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七話 裏の目的

「んで、(のぞみ)の奴がさ……」

「あははは! 望ちゃん、家だとそんなことしてるんだ!」


 (かなう)熊野実(くまのみ)は、他愛もない話で盛り上がる。暗号を解こうとしていたはずが、さっぱり分からないせいで雑談になった。

 一年五組という場所も懐かしい。昨年度まではこの教室で授業を受けていた。

 暗号を解けないところに懐かしさが相まれば、雑談も弾むというものだ。


「仲良し兄妹だよね。部活でも、望ちゃんは小坂(こさか)君のことをよく話してるよ。『兄さんが、兄さんが』って。おかげで私、小坂君の秘密をいっぱい知っちゃった」

「何を吹き込まれた!? あんにゃろうめ……」

「小坂君は、小さい女の子が好きって」

「その言い方は誤解を与える!」


 まるで幼い少女に興奮を覚える変態のように聞こえてしまう。

 叶の好みは小柄な子というだけの話だ。妹の望が昔から長身だったせいか、妹と異なるタイプの女子が好きになった。

 熊野実は好みのど真ん中だ。世羅(せら)も望も美人だが、叶には熊野実が一番だ。性格も好ましい。


「違うの? 望ちゃんが嘘を言ってるようには聞こえなかったけど」

「違わないが、俺は別にロリコンじゃなくて」


 ひょっとして、これはチャンスだろうか。「俺の好みは熊野実だよ」と言ってアピールするチャンスだ。

 口を開きかけたが、言葉が出てくれない。ヘタレであった。


「お、俺の秘密はともかく、ぼちぼち暗号を解かないと」

「私も解きたいけど、分かんないよ。挑発するみたいにGood Luckとか書かれてるのが、なんか腹立つ。Give Upする?」


 熊野実は無駄に流暢な発音で「Good Luck」や「Give Up」を口にした。


「綺麗な発音だな。英語得意だっけ?」

「一番の得意科目だね。英語がペラペラの人って素敵じゃない? 私も憧れてて、自分もなりたいなって。なんなら、この暗号を英訳しようか? 英語にすればヒントが得られるかも」

「念のためにやってみるか」

「えーっと、Ten no group ga sonzai suru」

「ボケだよな? 本気でそれを英訳とか言わないよな?」

「やだなあ、もちろんボケだよ」

「ったく、熊野実は久我(くが)に影響され過ぎて……る」


 熊野実のボケに突っ込もうとしていたが、今のは凄いヒントではないか。

 天、てん、Ten、すなわち十。


「十のグループが存在する?」


 十のグループで思い当たるものがあった。今日、散々考えたやつだ。

 あれだとすれば、一つの顔や二つの顔とは。そして小さな顔とは。


「熊野実紅羽(くれは)、世羅亜子(あこ)、小坂望、久我玲兎(れいと)。小さき四天王……世羅と久我?」

「なんで二人が小さいの? 私か望ちゃんなら分かるけど」


 熊野実の疑問には答えず、叶は暗号の紙を凝視する。


『天のグループが存在する。あるグループは一つの顔を持ち、あるグループは二つの顔を、またあるグループは三つの顔を持つ。

 しかし、実は隠された小さな顔を持つグループも存在する。

 隠された小さきを()()。小さき四天王を。さすれば答えが()()であろう。

 ※答えが分かればパートナーに伝えること。Good Luck』


 頭をフル回転させる。

 隠された小さな顔。小さきを見よ。答えが照る。注釈にある「Good Luck」もヒントだとすれば。

 小坂では、小さいのは隠れていない。思い切り見えている。

 身長や学年も同様だ。一目瞭然になる。

 四人の顔や名前をただ眺めているだけでは気付かない暗号だ。


 思えば、三人の言葉もさりげないヒントになっていた。

 第一の暗号から第三の暗号を渡された時は、「暗号の場所に行け」といった発言をしていたが、第四の暗号だけは言わなかった。意図的にやっていたのだろう。

 この暗号を解いても場所は出てこない。


「待て。待て待て。答えが分かればパートナーに伝えろ?」


 叶と熊野実、どちらが解いたとしても構わないのだ。


「あいつら……」

「小坂君! 一人で分かってないで、私にも教えて!」

「ちょっと待った。まずは部室に行こう」

「部室が答えなの?」

「答えっつうか、とにかく部室だ」


 熊野実は状況を呑み込めていなかったが、説明はできない。

 早足で部室に向かい、ノックもせずにドアを開ける。


「世羅!」


 暗号研究部の三人がいたが、諸悪の根源は部長の世羅であろう。

 有無を言わさず廊下に引っ張り出す。


「熊野実、悪いが世羅と二人で話させてくれないか。部室に入っていて欲しい」

「えーっ、私はのけ者? 答えも教えてもらってないし」

「頼む」

「う、うん」


 叶の態度からただ事ではないと思ったのか、熊野実は部室に入ってくれた。

 誰にも聞かれなくなったところで世羅を睨みつける。


「どうやら、小坂君が解いて紅羽が解けなかったみたいね。しかも、紅羽に伝えていない。伝えるように書いたのに」

「お節介も大概にしろ」

「あのねえ、私たちもじれったいのよ」


 じれったいとは先ほども言っていた。叶と熊野実のことだ。


「お前ら、このためにテストケースなんて茶番をやらかしたのか?」

「茶番とは言ってくれるわね。イベントを開催しようとしているのは本当よ。テストしたかったのも本当。テストをするついでに、裏の目的も達成できればいいなって考えたの」

「それがお節介だって言ってんだ」

「じゃあ聞くけど、小坂君だけでどうにかできる?」


 疑問形になっているが、副音声が聞こえた気がする。「できるわけがない」と。

 悔しいがその通りだ。叶だけではどうにもできない。そのような勇気はない。


「小坂君だけが悪いとは言わないわよ。紅羽も悪いの。臆病者の二人のために、私たちが友達として一肌脱いだのよ。お節介だと思う?」


 お節介だ、とは言えなくなった。自分を棚に上げて、三人を悪く言えない。

 言葉に詰まる叶の胸ぐらを、世羅がつかんだ。端正な顔が接近する。


「紅羽を泣かせたら承知しないわよ」


 じれったいと同様、こちらも先ほど聞いた言葉だ。


「……分かった」

「分かってくれた? なら伝えるわよね?」

「もう一度、協力して欲しい。どうせ、テストは今日一日じゃないんだろ? 明日以降もやるんじゃないのか? そこで……」


 第四の暗号を少し変更してもらいたいと世羅にお願いする。

 世羅も快諾してくれ、明日やり直すことになった。

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