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魔法の契りで幸せを  作者: 平河廣海
第一章 胎動
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第二十三話 告白

 ついに、五月は知ってしまった、か。

 私が「桜空(さら)」であることを。

 そもそも私が桜空(さら)伝を書いたのは、源家を守るためだ。

 本当のことを知ってしまったら、他人から迫害されたり、自分自身に得体の知れなさを感じたりするからだ。


 しかし、私が書いていない内容もある。

 それは、桜月(さつき)が書いたものだ。

 私と同じ理由だと思う。

 桜空伝の最後の部分が現代に伝わっていないのも、同じ理由だろう。

 「(しゅ)(れい)」というものは、初めて聞いたが。


 でも、私が知っていることは、たくさんある。

 それを教えるのは、怖い。

 五月は、私のことを、どう思うのだろうか。

 自分のことを、どう思うのだろうか。

 でも私は決めたのだ。「逃げない」と。


 宝物殿の入り口で、物音がする。

 五月が来たのだろう。

 後ろに振り向く。

 そこには、神器の一つである、「ヤサコニ・イオツミスマル」が安置されている。

 このすべてを終わらせることができる神器で、数百年以上にもわたる呪いに、終止符を打てるのだろうか。

 もう、私が手助けするのは避けられないだろう。

 確かにこのままでは何もできないが、イオツミスマルを使えば、なんとかできる。


 その前にまず、五月に私が知ることを話さないと、納得しないだろう。

 ガコン、と、音がする。

 扉が今まさに開けられるところだった。

 すべてを話そう。そして、これからに備えよう。

 そう決心して、私は五月を出迎える。



 ※



 宝物殿の扉を開けると、すでにサラは「弥栄之四方御統(やさかのよもみすまる)」の前に立っていた。

 鍵が閉まって入れないはずだったが、今は、サラならあり得ると、納得できた。


「もう来てたんだ、サラ」


 声をかける。


「はい。五月、扉を閉めて、こちらに来てください」


 五月は電気をつけてから扉を閉め、サラの傍に立つ。


「サラ、早速だけど、教えてくれない?」


 単刀直入にサラに頼む。しかし、その答えは、予想していないものだった。


「ここではなんですので、場を移しましょう」


 意味の分からない答えだった。宝物殿ほど密会するのに都合の良い場所はないのだ。まして、サラが指定した場所。五月が眉をひそめるのは当然のことだった。


「そんな顔をしないでください。五月は見たことないだけなんですから。……ここにある、『ヤサコニ・イオツミスマル』の中に入るだけです。

 五月、『コネクト・トゥ・ヤサコニ・イオツミスマル』と唱えてください。その後に、『ゴー・イン・ヤサコニ・イオツミスマル・ウィズ・サラ』と唱えてください。いずれも、『オラクル』を使うときのイメージです。できますか?」


