第十八話 夕日に彩られたハッピーバースデー
今日は五月の誕生日です。
この場を借りてお祝いしたいと思います。
五月、誕生日おめでとう。
気が付くと、わたしは源神社の、村を一望できる高台にいた。
夕日が差し込んでいて、オレンジ色に映える。
なぜそんなところにいるのかわからない。先ほどまで何をしていたのかわからない。
まるで、急に自分が瞬間移動したようで、頭が少しくらくらして、乗り物酔いに近い気持ち悪さだ。
加えて、直前まで何をしていたのかがわからないのだから、この状況に、困惑するしかない。
とりあえず腰を下ろし、辺りを見回す。
すると、かなちゃんとマリリンがこちらへ向かって歩いてきていた。
「もう来てたんだ、巫女さん」
「ミーちゃん、もう少し遅く来てもよかったのに。結構待ったんじゃない?」
しかし、何のことだか、わたしはすぐにはわからず、困った顔をするしかない。
「……えっと、大丈夫。それよりも、その荷物、どうしたの?」
二人は、カバンを背負っていたが、いつも遊ぶ時のリュックサックではなく、もう少し大きいものだった。
一方のわたしは手ぶら。自分がここで何をしていたのかがわからないのもあり、いったいどういう状況なのか、さっぱりわからない。
そんなわたしを前にして、かなちゃんは何やら不気味な笑みを浮かべている。
正直、嫌な予感しかしないが、おそらく、何かを企んでのことだろう。ズッ友になって以来、かなちゃんのことは以前にもまして知っていた。
しかし、マリリンも笑みを浮かべていた。それも、かなちゃんと同じような笑み。
普段のマリリンはこのような笑みは浮かべないので、余計に不安になる。
そんなわたしの不安に気付かないかのように、笑みを浮かべたまま、二人はカバンを下ろし、マリリンがその中からレジャーシートを出す。
「まあ、ミーちゃん、そこに座って」
とりあえず、マリリンに言われるがまま、靴を脱いで、シートの上に正座する。それを確認してから、かなちゃんとマリリンも靴を脱いでシートに座る。
そして、かなちゃんの笑みがますます深くなり、カバンから、重箱のようなものを取り出す。
「……巫女さん」
「……ミーちゃん」
「は、はい!」
二人に改めて名前を呼ばれて、変な声で返事を返す。
「誕生日、おめでとう!」
二人は声をそろえて、祝いの言葉を放つと同時に、重箱を開ける。
その中には。
「……え、そ、蕎麦?」
笊蕎麦が盛り付けられていた。
驚いてしまって、どもってしまう。
そして、「誕生日」という言葉。
「もしかして、わたしの誕生日プレゼント?」
二人の顔を見る。
ニヤニヤしていて、わたしが驚くところを見て、喜んでいるようだった。
「驚いてる、驚いてる!」
「やったね、佳菜子。サプライズ、成功だね!」
どうやら、サプライズだったようだ。
実際、誕生日のことなど、すっかり頭から離れていたので、今日がわたしの、中学生になって初めての、「十三」歳の誕生日だということを思い出し、余計に衝撃が大きい。
それと同時に、ズッ友の二人が、わたしのことを思ってくれていることが伝わってきて、とてもうれしい。
自然と、顔が綻ぶ。
「……ありがと、かなちゃん、マリリン」
「どういたしまして」
二人同時に返してくれる。
みんな、笑顔。
絶望に叩き込まれていたころからは、考えられないほど。
お父さん、お母さん、楓、雪奈は死んでしまったけど。
イワキダイキのデマはあるけれど。
裕樹が約束を通して救ってくれて。
ゆかりや綾花、村のみんなが支えてくれて。
サラがいて。
そして、ズッ友がいてくれて。
幸せの一歩をつかめている気がする。
幸せになれそうな気がする。
……だけれども。
やっぱり、寂しい。
また、みんなに会いたい。
お父さん、お母さんに会いたい。
楓、雪奈に会いたい。
できることなら……。
もう一度。
ふと空を見る。
夕日に彩られて、オレンジ色。
裕樹と約束したときの話を思い出す。
そして、この夕日が差し込む時間は……。
すると、周りの景色が歪み始める。
色もおかしくなる。
「あれ?」
おかしいと思った。
かなちゃん、マリリンの方を見る。
二人は、笑ったまま。
でも。
その二人までもが、歪む。
夕日のオレンジ色も歪む。
わたしの手を見る。
歪んでいる。
ますます、歪む。
色と景色が混ざり合い、混沌とした情景。
そのまま、目の前が真っ白になった。
次回の投稿は、本日の十八時から十九時の間です。