第十五話 想いのバトン
「……これで、最後ですね」
桜月の言うとおり、リベカの手記の記述はそれ以降ない。
「たぶん、イオツミスマルの空間に封印した後、力尽いちゃったんだね。そうでなかったら、バノルス王家に伝わってたはずでしょ?」
「……そうですね」
五月の指摘に、桜空は頷くしかない。
桜空は、バノルスは、最後の神器――ムーンライト・カノンと、ケセフ・ヘレヴの存在を知らなかった。
つまり、リベカの最期の家族への言葉は、届かなかったということだ。
桜月の話では、数時間ほど移動しないと、封印した場所にまではたどり着けないという。
そのような場所に、命を賭してまで封印したのは、何も策がないままに遭遇しないようにした愛情なのだろうか。
今となってはわからない。
それでも、家族をひたすら愛し続けてきた一人の女の人生が、気持ちが、ありありと伝わってきた。
それは、気の遠くなるほど永い時間を経て、今の五月にも注がれている。
幸せを願われている。
たとえ残酷な運命を背負わせようとも、一人でも多くの人を救おうとする儚い姿が頭に浮かんだ。
「これを発見する前からわたしは『オラクル』に目覚めたんですけど、それからは先ほど話した通りです。それで、五月と母様の準備が整ったと思ったので、イオツミスマルを使ってこちらに来たんです。『エターナル・カーズ』の影響は完全に消え、魔法を自由自在に使え、それに耐えられる体になった。これなら、ケセフ・ヘレヴを破壊して、全てを終わらせることができる」
「つまり、ご先祖様はわたしたちと協力して、ケセフ・ヘレヴを破壊しようというのですか?」
桜月は頷く。
「……ですが、桜月、本当に『エターナル・カーズ』は終わったんでしょうか? すごく不安です」
「大丈夫ですよ、母様。すでに、わたしが『オラクル』と『アナライズ』の合成魔法で調査済みです。すでに、わたしにまとわりついていた魔力がなくなり、母様たちも元通りです」
「そうですか……。桜月が言うなら、そうなんでしょうね」
なんでも、桜月が最も得意としていて、さらに詳しいのが黒魔法らしい。
それに加えて「オラクル」を合成した「アナライズ」を使って元通りだということは。
「……つまり、呪いは終わったのですか?」
恐る恐る五月は尋ねる。
五月を、みんなを、絶望の淵に叩き込んだ、永遠の呪い。
それを乗り越えるために、ズッ友と離れてまで努力してきたのだ。
それが、ようやく終わったのだろうか。
五月は、桜月の返事を待つ。
それは、たったの数秒かもしれない。
それでも、五月にとっては時が止まっているように長く感じた。
「はい。もう、大丈夫ですよ、五月。呪いに、打ち勝てたんです」
本物のお母さんのような、優しい微笑みを浮かべて桜月は言った。
「……そうですか」
思わず、安どのため息をつく。
これで、みんなを巻き込まなくて済むのだ。
これからずっと一緒にいても、もう呪わなくて済む。
欲しかった幸せがつかめるかもしれない。
ただ、そのためには、あと一つのピースが必要だ。
「ということは、あとはケセフ・ヘレヴを破壊すれば、全てが終わる、そういうわけですね」
五月の問いかけに、桜月は頷く。
「そうです。そのためにわたしは来ました」
そして、居住まいをただして言った。
「お願いです。このままイオツミスマルの中に封印しても、破れるかもしれません。現に、イオツミスマルの封印してある空間との境界付近では、ケセフ・ヘレヴの瘴気が溢れていますし、母様が起こした祟りの原因となった疫病は、おそらくケセフ・ヘレヴのせいなのです」
「……どういうことですか?」
桜月が口にした、疫病はケセフ・ヘレヴによるものということ。
祟りを起こしてしまい、さらに夫を喪った桜空にとっては、聞き捨てならないことだった。
そのつらさを桜月も痛いほどわかっているので、思わず顔をゆがめる。
「ケセフ・ヘレヴは魔力を吸い上げます。
魔力はこちらの地ではわずかしかありませんが、わたしたちが魔法を使えることから、存在することは明らかです。
そして、ケセフ・ヘレヴは、イオツミスマルと同じ神の力から生まれた神器です。