 サラの言葉を、夢でも見ているかのように感じていた。

 目の前の「弥栄之四方御統」を「ヤサコニ・イオツミスマル」と言い、さらにその中に入る。

 そして、そのための呪文らしき言葉。

 それらの情報から推測すると。


「サラ……、もしかして、魔法を使えるの?」


 思わず聞いてしまう。

 それに、サラは首を横に振る。


「いいえ、この状態では使えません。でも、かつては」


 そこで、サラは一拍おく。


「……私も、魔法を使っていました。このイオツミスマルとともに。

 だから、使い方も知っています」


 ……やっぱり、か。

 そう、五月は思った。

 サラが何かを隠しているように感じたのは、これなのかと思った。

 同時に。

 サラが魔法を使えなくなっていることを知った。


 でも。

 もし。

 もし、サラが魔法を使えたら。

 悲劇など、起こらなかったのではないか。

 そんなことも考えてしまう。

 もう、どうしようもないけれど。

 サラを、責めたくなる。

 それは意味のないことだし、最低のことだと分かってはいるけれども。

 だから五月は、黒い感情のせいで、胸が苦しくなる。


「そのことも含めて、知っていることを話しますので、先ほどの呪文を唱えてください。

 普通の人なら何も起こりませんが、魔法を使えるあなたなら、源家のあなたなら、桜月(さつき)の血を引くあなたなら。イオツミスマルを使えるはずです」


 ただ。

 そのサラが、話すと言っている。

 使い方を知っていると言っている。

 思えば、「オラクル」も、サラがきっかけで習得したのだ。なぜかは知らないが、五月に知られないように立ち回っていた。

 そのサラが話した呪文で、五月の知りたいことがわかるかもしれない。

 そのおかげで、呪いを打ち破れるかもしれない。

 そんな、淡い期待が頭に浮かぶ。


 そして五月は。


「……コネクト・トゥ・ヤサコニ・イオツミスマル」


 その二つの呪文を唱えた。


「ゴー・イン・ヤサコニ・イオツミスマル・ウィズ・サラ」


 一つ目の呪文で体と何かがつながった感覚がし、二つ目の呪文で視界が真っ白になる。


 思わず、五月は瞬きをした。

 そして、その視界が開けた瞬間、周りが暗い色なのに、明るく、地面がないところに自分が立っているのを知った。まるで、恒星が照らしている宇宙空間にその身を投げ込まれたみたいだった。

 その五月の隣に立っていたのは。


「……久しぶりに自分の体を感じるのも、変な感じですね」


 五月をここに連れてきた、サラだった。


「……サラ?」


 ついサラを呼んでしまう。


「あ、ごめんなさい、五月。無事に入れました。久しぶりに自分の体を感じたので、感慨深かったんです」


 そう言って、五月の横に並び、五月の手に触れる。

 触れた感触があった。


「……え?」


 五月は驚く。今まで触れなかったサラに、触れたのだ。


「ああ、やっぱり……。イオツミスマルなら大丈夫だと思ってましたが、その通りでした。……よかった」


 サラの目が潤む。


「こうして何かに触るのは、数百年前以来ですね」


 そう言って、五月にはわからない感慨にサラが(ふけ)る。

 それに水を差せず、ただ茫然と五月はサラを見やる。


「五月、……いえ、新たなる『オラクル』」


 不意にサラに声をかけられる。サラを見ると、どうやら感慨から抜け出したようだ。

 ただ、「オラクル」という呼び方が気になる。


「サラ、なんで『オラクル』って呼ぶの?」


 以前に、「オラクル」は「巫女」や神官などという意味だと、サラは言っていた。


「……それは、五月が『オラクル』を使えたことで、自らが『オラクル』だと、証明したからです。

 ……私がかつていた地では、『オラクル』がいなくなってしまったために、大変なことになってしまいました。

 それも含めて、今から私の知ることを話します。最初に聞いておきたいことはありますか?」


 サラの表情を見る。視線が交差するが、サラは目をそらさず、嘘をつくようには思えなかった。

 今までいろいろ隠していたのとは違う。

 真正面から向き合ってくれていた。

 だからこそ、ようやく、すべてを話してくれるのだろう。

 五月はそう思った。


 しかし、五月に、そして、おそらくサラにも思い入れがあるであろう「オラクル」について気になるが、他にも聞きたいことがたくさんあって、どれから聞くべきか迷ってしまい、すぐには思いつかない。

 とりあえず、今の状況を確認しようと思った。


「じゃあ、一つ。サラ、ここって、勾玉の中なの?」

「はい。勾玉は、『弥栄之四方御統』と呼ばれているみたいですが、本当の名前は、『ヤサコニ・イオツミスマル』というものです。『神器』と呼ばれる、魔法を使える道具である魔法道具の一つで、使用者に魔力とも呼ぶ、魔法を使うためのエネルギーのようなものを供給したり、今のように擬似的な空間を作り出したり、その空間の中に出入りしたり、物を保存したり、魔法の練習や研究をしたりすることができます。

 そして、私たちは今、その中にいるというわけです。ここでなら、誰にも聞かれる心配はありません」


 「弥栄之四方御統」、本来の名を「ヤサコニ・イオツミスマル」と呼ぶ魔法道具の説明をサラが話した。それから類推するに、サラは魔法のことについて熟知しているように思う。

 そのうえで、今の話を聞いて疑問に思ったことを聞く。


「とりあえず、勾玉の魔法でわたし達が中に入って、いろいろと便利なのは分かった。でも、『神器』ってほかにもあるの? サラの話だと何個かあるみたいだけど。それに、魔法って、そもそもどんなものなの?」


 それにサラは、少し考えてから口を開いた。


「神器はあと二つあります。一つが『ケセフ・ヘレヴ』、もう一つが『ヤサコミラ・ガリルト』です。しかし、それらはもう現存しておりません。『ケセフ・ヘレヴ』は神器の作成者が使用したことでぼろぼろになり、使い物にならなくなったと伝えられていますが、私の時代にはすでに行方は分かりませんでした。『ヤサコミラ・ガリルト』については、この後話しますので、とりあえず次の話に行きたいと思います。


