく。待ち合わせているのか、入口横には立ち止まっている人の姿も見受けられる。
だが――その姿はどこにもない。
周りを何度も確認にしても、やっぱり……。
入口横の大時計へと目が向かう。
「20分遅刻か……」
キズナという綱があるとするなら、家族、恋人、友達は太い綱でも、昨日出会ったばかりの彼女との間にあるのは細い紐。いや、20分も遅刻すれば簡単に切れてしまう蜘蛛の糸だったということか。
愚かさにため息が漏れる。
それでも、あきらめきれずに中へと向かい、キョロキョロと視線を走らせる自分がいる。
目に映る楽しげな人たちに、もうひとつため息が。
あぁ、あれを一緒に食べたかったなぁ……。
露天の店主に母親が支払いをしている横で、焼きそばを手にした男の子が待ち切れなかったのか、一本つまんで麺の先をくわえると同時に、するっと吸い上げた。
家に帰って、父ちゃんの蕎麦をすすって、胃も心もなぐさめるしかなさそうだ。
今日は手に持つサックスのケースがやけに重い。その重みを感じながら振り返ると、
「おっそい!」
その声に視線が泳ぐ。向かうべき場所を求めて。
貯水池を囲むように立つ桜。
人の流れを避けるようにして、一本の桜に身を寄せている姿。
握られた割りばしが指差すように僕に向かっている。
ほんの数メートルだけど、人の間を縫って走った。そして、すかさず、ごめん、と声をかけた。
「遅いから、食前デザートにチョコバナナ」、しかめっつらで、「食べちゃった」
そう言って、バナナがささっていたであろう割りばしを放り投げた。
回転した割りばしが綺麗な弧を描き、大きな段ボール箱に。
「あれっ?」
美和ちゃんは、こけるような仕草でガクンと体を崩した。
道横にゴミ箱として設置されている段ボール。その手前に着地している。
拾いに向かいかけた僕の横を、美和ちゃんが跳ねるように過ぎ、割り箸を拾い上げると、
「頼むよ……」
割りばしを見つめて呟くように声をかけ、ごみ籠の上で手を広げた。
その姿に自然と顔の筋肉が緩んでいく。
振り返った美和ちゃんに、改めて遅くなったことをあやまると、
「いきなり遅刻とは、お主もやるのう。本来なら切腹だが、今日のところは焼きそば奢りでゆるそうではないか」
真剣な顔で時代劇風に言う美和ちゃんに、一瞬、戸惑ったがすぐに、
「はぁっ、はあー。奢らせていただきます」
立ったまま土下座のマネをして頭を下げた。そして、ゆっくり顔をあげると、にっこり笑顔が迎えてくれていた。
「じゃっ、行こう大ちゃん!」
美和ちゃんの弾む足取りに、僕の心も弾んでいた。