いくら封印されているとはいえ、イオツミスマルの力を凌駕してもおかしくありません。
つまり、ケセフ・ヘレヴがこの地の人々のごくわずかな魔力を吸い、魔力消費性疲労症になった。わたしたちは魔法を使えるほど魔力があったから、その症状は軽かった。
そういうことになると思います」
「ですが、それでは今までその疫病が再び起こらなかったことに説明がつかないです。それはなぜでしょうか?」
確かに、桜月の言う通り、ケセフ・ヘレヴが祟りの原因となった疫病を起こしたと考えるのが自然だろう。
たとえ神器の中にあろうが、同じ神の力であるので、イオツミスマルの封印からあふれ出る可能性が高い。
ただ、もしそうならば、たびたび同じような疫病があったとしてもおかしくないはずだ。
それなのに、そのような記録を五月は見たことがない。
絶対になかったとは言えないが、不自然だと五月は思った。
その五月の疑問に、桜月は答えを知っているかのように、すぐに答えた。
「それは、わたしが宝物殿に魔法を施して、影響を抑えたからだと思います。最初は宝物殿の維持を考えてのものでした」
「そういうことか。だから地震の時とか宝物殿は無事だったんだ」
桜月の説明に、以前から感じていた、宝物殿だけが無事だったことに、その理由がわかって五月は腑に落ちた。
同時に、やはり桜月がやっていたのかと納得もする。
「そうですね。地震などではわたしの魔法は破れません。
ただ、それだけではないのです」
さらに桜月は続けた。
「ケセフ・ヘレヴを封印していたイオツミスマルの空間の境界にいた時、先ほども言った通り瘴気が溢れていて、わたしを襲ってきたんです。難なく退けましたが、このままだとまずいと思ったので、イオツミスマルの力を使って、ケセフ・ヘレヴを封印してある空間を、さらに何重にも施したんです。そうしたら、瘴気どころか、ケセフ・ヘレヴの魔力すら感じなくなりました。おそらく、それが一番の理由だと思います」
「その『瘴気』って何ですか?」
先ほどから何度か出てきた「瘴気」。
実際にケセフ・ヘレヴと対峙したことのない五月にとって想像ができないものなので、あまりピンとこなかった。
「もともとは熱病を起こさせるような、毒のある気のことなんですけど、簡単に言えば、ケセフ・ヘレヴの魔法によって生じた、忌々しい影のようなものです。とりあえず、不吉な雰囲気を持つもの、という感じです」
「つまり、イオツミスマルの力を使って、普段の空間との遮断を強めたら、その瘴気とか、ケセフ・ヘレヴによる影響、魔力が、完全になくなったということですね?」
「そうです」
桜月の言葉を五月が言い換えたが、合っているようだ。
要するに、桜月が宝物殿に施した魔法と、イオツミスマルの魔法とで、ケセフ・ヘレヴの影響を抑えることができたから、今まで祟りのようなことは起こらなかったということだ。
そう考えると、この状態を維持していれば、ケセフ・ヘレヴはないに等しいといえる。
そのことに気付いた桜空が、桜月に尋ねた。
「でも、そうであるならばケセフ・ヘレヴを破壊する危険を冒す必要はないのではないですか?」
しかし、桜月は首を横に振った。
「確かに、今の状態がずっと続けば理想です。ですが、リベカが封印した後、母様たちは『オラクル』を使えなかったとはいえ、ケセフ・ヘレヴの存在はおろか、かすかな異常な魔力すら知らなかったのですよね?」
「……そうですね。確かに、何も感じませんでした。でも、感じていれば……」
「はい。もしそうなら、イオツミスマルの中を探索したはず。でも、何も見つからないってことはないはずです。少なくとも、リベカの手記とムーンライト・カノンが保存されていたのですから。
つまり、ケセフ・ヘレヴの封印は、以前は完璧だったのに、わたしが調べたら、異常を感じた。ということは、その封印はいつか破れてしまうものだということです。そうしたら、最悪、ゴルゴタでの暴走の再現となってしまうかもしれない」
ケセフ・ヘレヴの封印は、永遠ではない。