 あと、言い忘れていましたが、切り札ともいえる、強力な魔法が内蔵されています。それを使うには、莫大な魔力が必要で、普通の人は使えません。そもそも、神器自体を使えるのは、ある家系の者のみですが。

 魔法については、かなり難しいので、心して聞いてください。


 まず、魔法は、私が提唱した分類法では大きく六つに分かれます。火属性と呼ばれる『赤魔法』、水属性と呼ばれる『青魔法』、緑属性と呼ばれる『緑魔法』、闇属性と呼ばれる『黒魔法』、光属性と呼ばれる『黄魔法』、それら以外の『白魔法』に分かれます。五月の魔法で言うと、『プレディクション』、『オラクル』、『トランスレーション』が『白魔法』、『ブラスト』が『赤魔法』と『青魔法』の複合魔法です。


 そして、その魔法を使えるかどうかという、『適正』というものが存在します。その適性がないと、その属性の魔法は使えません。白魔法については、判別ができませんが、それ以外については判別することができます。五月に関しては、『赤魔法』と『青魔法』、『白魔法』の適性があるのは確実です。ついでに言うと、私の適性は、全ての属性です。おそらく五月もそうだと思います。その理由は、このイオツミスマルを使えるからですが、詳しくは後程言いますので、少々お待ちください。


 また、魔法を使うとき、『魔力』というものを消費します。かなり細かい話になるので、詳細な話は省きますが、魔法それぞれで消費する魔力量が異なり、人により魔力量も違い、使いすぎると大変なことになると思ってください。


 魔力を使いすぎた結果出る症状のことを、『魔力消費性疲労症』と言います。軽度なものは疲労倦怠感などですが、ひどい場合には高熱を出すなどします。魔力が強い人ほど、魔力量が少ない人ほど、そして、強力な魔法を使うほど、その症状は重くなるので、注意が必要です。


 神器などの魔法道具の作り方は、道具に魔力を込めるのですが、私は専門外なので、これ以上はわかりません。一応、簡単なものは作れますが。

 魔力は、第二次性徴を迎えた時くらいに増え始め、魔法を使えるようになります。最初は制御できませんが、成長や、魔力を放出したり、魔法を使用したりすることにより、だんだん制御したり、より強力な魔法を使ったりすることができるようになります。


 それらは、体内の『()(ぞう)』と呼ばれる臓器から産生される、『マジカラーゼ』と呼ばれる酵素によるもので、呪文やイメージに従って、マジカラーゼが調節されて魔法が発現されます。マジカラーゼは魔力の強さに関わったり、適性を決めたりする物質にもなりますが、完全には解明できていないうえに、そこまで知らなくても魔法を使えるので、後ほど説明します。


 他にも、白魔法にはいくつか種類があるとか、魔力の流れを絶つことで魔法を使えなくするとかありますが、ややこしくなるのでこれくらいにします。

 長い話になりましたが、聞き直したいところはありますか?」


 教科書に書いてあることをそのまま読むように、サラは答える。

 それを理解するのは、聞いているだけでは難しい。しかし、五月は。


「うん、わかった。

 神器は魔法を使える魔法道具で、三つあって、強力な魔法があって、神器を使える人は一部だけ。

 魔法は六つの属性があって、適性のあるものだけを使えて、魔法の適性や強さはマジカラーゼに依存して、呪文とかイメージでマジカラーゼが調節されて、魔法の種類や強さが決まる。使いすぎると体に悪くて、体が成長したり、魔力を放出したり、魔法を使ったりするにしたがって、マジカラーゼが強くなって、うまく扱えたり、強力な魔法を使えるようになる。

 つまりはそういうことでしょ?」


 サラの長々とした小難しい話を、見事に要約してみせた。五月の要約を聞けば、大筋を理解できると、サラは舌を巻く。かなちゃんやマリリンが、五月を天才だと思った才能の片鱗(へんりん)が、ここにあった。

 思わずサラは苦笑いをする。

 そんなサラの様子に気付かず、五月はサラに質問をする。


「サラの話だとサラも魔法を使えるみたいだけど、どういうのを使えるの? 何かいいのがあったら、呪いへの対抗手段になるかもしれないもの」


 五月の言葉を聞いて、サラは考える。


「久しぶりなので、うまくできますかね……? ……あっ」


 何かを思い出したのか、サラは着物の懐を探る。そこから取り出したのは、一本の木の棒だった。


「それは?」


 五月は気になり、サラに聞く。


「これは木の棒です。一般的には、『杖』と呼ばれています。ずっと愛用しているもので、元から丈夫ですけど、それに魔法をかけて、腐ったり、壊れたりしないようにしています。

