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第五話

 ルナが持ってきた服に着替え、ディティラスが待つ部屋へとゆっくりと足を進める。ライトニングに再び魔法をかけてもらったものの、まだ体調が万全ではないリディアリアは、ルナの手助けを借りながら少しずつ歩いていた。

 普段なら数分あれば着く距離も、数十分かけて歩いていく。いつもならばもっと早く歩きたいと思うところだが、今回ばかりは助かったといわんばかりに、頭の中でライトニングに告げられた言葉をずっと考えていた。

(余命半年……か)

 ライトニング曰く、リディアリアは奇跡的にも目覚めたものの、魔核が半分壊れた状態にあるらしい。簡単にいえばコップの底にヒビが入ってしまって、そこから絶え間なく生成された魔力がこぼれ落ちていっている状態だということだ。

 ディティラスの魔力をもらうことで本来の姿に戻る現象については、応急処置としてコップをさらに大きなコップに入れて漏れを防いでいる感じらしい。ディティラスからもらった魔力が尽きれば、魔力のコップも消えてしまう。だから前回は寝ている間に、子ども姿へと戻ってしまったようだ。

 今は小さなヒビでも魔力を使用する度に、ヒビは大きくなっていく。つまりリディアリアが魔法を使う度、魔核が魔力を生成して魔力がこぼれ落ちていく度にリディアリアの魔核は壊れていくというわけだ。

 ヒーリィという癒しの手を持つ魔族のライトニングには、リディアリアたちには見えない魔核を見る目。魔眼がある。だからこそ、本来の姿に戻ったリディアリアを見てすぐにわかったのだろう。いわれてみれば体が戻るとき、変な音がした感覚はあった。あれが魔核の壊れていく音なのだろう。

 魔核はライトニングの手を持ってしてでも、治せない器官らしい。まさに八方ふさがりである。リディアリアにできることといえば、魔法をあまり使わないでいることぐらいだった。

 歩いている最中、考え込んでいるリディアリアを心配をしたルナは何度か声をかけてくれるが、どうしても魔核のことに気を取られてしまい、ルナのことをおろそかにしてしまう。

「何かライトニング様にいわれたのですか?」

「そうじゃないよ。ただ妃って荷が重いなあとか、この体のままディティの隣に立っていてもいいのかなあとか考えていただけ」

 あながち嘘ではない。余命半年となれば、妃も名ばかりになってしまうし、隣に立っていられるのもほんの瞬きの間だけ。リディアリアが死ねば、ディティラスは周囲にいわれて新しい妃を娶ることだろう。

 ルナも新しい主を見つけるかもしれない。

 リディアリアが今立っている場所に、顔も知らない誰かが立つ。

 想像しただけでも、胸がツキンと痛んだ。けれどそれ以上に自分勝手な感情に腹が立つ。残す者より残される者の方が辛いのは、戦争を通じてリディアリア自身がよく分かっていること。なのにリディアリアは自身が死んだあとのことを考えて、勝手にも嫉妬をしたのだ。

「リディアリア様。大丈夫ですよ。リディアリア様が立てられた功績は、知れば誰もが認めるものです。否定する者がいたとしても、極僅かですよ。それにリディアリア様を悪くいう者がいれば、私がサクっとやっつけて差し上げます」

 ルナはリディアリアを支えている手とは逆の手で、拳を握ってみせてくれた。

 ドロドロとした感情が渦巻く中、ルナの優しい言葉に思わず涙が出そうになる。それをぐっと堪えてリディアリアは笑った。

「そうだよね。私、頑張るよ」

「はい。私も陰ながら応援させていただきます」

 今うだうだ考えていても仕方がない。そうルナに気づかされた。

 余命が半年しかないならば、まずはその半年をいかに充実させるかを考えればいい。こんなドロドロとした気持ちでルナやディティラスとの楽しい時間をつぶしたくはない。

 それに余命半年といっても、それは推測であって、確実ではない。

 戦争を止めるという大業をやってのけたのだ。魔核が壊れているのならば、治す方法をこれから見つけていけばいい。戦争を止めるよりもきっと簡単なことだ。そう自身を奮い立たせて、リディアリアは魔核を治すという新たな目標を定めた。

 ルナやディティラスには心配をさせたくないから言えないが、事情を知るライトニングならば協力してくれるだろう。

「リディアリア様、こちらが魔王の間でございます。開けて頂きますので、こちらで少々お待ちください」

 そうこう考えているうちに、ディティラスの元へ到着したらしい。

 ルナに支えてもらっていた体を近くの壁に預け、ルナの背中を目で追っていく。

 部屋の扉を守る騎士たちにルナが開けるよう催促したが、なぜか騎士たちは一様に困ったような顔をしていた。

 扉を守る騎士たちとリディアリアと面識はないが、ルナの態度から面識があることが窺える。それにリディアリアは知らなくとも、騎士たちはリディアリアの顔を知っているようで、恐縮したように頭を下げてきた。だから少なくとも頭ごなしに入れてもらえないわけではなさそうだ。

「どうしたの?」

「それが、先客がいるようで……」

「先客?」

 先客がいるなら、ディティラスが昼食を誘った時点で教えてくれているはずだし、いたとしても逆に時間指定をして訪ねてもいい時間を教えてくれるはずだ。

 だからこそ、先客という言葉に首を傾げていると、魔王の間の扉が内側から開かれた。

 自然と扉の向こうへ視線がいき、そこから出てきた一人の女性と目があった。

 白くて背中まで伸びたサラサラの髪に、魔族の特徴である赤の瞳、そして雪のように白い肌。

(特徴が揃っている上に、この近くにいるだけでひんやりと肌を冷やす感じ。スノウと呼ばれる種族の女性ね)

 スノウが氷に囲まれた場所に好んで住むことから、会ったことは一度もなかったが、特徴だけは知っていたリディアリアには一目でわかった。

「貴女だあれ? なぜディティラス様のところを訪ねてきたのかしら?」

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