もし破れれば、ゴルゴタ一帯で敵味方問わず殺し尽くして、骨しか残らなかったことと、同じことが起きるかもしれない。
惨劇の繰り返しだ。
なにより、今まで幸せになるためにもがいてきた努力が、思いが、そして、大切な仲間が、みんな惨たらしく消え去ってしまう。
みんな、死んでしまうかもしれない。
底知れない恐怖を感じて、寒気がする。
最初にそれを知った桜月は、同じような思いをしたのだろう。
それでも、一人でずっと耐え抜いてきたのだ。
だからこそ、今こうして五月たちの前にやってきた。
これ以上、残酷な運命を繰り返さないために。
そのため、改めて居住まいをただして、凛と透き通る、力強い声で五月と桜空に言った。
「改めて、お願いします。わたしと協力して、ケセフ・ヘレヴを破壊してください。命の危険を伴います。ですが、もう、この残酷な運命の繰り返しを、止めなくてはならない。今ここに、三人の魔女がいるうちに。今が最後の機会なんです。どうか、お願いします」
そのまま勢いよく頭を下げる。
心の底から頼み込んでいて、思わず委縮してしまいそうなほど、桜月の気持ちが伝わってくる。
そして、その気持ちは、五月と桜空も元々持っていた。
それに、呪いを乗り越えた今、残りはケセフ・ヘレヴだけ。
これが、最後だ。
ケセフ・ヘレヴを破壊すれば、魔法による悲劇の連鎖が終わる。
そして、イオツミスマルを使えば。
魔法の終焉だ。
今切り札を使って魔法を滅ぼしても、同じ神の力を持つケセフ・ヘレヴがどうなるかわからない。
そうなると、やるべきことは決まっている。
三人で協力して、ケセフ・ヘレヴを破壊するのだ。
五月は桜空に視線を向ける。
すでに桜空も五月を見つめていた。
やがて、桜空は微笑を浮かべる。
臨むところだ、と言っているように。
そして、二人は桜月へ視線を向け。
「もちろんです。全てを終わらせましょう」
幸せをつかむために、ともに立ち上がった。
※
「……そういうわけで、この人がご先祖様の桜月。仲良くしてね」
「源桜月と言います。皆さん、よろしくお願いします」
翌日、桜月は退院したので、三人で決めたことを説明しながら、桜月のことを「橘のそばで」で、お義母さん、綾花、そしてみんなに紹介した。
みんな体調を心配していたが、すでに元気なことを言ったら、みんな安どの表情を浮かべ、さらに桜空の時と同様、みんな積極的に声をかけてくれて、早くもなじみつつある。
すぐに仲良しグループになるに違いないだろう。
「それじゃ、みんな、注文は何にする?」
ひと段落着いたところを見計らって綾花が注文を取る。
「桜月、野菜かき揚げがおすすめだよ。あ、あたしはそれで」
「佳菜子、確かに一番人気だけど、それだけじゃないでしょ? 桜月、ここは笊蕎麦で! 綾花さん、ワタシはそれでお願いします」
「えっと、……うーん、とりあえず、野菜かき揚げ蕎麦でお願いします」
「それじゃ、うちも野菜かき揚げで!」
「リーは天笊をお願いするわ」
「あたしは笊蕎麦で」
「うーんと、アタシは野菜かき揚げ蕎麦で」
「あたしも野菜かき揚げ蕎麦にしようかね。綾花、それで頼むよ」
「じゃあ、俺も野菜かき揚げ蕎麦でお願いします」
「綾花、わたしも野菜かき揚げで」
「じゃあ、私も五月と同じ、野菜かき揚げでお願いします」
「はいはい……。はい、確認しますね。野菜かき揚げが八枚、笊蕎麦が二枚、天笊が一枚ですね。少々お待ちください」
そのまま綾花は厨房へと向かう。
その後もみんなでワイワイ話して過ごしていたのだが、ふと思い出したようにかなちゃんが手をたたく。
「そういえば、巫女さん、裕樹さん」
「ん? なに、かなちゃん?」
「佳菜子ちゃん、どうしたの?」
なにかと思えば、裕樹と一緒に呼ばれる。
みんな視線をかなちゃんに向ける。
「いやあ……、あんまり大声で言えないかもしれないけど、ね。……どのくらい仲進んだの?」
それを聞いた瞬間、顔から火が噴き出たように熱くなるのを五月は感じる。
「そういえば、この前よりミーちゃんと裕樹さん、距離近いよね」
「……もしかして、いつの間にか進展してた?」