 これを魔力の触媒にすることで、魔法を発動させやすくすることができます。ほかの道具や、手を振ることなどすることでも魔力の触媒になりますが、木の棒のほうが、魔力の伝導がいいので、貴族などは(もっぱ)ら木の棒を使います。触媒がなくても魔法を使えますが、扱いが難しくなります。電動自転車のモーターのようなものといえます。

 また、魔法を使うとき、呪文を唱えると思いますけど、それを唱えなくても、発動させることができます。……こんなふうに」


 そう言って、サラは五月がいない方向に、無言で木の棒を振る。

 すると、巨大な水の矢が現れ、そのまま発射される。

 五月から離れたところを通過して離れていくが、よほどの威力があるのか、風が伝わってくる。

 その空気の振動とともに、大きな音が伝わり、辺りを震わせる。

 まるで、すぐ傍で何かが爆発したかのよう。

 全てを圧倒する力だった。


「ぐ……」


 その衝撃で、大きな風圧も伝わり、五月は転びそうになってしまう。

 それに備えるだけで精一杯で、思わず呻いてしまう。

 その水の矢は、五月がその矢の飛んでいった方向を見たころには消えていった。


「大丈夫そうですね。今のは、『アクアアロー』です。青魔法の一つです。ほかにも……」


 サラはそのような衝撃がなかったかのようにそう言って、火の玉を放ったり、巨大な(つる)を発生させたり、光を放ったり、黒い(もや)の砲弾を出したり、宙に浮きあがったりした。

 サラが放つ魔法全てが洗練されていて、衝撃的だった。

 それどころか、すべてを屈服させるほどの威圧感があり、身の毛がよだつ。


「まあ、全属性の魔法はこんな感じです。何か役立ちそうなのがあったら五月に教えたいと思いますけど、とりあえずここまでにして。

 他に聞きたいことはありますか?」


 そう聞いてくるサラに対し、五月は一つの確信を得た。

 サラが使った魔法の中に、桜空(さら)伝にそのまま載っていたものもある。そして、最初に使った「アクアアロー」は、五月が夢の中で使ったものとは、格が違うものだった。ほかの魔法は五月が知らないものだったが、いずれも五月が使ってきた魔法とは比べようもないほど完成されたものだった。

 それは、つまり。


「サラって、桜空(さら)伝の、源神社の、神様なの?」


 魔法を使えるという、桜空(さら)伝の神様だということだ。

 ただの、五月にしか見聞きできなくて、誰も触れない友達ではない、すべてを屈服させる、本物の神だ。

 そう確信し、サラに問う。


「……半分合ってて、半分間違いですね。

 確かに、私は、桜空(さら)伝に載っている、『桜空(さら)』です。ですが、本来は、神ではないのです」


 ……。


「神では、ない?」


 思わずサラに聞き返す。


 このような非現実的で、すべてを圧倒するような力を持つのは、魔法を知らない人はもちろん、魔法を使える五月から見ても、神としか考えられない。

 しかし、そうではないという。


「はい。いろいろな事情があって、『桜空(さら)伝』の始めの部分を書いたのは、私です。後半の部分は、源家初代当主、源桜月が書きました。

 ある事情からこのような書物を残しましたが、私はただの人間です。ですが、『この地の人々』にとってはそうではなかったので、私が魔法を見せたのは、夫と、その両親、夫の妹、そして、娘だけです。その辺りの事情も、この後話します。

 ……ほかに、聞きたいことは?」


 サラは、神ではない。

 ただの人間。

 それなのに、魔法を操る。

 それも、もはや逆らう気など微塵も起こらない、絶望的な力を持つのだ。

 神のように思っても、不思議ではないのに。

 サラが人間だというのが、にわかには信じられない。


 それでは、サラは何者なのだろうか。

 どこから来たのだろうか。

 なぜ魔法を使えるのだろうか?


