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第二十八話

 リディアリアの元へ向かう道中とは違い、魔王城へ帰る足取りはとてもゆっくりなものとなった。行きと違い、急いで帰る必要がないことや、人数が行きよりも増えたことによってウルフであるグレイストやルナの背に皆が乗れないことが理由として挙げられるが、最優先の理由としてはリディアリアの体を労わりたかったからだ。その想いは皆も同じだったのか、帰りの工程を急かすものは誰一人いなかった。

 森から出ると、そこでグレイストが獣化を解き、比較的近くにある街までディティラスがリディアリアを、グレイストがスノウリリィを抱いて運び、馬車の手配が整うまで宿に泊まることとなった。

 国境が近い街だからなのか、宿はたくさんあり、部屋をとることにそれほど苦労することはなかった。もしかしたら魔王としてディティラスが、七貴族としてライトニングとグレイストの顔が広く知れ渡っていることからなのかもしれないが。

 二人部屋を二つと、三人部屋を一つとり、ディティラスとリディアリア、ライトニングとグレイストのペアで二人部屋を、スノウマリーとスノウリリィ、ルナで三人部屋を使うこととなった。

 宿の店主は一人部屋を人数分用意してくれるといったが、それは丁重に断ることにした。帰りの馬車を待つ間のみの宿泊となるし、なにより目を覚まさない二人を一人にしておくのは危ないと判断したからだ。

 リディアリアをベッドへ寝かし、その脇に腰掛ける。

「リディ、眠っていいとはいったが、やはり寂しいものだな。こうして魂の半身になっていなければ、気が狂うほどに」

 頬を撫でれば温かく、静かな寝息が微かに手に当たる。胸は呼吸をする度に上下し、リディアリアが生きているのだと教えてくれた。血が不足しているのか、まだ顔は青白い。しかし先程よりは頬に赤みがさしてきていた。

「まるでここ数カ月、ずっと夢を見ていたみたいだ」

 実はリディアリアが起きていたことが夢で、寝ているのが現実だったのではないかと錯覚してしまう。それほどにリディアリアと過ごした時間は短すぎた。

 己の胸に手を当て、魂の半身であるリディアリアの存在を感じる。これがなければ、夢であると信じていたかもしれない。

「リディの体は魔核を一から作り変えたから、他のヴァンパイアが魔法を使ったときと違って、体は長い休息を必要としている。それが何カ月なのか、何年なのかわからないが……。早く眠りから覚めてほしいと思うと同時に、ゆっくり体を作り変えて、本当の姿で笑っていてほしいとも思うんだ。欲張りだな、俺は」

 十年の眠りから覚めたリディアリアは子どもの姿をしていた。最初は可愛いとも思ったし、リディアリアならどんな姿でも構わないとさえ思っていた。

 でもそれは、魔核の話をライトニングから聞いていなかったからこそ、思っていたことでもあった。手紙で知らせを受けるまではライトニングから、大きな魔法を使って魔力が完全に戻っていないせいで、本来の姿を保つことができないと聞かされていたからだ。

 けれど手紙で本当のことを知った今、リディアリアの命が尽きる前に知ることができてよかったという想いとともに、まだ子どもの姿のままのリディアリアに不安を覚えてしまう。魔眼を持つライトニングからは、魔核の再構築も順調だから眠りから覚める頃には元の姿に戻っているといわれた。それは魂が繋がっているから、ディティラスもわかっているのだが、不安なものはどうしても不安なのだ。こればかりはどうしようもない。

 そんな情けない心情に苦笑して、リディアリアとの出会いを思い出していた。

「そういうえば、初めて出会ったのは、リディアリアはちょうどこれくらいの姿をした歳だったか。あの時はまさかこんな関係になるなんて思ってもみなかったな……」

 目を瞑り、思い返せば色鮮やかに記憶が甦ってくる。

「確か、いきなり戦争孤児をライトニングが引き取って、魔王城に連れてきたんだったな」

 ライトニングはすでに七貴族の中でも古株で、それなりの地位を築き上げていたにも関わらず、浮いた話は一つも出てこない。物腰穏やかで、その美貌はディティラスから見ても、麗人という分類に入る。そんなライトニングが嫁ではなく、魔族の少女を引き取ったといって連れてきたのだ。これで興味が沸かない訳がなかった。

 基本ライトニングは魔王城で働いて暮らしているため、引き取った少女も必然的に魔王城で暮らすことになる。ライトニングの義娘となるならば、しっかりと自身の目で確かめておきたかった。ライトニングもそれは承知していたのか、すでに面会が組まれており、その日のうちの会うこととなった。

 そうして連れてこられたのがリディアリアだった。今と同じくらいの姿をしていたが、その瞳は怪我を負った獣のように周囲を常に警戒していた。魔王という肩書を持つディティラスにも同じ反応で、視線が交わると同時に警戒心を顕わにして睨み付けてきた。随分生意気な少女、というのがリディアリアに対しての第一印象だった。

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