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一話 暗号研究部

新作です。本格的な推理は期待せず、のんびりお楽しみください。

 高校の授業が終わり、小坂(こさか)(かなう)が帰宅しようと玄関まで行った時だ。

 自分の下駄箱に一通の手紙が入っているのを見つけた。可愛らしいキャラクターが描かれた封筒に、ハート型のシールで封がされている。

 一見するとラブレターにも見えるが、裏に書かれた差出人の名前を見てその可能性を否定した。


 差出人は女子生徒だ。叶は男子のため、性別だけならラブレターを送られてもおかしくない。同じ二年生であり知り合いでもあるし、実は叶のことを……とか。

 それはあり得ない妄想だ。相手の女子はラブレターを出すような性格ではない。そもそも彼女には恋人がいる。

 どうせ碌でもない内容なのだろうと思い、一応中身を見てみる。

 一通の手紙が入っていたが、意味不明な文章が書かれていた。


『四月一日で読むこと。

 あたんたごうわけんたわきゅうたぶのぶたしつにわこい』


 いたずらにも思えるが、これは簡単な暗号になっている。たいして悩みもせずに解けたため、手紙で指定された場所へ向かう。

 叶はどうせ帰宅部だ。家に帰ってもすることはないし、乗っかってみてもいい。


 玄関から校舎に引き返し、文化部の部室がある区域に足を運ぶ。「暗号研究部」というプレートがかかった部屋に到着すればノックをする。

 中から「どうぞ」という返事があったのでドアをスライドさせて開け、中へ。

 部室には四人の生徒がいた。四人とも暗号研究部の部員であり、叶の知り合いでもある。


世羅(せら)、言われた通りきたぞ」


 四人の中で一番目立つ女子生徒に声をかけた。

 手紙の差出人にして暗号研究部の部長を務める女子は、世羅亜子(あこ)という。彼女を一言で表現するなら、絶世の美女だ。

 アイドル顔負けの美貌とスタイルを誇り、高二にしてはかなり大人っぽい。学校一の美人と評判である。


「いらっしゃい。ちゃんと解けたのね。それとも、答えが分からず、私の名前を見てここにきただけ?」

「解けたぞ。たいして難しくもない暗号だ」

「じゃあ、答えを言ってみて」

「四月一日はわたぬき。要するに、『わ』と『た』の文字を抜いて読めばいい」


 あたんたごうわけんたわきゅうたぶのぶたしつにわこい。

 ここから「わ」と「た」を抜けば、こうなる。

 あんごうけんきゅうぶのぶしつにこい。暗号研究部の部室にこい。

 叶の答えに、世羅は満足そうに頷いていた。


「んで、俺を呼んだ理由は?」

「焦らないの。(のぞみ)ちゃん、お兄さんに椅子を出してあげて」

「了解です、部長」


 世羅以外の部員である女子生徒が椅子を一脚出してくれた。

 小坂望。叶の妹だ。暗号研究部の一年生部員でもある。


「サンキュー」

「どういたしまして。兄さんは、よく解けたね」

「四月一日の意味さえ分かれば簡単だからな。兄を見直したか?」

「ちょっとだけ」


 妹の前で兄の威厳を保てたようだ。叶も満足である。


「あの程度、解いてもらわないと困るけどね。私の目的を果たせなくなるわ」

「世羅の目的って? また変な企み事でも?」

「失礼な人。玲兎(れいと)、この無礼な男にビシッと言ってやりなさい」

「ビシッ」


 世羅に話を振られた男子生徒は、寒いギャグを披露した。

 叶たち四人はそろって固まる。これにどう反応しろと。


「ちなみに今のは、ビシッと言ってやれって言われたから、僕は『ビシッ』と」

「解説すんな。余計に寒いわ」

「おっかしいなあ? 渾身のジョークだったのに」


 心底不思議そうな顔をして、男子は首を傾げている。

 久我(くが)玲兎。世羅が絶世の美女なら、彼は絶世の美男子だ。

 世羅とは幼馴染の関係だそうで、物心ついた頃からの付き合いだと聞いている。久我と世羅は恋人同士でもあり、学校で最も華やかな美男美女のカップルだ。

 イケメンであることを鼻にかけず、叶とも親しくしてくれる人だが、親父ギャグが大好きという面倒な一面も持つ。


「玲兎、あとでお仕置き」

「僕は悪くないよ!」

「私の躾が足りなかったのね。たっぷりと分からせてあげるわ。ふふっ、楽しみ」

「助けて小坂君!」

「知らん。痴話ゲンカに他人を巻き込むな」


 美人だがドSの彼女が、イケメンの彼氏を躾ける。歪んだ関係もあったものだ。

 叶は特殊性癖など持っておらず、至って普通の男子だし、巻き込まれるのは勘弁である。


「望、やっぱこの部活辞めればどうだ? 妹が汚れていく気がして、兄としては気が気じゃないんだが」

「大丈夫だよ。なんだかんだうまくやってるから。それに、私がいなくなっちゃうと、熊野実(くまのみ)先輩が大変でしょ。変態二人の中に、常識人が一人だけなんて」


 望はサラッと失礼なセリフをのたまった。世羅と久我を変態と言い切ったのだ。

 叶も口にはしないが思っている。変態二人に常識人二人の部活だと。

 常識人の片割れである女子生徒、熊野実紅羽(くれは)は、望の言葉に感激している。望の腕にしがみつき、甘えるような仕草だ。


「ありがとう。本当にありがとう。去年の私がどれだけ苦労したか。小坂君は私を見捨てちゃったの。私が何度お願いしても入部してくれなくて」

「妹として謝罪します。兄さんは性格がひねくれているんですよ。熊野実先輩みたいな美少女のお願いを聞くのは格好悪く、断るのが格好いいと思っているんです。『美少女の頼みにもなびかない俺、カッケー』って」

「おいコラ、望!」


 勝手なことを言い出した妹に突っ込むが、聞いていない。


「兄さんに代わって、私が熊野実先輩をお守りします」

「ありがとぉ。今年、望ちゃんが入部してくれて嬉しかったよぉ」

「よしよし、大変でしたね」

「望ちゃぁん」


 熊野実が二年生で望が一年生のはずが、立場が逆転している。

 この二人は外見も逆転しており、熊野実は中学生に見える。背が低くて子供っぽい。

 一方の望は、女子にしては背が高く百七十センチ近くある。背が高くて胸がないため、スレンダーなモデル体型だ。

 叶や両親も長身だし、背が高いのは小坂家の血筋だ。


 二年生三人に一年生一人と、愉快な面々が勢ぞろいしている暗号研究部。ここに叶も加わり、何かが起こりそうな予感がする。

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