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魔法の契りで幸せを  作者: 平河廣海
第三章 光
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第二話 リスタート

「では、早速ですが、今日から魔法の練習をしたいと思います」


 しばらくしてから、桜空が五月に向き直る。

 幸せをつかむ決意が固まって、晴れ晴れとした表情だ。

 いよいよ始まるのかと、五月の気持ちも引き締まる。

 しかし、ふと五月は疑問に思った。

 桜空は魔法を使えなくなっているはず。

 それなのに、なぜ桜空はイオツミスマルの中で魔法を使えるのか。なぜ使えると思ったのか。

 そして、いくら永遠の呪いにかかっているとはいえ、なぜ桜空は死ななかったのか。

 そのように問うと、苦笑しながら桜空は言った。


「正直言うと、わたしにもよくわかりません。ただ、イオツミスマルは空間に作用する神器なので、かけてみる価値はあると思っていたんです。そしたら、ご覧の通り、魔法は使えて、触ることができるという、呪いが打ち消されているような状況です。外に出ると分からないですけど。死ななかったのは、おそらく、『エターナル・カーズ』があまりにも強い呪いだからかなとしか推測できないです」

「そっか……。でも、うれしいな。桜空とこうして触れ合うことができるなんて」

「それは私もですよ。本当に、永い間、一人で待っていたんですから」


 お互い自然と笑みが浮かぶ。

 生き別れた家族と再会できたような喜びが広がる。

 なぜ桜月とこうして触れ合えるのかは、結局のところ分からない。

 それでも、今こうして、一緒に居られて、触れ合えるだけでも、桜空は幸せなのだろう。

 もちろん、五月も、お母さんが戻ってきたようで、幸せになれるような気がした。


「さ、後でもゆっくり話せますから、練習に移りましょう。まずは、資料が必要ですね……。イオツミスマル」


 桜空がイオツミスマルに呼びかけると、突然、目の前に眩い光があふれる。

 やがてその光が収まると、そこには、一冊の本があった。


「これが、以前、桜月にも教材として使った、『魔法物理学総論』という、私が執筆した本です。これで魔法の仕組みを学びながら、魔法の実践をすることになります。まあ、最初は桜月と同じく、魔力放出と基本の魔法、あと、体が魔法に耐えられるように、桜月の時にはしなかったですけど、体を鍛える。この三点を実践としたいと思います」

「体を鍛えるっていうのはどうして? 桜月の時はしなかったって言うけど」


 桜空は、俯きながら言った。


「……体が魔力に負けないようにするためです。私みたいに、暴走してほしくないので。もし私の体がより丈夫だったら、あんなことが起こらなかったかもしれないですし、後悔してほしくないんです」


 桜空は、バノルスでは最強の魔法使いだったらしいが、その魔力に耐えうるだけの体だったかはわからない。少なくとも、祟りの時は耐えられなかった。

 もし魔力に体が耐えられなかったら、魔力消費性疲労症になりやすいだろうし、最悪、魔力暴走症になるかもしれない。そうなったら、桜空の二の舞となる。

 そんな思いはしたくないし、桜空だって、してほしくないはずだ。


「わかった。とりあえず、体の方は陸上の練習をやることにする。一人でできることといったら、走ったり、筋トレしたりくらいだし、だったらいっそ気晴らしに前の部活っぽくやってみる。……ちょっとでも中学生っぽいこと、してみたいし」


 思えば、五月に関係した人が不幸になる、呪いみたいなものに、魔法で対抗できるようになるまで、もしくは、解決するまで、一人でいることにしたのだ。そのような状況で、普通の中学生のような生活など、送れやしない。幸せになるためなのだから、仕方ない。

 しかし、それでも無意識のうちに寂しさを覚えていたのかもしれない。それはある意味、桜空が普通の女として、対等な関係を望んだ時と、同じように。

 桜空はそんな五月の気持ちが想像できて、やるせない気持ちになる。その分、五月が通っていた、学校の教師代わりのようなものなので、その役割を果たそうと思った。


「……では、始めましょうか。まずは、魔力放出からです」


 こうして、桜月と同じように、一週間に二回の休みを入れながら、午前は運動、午後は魔法の練習、夜は中学校の勉強をやる生活をすることになった。毎週金曜日は、翌日を休みにしているのもあるが、呪いが起こるか調べるために、「オラクル」もすることになった。

 桜空は、慎重に、魔力放出、基本魔法から教えていったが、想像以上に、五月は成長していった。



 ※



 ……運命の子の努力を見ていると、昔のことを思い出す。

 母様との、魔法の鍛錬の日々。

 今思えば、とても楽しい日々だった。

 当たり前だと思っていた。

 それが、たった一日で、もう味わえない、幸せな時間になったなんて。


 もっと、大切にすべきだったなと思う。

 五月には、そんな後悔はしてほしくない。

 だからこそ、わたしは、あの後、わたしの子が、子孫が、運命の子が、幸せになれるように、奔走した。


 ……そのためには、魔法を使わなければならなかった。

 今でもわたしのしていることに、葛藤を覚えている。

 それでも、幸せになるためには、魔法を滅ぼすためには、必要なことだった。

 だから、わたしは魔法を使って、村の復興に尽力した。


 いつの間にか、祟りともいうべきあの時のことがあったからか、村は「血腸村」と呼ばれるようになったが、その村を率いていたため、いつしかわたしや蘭の家が村の中心となっていた。

 そのため、成美が当主になった、橘家から、わたしは「源」の姓を、蘭は「暁」の姓を賜った。


 それ以降もずっと村人を導いてきたが、ある日、わたしはある魔法に目覚めることになる。

 ……それが、「オラクル」。

 その存在自体は知っていた。

 もちろん、かつて滅びていたことも。

 なぜわたしがまた使えるようになったのか、それはわからない。


 ただ、わたしが「オラクル」になったことにより、わたしは真の巫女になった。

 神であるガリルトの御言葉を聞き、村人をより良い方向に導くことができるようになったのだ。


 そして、わたしは思った。

 これで、運命の子を、母様を、支えたり、会えたりするかもしれない。

 ……その通りだった。


 でも、その時、母様との、永遠の呪いという名の約束を果たすのに、障害が多すぎることを知った。

 それが、なぜなのか。

 実験で明らかにできた。

 その呪いのせいだった。


 それを解決するためにも、わたしは干渉しなければならない。

 そして、運命の子、母様には、イオツミスマルが必要不可欠だった。

 イオツミスマルがなければ、干渉することができないと考えられるからだ。

 だからこそ、宝物殿に結界を張り、子孫の魔法の発現を止めるために、杯流しをわたしは作り出したのだ。


 それだけじゃない。

 白魔法「アナライズ」で、様々なことを調べるようになった。

 そして、わかってしまったのだ。

 「エターナル・カーズ」のこと。

 イオツミスマルのことを。


次回、第三話「手にした希望」。明日投稿になります。お楽しみに。

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