第十一話 大丈夫なわけないでしょ!?
……寒い。
だるい。
風邪のような体の重さを感じて、五月は目を覚ます。
のどの痛みや鼻水といった症状はないが、体を起こすのもおっくうで、布団から出られない。
五月は、魔力消費性疲労症だと直感した。
昨夜の「オラクル」のせいだろう。
いくら魔力量が増えているとはいっても、一週間分の予知をする「オラクル」は、やはり体への負担が大きい。
そのため、いつも「オラクル」をした翌日は魔力消費性疲労症になってしまうのだった。
カラン! カラン!
起床の合図の金が聞こえる。
それでも起きることができず、五月は布団にくるまったまま。
全身を包み込むぬくもりの中にいると、幾分か寒気も和らぎ、その心地よさに、いつの間にか意識が遠のいていった。
※
「……五月ちゃん、五月ちゃん?」
……友菜ちゃんの声が聞こえる。
体がゆすられている気がする。
「う、うーん……」
どうやら、友菜ちゃんが起こそうとしてくれたみたいで、五月はそれでようやく目が覚める。
「……おはよう、友菜ちゃん」
あまりの寒気に、布団にくるまりながら友菜ちゃんの方を向く。
「大丈夫? いつも五月ちゃんが先に起きるのに、今日はやけに静かだったから……。それに、顔色悪いけど……」
「……うん。いつものことだから大丈夫……。でも、今日は寝かせて……」
そのまま五月は布団にくるまろうとする。
実際、ただの魔力消費性疲労症なので、しばらく休めば元気になる。
今まで、「オラクル」の翌日は朝の内は寝込んでいたが、すぐに体調が元通りになっていた。
魔力がついてきた最近では、朝がきつくても、お昼ごろには元気になるほどだ。
しかし、そのことを知らない友菜ちゃんは、明らかに具合が悪そうな五月を前に、とても大丈夫なようには思えない。
「大丈夫なわけないでしょ!? 早由先生を呼んでくるから、そのまま寝てて!」
そう言い残すと、友菜ちゃんはあっという間に部屋を出ていき、五月が一人残された。
そのまま布団にもぐっていると、扉が開け放たれ、友菜ちゃんとともに早由先生が駆け込んできた。
「どうしたんだい? 顔色悪いけど」
「……大丈夫です。よくあることなんで。すごく寒くてだるいですけど、一日寝てれば治ります……」
早由先生に目を合わせながらつぶやく。
正直、話すのもしんどい状況なので、早く寝たかった。
ただ、放っておくわけにもいかないのか、早由先生は体温計を取り出し、五月に手渡す。
しぶしぶ五月は受け取り、脇に挟んで測るが、やはり平熱。
魔力消費性疲労症だと五月は確信するが、早由先生と友菜ちゃんは困惑する一方だ。
「……とりあえず、今日は休んで、明日どうなるか様子を見よう。もしかしたら風邪かもしれないから、あまり部屋を出るんじゃないよ」
「……わかりました」
「じゃあ、友菜ちゃん、ちょっとおかゆを作るから、申し訳ないけど、あたしが持ってくるまで、様子を見ててくれないか。ここで朝ごはん食べてていいから、先にそれを持ってくるよ」
「あ、はい。わかりました。わざわざありがとうございます」
そのまま早由先生は部屋を出て、食堂へと向かう。
友菜ちゃんは、机の上を片付ける。朝食をとるスペースを確保するためだが、五月の机の上も整理してくれた。
「……ごめんね。迷惑かけちゃって」
布団の中から五月は頭を下げる。
体が重くて、少し気分も落ち込み気味だが、それを打ち払うような、明るい笑顔を友菜ちゃんは向けてくれた。
「気にしないで。誰だって、具合が悪いときはあるし。きっと、高校に入ってからの疲れが来ちゃったんだよ。だから、今日は休もう? うちも傍にいるから」
その笑顔や、心遣いがありがたい。
五月のことを思ってくれていることが伝わってきて、友菜ちゃんを気兼ねなく頼ろうと思える。
まるで、ズッ友みたいに。
「……ありがと。友菜ちゃん」
「うん」
そうやって二人で話していると。
「はいよ、友菜ちゃん。先に朝ご飯持ってきたよ。ここで食べていいから、食べ終わったら食堂に持ってきて」
「ありがとうございます」
早由先生が友菜ちゃんの分の朝食を持ってきてくれた。
友菜ちゃんはそれを受け取り、自分の机の上に置く。
「じゃあ、五月ちゃん。ちょっとおかゆ作ってくるから。少し待っててな」
「すみません」
「なあに、気にすることないよ」
そのまま早由先生は去っていった。
「五月ちゃん、ごめんね。先、食べちゃってるね」
「うん、大丈夫」
「……五月ちゃん、ちゃんと休んでるんだよ。眠れなくても、布団に横になるだけでもいいから。でも、おかゆができた時、寝ちゃってたらどうする?」
友菜ちゃんは食べると言いながら、まだ食事に口をつけずに、五月のことを案じてくれている。
五月は、ありがたく思いながらも、苦笑しながら言った。
「起こしてくれる? いつもこんな調子なんだけど、すぐ元気になるから。それに、だんだん楽になってきたし」
実際、話しているうちにどんどんだるさ、悪寒が抜けてきていた。
友菜ちゃんは五月の顔色を見るが、先ほどまでの五月が嘘のように思え、驚いた。
「本当だ。顔色、よくなってるよ。でも、無理しちゃだめだからね」
「うん」
何度も忠告しながらも、微笑んでくれる友菜ちゃんの存在が、とても心強かった。
次回、第十二話です。明日投稿になります。お楽しみに。