第十話
そうして始まる、試合。他の騎士たちもリディアリアの実力が気になるのか、ちらほらと様子を見に来ていた。それを一瞥し、リディアリアは冷静に六人の位置や関係性を把握していく。全員の名前まではきちんと憶えていないが、主にグレイストやリディアリアと会話をしていたのは、グレイストと同じウルフのチイエナという男性。新人騎士たちの中では一番強いのか、チイエナを中心とした戦闘態勢を取っていた。
(なら、チイエナ君を先に潰した方がいいよね)
種族的にはウルフが四人とオロチと呼ばれる蛇の魔族が一人、そしてフォックスと呼ばれる炎を操ることに長けた魔族が一人。どの新人騎士も攻撃に特化した、騎士向きな魔族だった。
リディアリアは槍を切っ先をチイエナへと向ける。その行動に対して、チイエナは自身が狙われていることに気づき、リディアリアへ先手を打とうと剣を大きく振り上げた。
(けど、まだまだっ、だね!!)
ウルフということもあってか、確かに身体能力は高い。しかし戦争に参加したことのあるリディアリアからしてみれば、その動作はとても遅くみえた。
それにこれだけの身体能力しか持ち合わせていないとなると、まだ主を見つけていないのだろう。他のウルフの新人騎士三人を一瞥して確認するが、チイエナが頭一つ分ほど身体能力が飛びぬけているだけで、どんぐりの背比べといったところだった。
リディアリアは槍の切っ先をチイエナの喉元へと突き付ける。もちろん練習用ということもあって、大した怪我はしない作りになっている。しかしリディアリアが突き付けたのは喉元。リディアリアが途中で止めなければ、槍はチイエナの喉を貫いていただろう。現に、チイエナの喉元からは一筋の血が流れていた。
「……っう」
喉元から槍を離すと、そのままチイエナがその場に座り込む。後ろに誰かが回り込む気配もあったので、背中を守るように槍を動かした。すると柄部分に何かが当たる衝撃が走った。即座に体を反転し、その正体を確認する。柄に当たったのは、木製の矢だった。
(矢ってことは、オロチの子か)
オロチは隠密行動に優れており、後衛攻撃を得意とする者が多い。リディアリアもオロチの新人騎士が近づいて回り込んでくるまで気づかなかった。
リディアリアは槍を空中に投げ、オロチの視線を空へと飛ばす。そして気が逸れたうちに近づき、回し蹴りを食らわせた。加減はしていないが、戦闘向きではないサキュバスの力などたかが知れている。十年前と比べて体力が落ちていることや、相手が新人であろうと騎士だということを加味して大丈夫であろうと判断した。
(あと四人)
残るはウルフの新人騎士三人と、フォックスの新人騎士が一人。
空中へ投げた槍が地上へ落ちてくるタイミングを見計らって、彼の元へ走った。
彼は飛び道具を得意としているのか、投げナイフを幾つか投げてよこしてきた。それをギリギリのタイミングで見切って、最小限の行動で避ける。いい距離になった頃合いで、避けるのを止め、投げナイフを槍で弾き返した。もちろん弾き返すだけではなく、きちんと彼の元へ帰っていくように、角度やタイミングを見計らう。体をこんなにも動かしたことが久しぶりであったせいか、幾つかは本人へ当たらずそれた場所へ行ってしまった。それでも彼の手持ちが無くなる前に、どうにか数本は本人の元へ帰すことに成功した。
リディアリアの狙っていたこととも知らず、フォックスの新人騎士はそれを避けようとする。
(よし、かかった!!)
そのタイミングを見逃すはずがなく、リディアリアから視線が逸れたうちに彼へと近づき、槍の柄部分で思いっきり腰を殴り飛ばした。殴り飛ばした方向にはウルフの新人騎士一人がおり、巻き添えをくらう。
他の二人は巻き添えをくらう前に回避し、リディアリアを左右から攻撃しようとしていた。
(回避からの反撃。その切り返しはいい感じかも)
二人を冷静に分析しながら、槍の穂を地面に思いっきり突き刺す。突き刺した反動を利用して、真上にジャンプをする。二人の攻撃を間一髪で交わすと、槍を軸にして一人に踵落としを食らわせた。もちろん同時に踵落としはできないので、槍の穂を力任せに地面から抜いて、石突部分で心臓部分を叩く。ここでポイントなのが、何事も焦らず行動をするという点だ。でなければ、冷静な判断をすることができない。
「そこまでっ! 勝者リディアリア様!!」
ここまででおよそ十分。
グレイストの大きな声により勝者が告げられ、そのタイミングで槍を新人騎士の胸元から離した。
試合を興味本位で見に来ていた騎士たちから、どよめきの声が聞こえてくる。
(まあ、そうなるよね)
騎士たちにとって、リディアリアは魔王の妃。誰も実力は知らないのだから。
新人騎士たちは唖然とした表情で、地面に尻をつけたまま、一人鍛錬場に立つリディアリアを見ていた。
「まあ、こんなものかな?」
汗をそれほど掻いていないが、つい癖で拭う仕草をしてしまう。
「リディアリア様、お疲れ様です」
ルナが頃合いを見計らって、リディアリアの元へかけよってきた。両手で持っていた柔らかなそうなタオルをリディアリアに差し出し、代わりに槍を受け取ってくれた。若干の汗は掻いていたので素直に受け取り、化粧が崩れないよう優しく顔を拭いた。
「どうだ、あいつらは」
タオルの柔らかさを堪能していると、いつの間にか近くにきていたグレイストに話しかけられる。
「んー、正直な感想ですか?」
「ああ、頼む」
「確かに全員実力はあります。ですが、一般の魔族より少しだけ戦闘能力が高い程度。十年前と比べていいのかわかりかねますが、能力的には低下した気がしますね。戦争時とそうでないときの気の張り詰め具合の違いが関係しているのかもしれませんが……」
ウルフ、オロチにフォックス。その種族も騎士に向いている種族ではある。そしてそれなりの実力もある。けれど、それだけの話。仕方がない話かもしれないが、十年前と比べて確実に上級魔族の実力は下がっていた。
本音をグレイストに告げれば、グレイストもそう思っていたのか、納得したように頷く。
「だよなあ。もう少し実力をつけさせるために、鍛錬の内容を見直すか」
「それで実力が上がるのならば、そうした方がいいかもしれませんね」
十年前に終戦した。今はそのまま戦争がない平和な時が続いているが、いつまた戦争が起こるか、こればかりは誰にもわからない。もし起こったとしても、一般の魔族を守れるような強さは一定基準保っておいた方がいいだろう。
グレイストにその辺りを今後一緒に詰めていきたいといわれ、リディアリアも協力ができることならばと迷うことなく承諾をする。
話が一通りまとまったあと、グレイストが新人騎士たちに号令をかけた。六人がグレイストの前で横一列に整列をするが、その視線はリディアリアに向けられていた。よほど実力で叶わなかったのが悔しかったのか、それぞれ悔しそうな表情を見せている。きちんと長い鼻を全員分折れたみたいだ。
グレイストは新人騎士たちのその表情を見られて満足したのか、口角を上げて頷いてみせた。




