第十七話
翌朝。
リディアリアはライトニングとルナを伴って、報告書に書かれた場所にやってきていた。
ディティラスには本来の目的を告げず、ただ魔物討伐に七貴族として出向くとだけ伝えてある。最初は渋い顔をしていたが、ライトニングの後押しとライトニングも同行するということで了承を得た。
魔核の件に関しては二人だけの秘密だったので、できれば魔物討伐も二人で行いたかったのだが、いかんせん場所は国境付近。馬を使って行っても、一週間はかかる。しかし魔物が大きく移動をしてしまう前に現場に到着してしまいたいこともあって、ウルフの協力の元、現場へ向かうこととなった。
ウルフは種族魔法に獣化できるものがあり、これを使用することによって四足歩行の狼となって、馬など比較にならないほど早く移動ができるのだ。
そこでリディアリアの子どもの姿をよく知るルナが選出された。
国境へと向かう間、いくつかの街を経由、宿泊して目的地まで急ぐ。復興した街並みをゆっくりと見て回りたかったが、魔物がいる以上そんな余裕はなかった。またディティラスたちとゆっくり来ようと心の中で決めて、先へ進んだ。
主従契約をして能力が向上しているとはいえ、ルナにはとてつもない負担をかけさせていた。休憩時間以外はライトニングとリディアリアの二人を背中に乗せて疾走しているのだ。これで負担にならないわけがない。ルナは気にしないでほしいといっていたが、せめて休憩時間くらいはゆっくりしてほしいこともあって、身の回りの世話は断り、ルナを優先的に休ませていた。
そして魔王城を出て三日後。四日ほど日にちを短縮して目的地にたどり着くことができた。目撃されたという国境付近の森には、魔物が行ったのだろう。木々が倒され、森に棲んでいたであろう動物が無残に殺されていた。辺りは死臭が漂っており、思わず眉をひそめてしまう。
ライトニングも、獣化を解いたルナも同様に眉を潜めて鼻と口を手で覆っていた。
「近くにはいそう?」
そう尋ねると、ルナは持ち前の聴覚を生かして耳を澄ませた。
「おそらく。あちらの方角から物音がします。ですが、何か様子がおかしいですね……」
ルナの指す方角は、人族側の国がある方角だった。
「おかしいというのは?」
「魔物が現れたという報告は、互いの国境付近ということもあって、両国ともに知らせが届いているはずです。だから私たち以外はこの森に近寄らないはず。なのに、あちらの方角からは複数の声が聞こえてくるのです」
確かにそれはおかしい。
今回の魔物は七貴族の力を欲するほどの強さだと報告書には記載されていた。人族側から誰かを派遣するという話は聞いていないし、報告書にも記載はない。
「私たちが魔王城を出たあと、人族側からも何人か派遣されたってこともありえるのかな?」
耳を澄ませるルナに確認をする。するとルナは厳しい表情をしながら、首を横に振った。
「それはないかと。聞こえてくる声色がそうではないのです」
「というと?」
「女性と男性が言い争っている声が聞こえるのです。ここからでは何を話しているのかまでは聞き取れませんが」
(言い争っている声、ね……)
人族の場合、魔族と違って戦争や力仕事などは男性が行うものとして決まっている。女性は家事など家のこと全般を行うらしい。最近では魔術師になる女性も増えてきたことから、仕事をする女性も増えてきてはいるが、それはここ最近の話。
魔物が関わってくると、女性が関わることは現段階ではまだないはずだ。それに魔核の売買に携わっている人族であっても、危険なところに女性は連れてこないはず。
(となると、魔族?)
近隣に住む魔族が、自分たちの住む場所を守るために 討伐にでかけたのだろうか。そこまで考えて内心首を振る。
(いや、それはない。魔王からの指示で無暗に魔物に近づくことは禁止されている)
「ここで考えていても拉致があきません。声のする方に向かった方がいいでしょう」
ライトニングの提案に、リディアリアは頷いた。
「そうだね、そうしよう」
「また獣になった方がよろしいですか?」
「ううん。ここからは走ってくよ。ルナにそこまで負担をかけるのもよくないし。周囲の状況も走りながら確認したいしね。だから先導だけルナにお願いしたい」
小さな子どもの姿のままといっても、それなりの体力はある。速さだけは歩幅の関係もあって遅くなるが、微々たるものだ。
「わかりました。ですが、槍だけはお持ちさせてください。走るのに邪魔になってしまいますので」
「わかった」
背中に背負っていた槍を素直にルナへ渡す。
そして軽く体をほぐすと、先導して走るルナの後ろに続いた。




