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妹という者は

妹は賢者であった。妹が父の後を継いで領主になって欲しいと思うくらいに、様々な知識を有していた。その知識は彼女の悲痛な努力の結晶であった。


妹は産まれた時から魔力が多かった。それは亡き母も同様であった。産まれる際に起きた母と妹の魔力の暴走が原因で母は命を落とした。父や母、そして私も魔医よりどちらか命を落とす可能性について伝えられていた。結果、生きれたのは赤ん坊であった妹だけであった。そして妹が父に連れられ夜会に出るようになり、母親という存在を知った。けれど私や父に母について尋ねることなく本を読み漁っていた。


「私の所為で母は死んだのですね」


その一言は父や私を深く悲しませ、それに気づいた妹は魔力の暴走を起こし昏倒した。魔医の全力の治療の甲斐あって元気になったが、何かに取り憑かれたように本を読み漁るようになり、父に得た知識を披露するようになった。見放されるのが怖いと泣いていた事を妹のメイドより教えられた。


妹の知識は奇想天外なものも多く理解も難しかったが全てが新しく、金に糸目をつけなければそれはもう最高とも言える施策が多かった。しかしこのアーゼンベルト子爵領は誰がどこからどう見ても貧乏であった。田畑は多くとも土が痩せており食物が育ち難かった。悩んでいれば妹が数枚の用紙を手に父の元を訪れていた。土を肥やす、画期的な方法であった。それから徐々に我が領地は富を築くことができた。


ある日、父の元にあのシェルドハット公爵が来ていた。何を話したのかはわからないが、時折新しい物を提げて父を訪ねていた。その間も妹は沢山の知識を父に披露していた。


私に婚約者が出来た時、妹は魔力を暴走させぶっ倒れたくらいには喜んでくれた。結婚式では魔力を使い奇跡かと思うくらい幻想的な魔法を魅せ祝福してくれた。尤も結婚式後は魔力の使い過ぎで寝込んでいたが。


父と妻と共に領地を巡り、父の施策を見聞きしている間も妹は父に知識を披露していた。妻はそれは良くない事と何度も苦言を呈して来たが、あれは妹の父や領民に対する罪滅ぼしなのだ。母は平民の出であったから、父の、領民の大切な人の命を奪った償いをしているのだと。


妻が夫人として茶話会や夜会を開くたびに妹を連れ出していた。確かに必要な事ではあるが、妹は魔力の暴走を極端に恐れていた。だから体調が悪い時は断っていたはずなのに、妻は連れ出す。だから魔医には暴走を起こしかけたらどうやってでも妹を下げるよう頼んでいた。女の園の会で男が唯一できることだ。



父より領地について詳しく教えられている最中、父は賊に襲われ一命は取り留めたものの怪我が原因で病に倒れた。それからは急ぎ足で子爵の継承を行った。その時に父が襲われた原因とシェルドハット公爵について教えられた。父が亡くなった後は父の遺言通り、妹を失わないようにするために彼を頼った。彼と協力するに至った。領地境にある屋敷を妹の為に開放した。


父が亡くなって暫くは会議が滞ることが多かったため財政が一時落ち込んだが、妹の助言や公爵の協力もあって盛り返したけれど、妻の余計な手助けの所為でそれも全て壊れてしまいそうだ。女が政に関わると悪政になる。その通りであった。


「どうして、こうなった」


妹の心配そうな顔だけが今の支えであった。

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