「最後に、……サラ、あなたは何者? どこから来たの? なんで、魔法を使えるの?」


 恐る恐る聞いてみた。


 その答えは、なぜ魔法をサラが使え、五月だけがサラを見聞きできて魔法を使えるのか、なぜ五月の周りが不幸になる呪いがあるのか、それがわかるような気がして、どうにもならないようなものなのではないか、わかったところでどうすればいいのかと思ってしまい、怖かった。



 ※



 恐る恐るといった様子で、五月が尋ねてくる。

 当然だろう。魔法が使えて私を見聞きできるのは、私以外に五月だけ。私は魔法を使えて、正体がよくわからない。

 そして、自分の周りが不幸になる呪いのことを、私が何か知っているかもしれないのだ。

 関係性がありそうで、それがあったら、どうすればいいのか、怖いのだろう。

 ましてや、かつてのバノルスで、天才とまで言われ、この地では神と呼ばれた所以である、私の魔法を見せたのだ。

 それなのに、私はただの人間なのだ。

 五月にとって、何とか立ち上がれた状態なのに、衝撃の連続で、打ちのめされるかもしれないほどだ。


 だから、私は、五月を支える覚悟をして伝えなければならない。

 今から話す内容は、五月が怖がって聞いているもの以上に、五月の心を打ち砕くかもしれないものなのだ。

 自分の存在する意味、魔法を使える意味、他にもいろいろ、疑問に思ってもおかしくない。

 でも、それを乗り越えないと、五月が望む未来に行けない。幸せをつかめない。

 五月を取り巻く呪いには、間違いなく、「あの時」のあの魔法が影響していると思う。


 なぜなのかはわからない。

 でも、五月を取り巻く呪いは、あの黒魔法の影響の可能性があるのだ。

 白魔法の一つである、空間魔法の専門家である私は、魔法全般の研究もしていたが、最上級魔法の研究は、空間魔法しかしておらず、私が開発したあの黒魔法の研究は不十分だった。

 それぐらい、私はこちらに来た時、幼かった。時間がなかった。

 それでも、黒魔法に限れば私以上の腕だった、桜月なら何かつかめたかもしれないが。

 今の私と五月では、どうすることもできない。


 自分の手元を見る。

 数百年前と変わらない、白い手だった。

 あの魔法は、時間や空間にも干渉しているのだろう。

 そうでなければ、私は死んでいたはずだ。


 これから話すのは、その時の話だ。

 そして、五月に聞かれたのは、そのきっかけになったもの。もともと話そうと思っていたものだ。

 でも、桜空(さら)伝に残していなかったのは、源家への迫害を防ぐためなのだ。

 それを、残さなかった私が、自ら破る。

 それでいいのだろうか。

 先ほどまで五月に告白すると決めていた。それに、迷いが生じる。


 最後の決断の時。最後の迷い。一瞬の間に今までのことが思い返される。

 かつての土地での日々。この地に渡ったこと。彼との出会い。追っ手を振り切ったこと。彼との日々。懐妊。出産。親子での日々。幸せな日々。その終わり。地獄の日々。孤独の日々。

 そして、五月との日々。

 ……決めた。


「……では、そのことも含めて、全てを話します」


 すべてを、話そう。

 五月を信じて。


「……私は、『桜空(さら)』。『桜空(さら)』と言います」


 数百年の呪いに終止符を打つため。

 桜月との約束を果たすため。

 五月の幸せのため。


「しかし、それはこの地に来てからの名前です。

 かつての名は……、『サラファン』。

 私の名前は、『サラファン・トゥルキア・バノルス』。バノルス王国第一王女であり、宮廷魔術師でした」


 私はサラファン。

 サラファン・トゥルキア・バノルス。

 バノルスと、ガリルトの血を引くもの。

 ガリルト(しん)王国(おうこく)の「巫女」、「オラクル」であり、神器の作成者で、バノルス王国のイサク・トゥルイ・バノルスと結ばれるという禁忌を犯し、「オラクル」を穢した、リベカ・エリー・ガリルトの血を引く者。


 私が知ることを、全てを話そう。

 魔法を五月に教えることも、(いと)わない。

 それが、五月の幸せにつながるのなら。




 ……ごめんね。桜月。

 約束を破って。

 私の約束を守るために、私から頼んだ約束を、私が破る。

 すごくひどいこと。

 それでも、私は決めたの。

 五月の幸せのためなら、何でもするって。

 それが、桜月との約束にもかかわっているなんて。

 ……すごい偶然だね。


魔法のまとめ


神器は魔法を使える魔法道具で、三つ存在し、強力な魔法があり、神器を使える人は一部だけ。

魔法は六つの属性があり、適性のあるものだけを使えて、魔法の適性や強さはマジカラーゼに依存する。

呪文やイメージでマジカラーゼが調節されて、魔法の種類や強さが決まる。

魔法を使いすぎると体に悪い。

体が成長したり、魔力を放出したり、魔法を使ったりするにしたがって、マジカラーゼが強くなって、うまく扱えたり、強力な魔法を使えるようになる。



次回は、第一章の最終話となります。令和元年九月八日投稿となります。


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