「何があったの!?」
あっという間にマリリン、柚季ちゃん、亜季ちゃんが大騒ぎ。
「そういえば、五月は温泉入った時、早めに上がりましたよね? その時でしょうか?」
そこに、桜空が爆弾を投下すると、裕樹までもが赤くなった。
五月も鼓動が強く、速くなるのがわかり、俯く。
「え!? 五月ちゃん、何があったの!?」
「……ふっ。うらやましくないわ。ええ。ええ。ちっとも。これっぽっちも」
「え、ええっと……」
しどろもどろになるしかない。
埒が明かないと思ったのか、かなちゃんが裕樹にまるで犯人だと告げるように指さした。
「はい! そこ! 裕樹さんは!?」
「え……。そ、それは……」
「おや。だんまりかい? 別に認めたっていいじゃないか。お互い、好きなんだろう?」
そこにお義母さんの追い打ちで、完全に五月と裕樹の頭はショート。
何も言えない状況になった。
「……いつまでもたもたするのかねえ」
「なるほど。そういうことですね? 母様?」
「そうですね、桜月。なんかもう、これだけでお腹いっぱいになりそうですね」
「そうですね。すごく甘いです」
そんなお義母さんと桜月、桜空の呆れた声も届かない。
どうやらみんなであれこれ言っているようだったが、その声も五月と裕樹には届かなかった。
ただ、蕎麦が届いてからはそれは終わり、皆黙々と蕎麦を食べた。
特に、桜月は。
「なんですかこれ!? すごいですね!? こんなおいしいものがあったんですね!?」
桜空と同じ反応をしたのであった。
いかにも親子らしい。
※
「それじゃあ、始めますか」
その日の夜、さっそくイオツミスマルの中に三人は集まった。
ケセフ・ヘレヴを破壊するために、魔法の練習をするためだ。
始めにケセフ・ヘレヴの様子を見たかったのだが、桜月によると、封印を強めた結果、見えなくなってしまったとのことなので、いつもの場所で開始するところだ。
「それで、桜月。ここに来るまで色々準備していたみたいですけど、もしかして何か作戦を考えてきたのですか?」
桜空の言うとおり、ここに桜月が来たということは、何かしらの策を考えているといってもいいだろう。
相手は神の力を宿した神器だ。
一人で神器二つを使ったとはいえ、リベカが何とか封印したほどなのだから、苦戦は必至だろう。
最悪、死ぬどころか、全滅しかねない。
たとえ破壊できても、生きて帰れなければ意味がない。
勝って、生還するための策が必要だった。
「はい。今、ここに神器が三つあります。『ヤサコニ・イオツミスマル』、『桜襲』、『ムーンライト・カノン』です。この神器を、わたしたち三人が、一つずつ使って連携し、それぞれの神器を最大限生かす。その振り分けは、一番イオツミスマルの扱いに慣れている母様がイオツミスマル、わたしが桜襲、慣れないのに申し訳ないのですけど、五月がムーンライト・カノンがいいかと思います」
神器は一人で複数使うことも可能だ。
しかし、使うのは生身の人間。魔法の補助があったとしても、やはり判断が遅れたり、うまく扱えなかったり、慣れていなかったりで、存分にその力を発揮できないことが考えられる。
そのため、一人一つずつ神器を使った方が、役割分担もできて、より効果的だろう。
「まあ、それが妥当ですね。ちょっとわたしが苦労しそうですけど、同じ神器ですから、一週間ほどで扱いに慣れようと思います」
桜空と桜月は扱いに慣れている神器を使うことになるが、五月は未知の神器を使うことになる。そのため、一週間ほど練習が必要だった。
ただ、以前のような悲観的な態度ではなく、使命感に燃えているような、力強さがある。
魔法の腕をあっという間に向上させたセンスもあるので、十分使いこなせるはずだ。
「では、とりあえず、五月からですね。お願いします」
「うん」
桜空に促され、五月は魔力を集める。
今回からは本番同様、桜空だけがイオツミスマルと繋がり、五月と桜月はそれぞれ自分が担当する、ムーンライト・カノン、桜襲とだけ、それぞれ繋がることにしている。
一応すべての神器を使える状態にして、万が一の際に自分以外の神器を使えるようにすることも検討はしているが、今回は一人一つずつにした。
そのままいつもイオツミスマルを使うときの魔力が集まり、五月は目の前に浮かぶ一冊の本に魔力を解き放った。
「コネクト・トゥ・ムーンライト・カノン」
その瞬間、イオツミスマルを使っているときのように、魔力が体の中に引き込まれていくのを感じる。
どうやら無事に使えるようになったみたいだ。
「……よろしくね。ムーンライト・カノン。あだ名は、『カノン』かな?」
答えはないが、イオツミスマルも短めの名前で応えてくれるので、もしかしたら大丈夫かもしれない。
いずれにせよ、リベカが最期に遺した神器が、こうして無事に子孫に届いたのだ。
まるで、陸上のバトンパスのようだ。
幸せを願った、「想いのバトン」とでもいうべきか。
その想いを、カノンを、大事にしないわけにはいかない。
アンカーとなるのが、五月なのだから。
その想いを叶えるためにも、幸せになるためにも、五月は再び魔力を集める。
まず手始めにムーンライト・カノンの自動で魔法を使ってくれる機能を使ってみることにした。
「カノン、オートモード」
その瞬間、カノンが独りでに動き出し、五月たちから離れていく。
「カノン、とりあえず、向こうの方に適当に魔法を打ってみて」
日本語ではあるが、一回指示してみる。
すると、カノンは光を放ってから、指示された方向に魔法を連発し始めた。
「成功みたいですね」
桜空がつぶやく。
「うん。あとは状況に応じてどうなるかを調べなきゃね。ご先祖様、お願いします」
「任せて、五月。『シャドー!』」
その瞬間、桜月が一番得意な黒魔法の影を作り、カノンが射撃している近くに解き放つ。
「カノン、そこにある魔法を破壊して」
五月の指示を受けた瞬間、カノンは矛先を影に向き直し、魔法を連発する。
その威力は、影を破壊するためか、先ほどよりもずっと強い。
周りの空気を引き裂くかと思うほどの轟音を放ちながら、影に直撃したかと思うと、さらに大きな音を立て、爆発した。
そして、煙が上がり、それが晴れたかと思うと、すでに影は見る影もなく、消えていた。
「すごいですね。これで弱めなんですよね? 五月の魔力がすごいからかもしれないですけど、これで使用者の魔力を多く使ったらもっと強い魔法が使えるということは、……とんでもないですね」
思わず桜空が呆れるほどの威力だが、これはほんの序章。
五月は再び魔力を集め、解き放った。
「カノン、マニュアルモード」
すると、カノンは五月のそばに瞬間移動して戻ってくる。
おそらく、空間魔法の一種だろう。
そのまま、五月は魔力を集め、その魔法を使った。
「カノン・ブレイカー」
その瞬間、以前五月が使った、白魔法最強の魔法、「エレメント・ブレイカー」のような大きな大砲が解き放たれる。
威力もほぼ同じ。
飲み込まれれば、あっという間に塵になってしまうほどの威力だ。
「……すごい」
思わず桜月は感嘆のため息をつく。
通常ならば、全力で撃つような威力の魔法を、涼しい顔で五月が放っているのだ。
実際、五月は全く疲れを感じない。
それなのに、カノンの力を借りると、簡単に大きな火力を出せるのだ。
「すべてを破壊する」というのも、納得だった。
やがて、その大砲は消滅していき、静寂が訪れる。
「すごいですね。五月、大丈夫ですか?」
魔法を使った五月に、桜空が駆け付ける。
「うん。平気。あれだけの魔法を使ったのに、全然疲れてない。カノンとか、神器を作ってくれたリベカには、感謝だね」
笑顔で五月は言う。
「でも、これで大丈夫そうですね。ケセフ・ヘレヴを破壊できそうです」
桜月も集まる。
三人とも、同じ気持ちだ。
これで、全てを終わらせられる。
「そうだね。もうちょっと練習が必要だけど、あと少し。がんばろうね!」
「はい!」
リベカから始まり、桜空、桜月がつなぎ、五月がフィニッシュする。
まさに、運命のリレーだ。
終焉の日は近い。
幸せをつかめる日は近い。
三人の気持ちは、昂るばかりだった。
次回、第十六話「逢瀬」。明日投稿になります。お楽しみに。