04.アスチータ
ジュネーロは部屋を出た後アスチータへと向かった。
怨恨の扉は幸福の扉がある部屋の隣の部屋にあった。
怨恨の扉は幸福の扉とは対照的に装飾は一切なく、漆黒の大きな扉。その扉の前に黒が2人警備していた。
「お疲れ様。1時間後魂の逢瀬を取り仕切ることになった。私はアスチータへ行く。よろしく頼む。」
ジュネーロがそういうと、2人は敬礼をし、扉を開けてくれた。その扉を通るとアスチータだ。
アスチータは魂の懺悔の地。生を受けた者の世で悪い行いをした魂が行き着くところだ。
その罪の重さに応じ、相応の重労働が課せられる。
アスチータに娯楽や幸福は一切なく、懺悔し、その魂の性根を叩き直す地である。
ジュネーロはアスチータにおいて絶大な人気を誇っている。
ジュネーロが最高総轄官長になってから暴動などが起きたことは一度もない。
怨恨の世という名に相応しいように、空は黒く、空気は淀み、薄暗く、不快な音があたりに響く。
その中をジュネーロは迷うことなく進んでいく。岩山や、黒の森を抜け、ラフレシアの花園を避け、血の池にたどり着いた。
そこにタケムラ ヨシヒトはいた。
タケムラ ヨシヒトは、血の池、通称"懺悔の池"の前で跪き、手を合わせ祈りをささげていた。
そんな彼に近寄り、声をかける。
「タケムラ ヨシヒト。少しいいか?」
「ジュ、ジュネ様!?は、はい!!」
タケムラ ヨシヒトはジュネーロが声をかけて来たことにとても驚き立ち上がってジュネーロの方を向いた。
「タケムラ ミナコがタケムラ ヨシヒトとの魂の逢瀬を希望した。それを受け、我々はティースト03を適用し、魂の逢瀬を行うことにした。
もしあなたもそれを望むというのならタケムラ ミナコのところへ連れて行く。」
その言葉を聞いて、タケムラ ヨシヒトはすこし呆然としたあと、大粒の涙を流した。
「…っ!ありがとう…ございます…っ!!よろ…しく…お願いします!!」
ジュネーロはタケムラ ヨシヒトの手を引いて、怨恨の扉へと戻った。
ジュネーロは右手を扉に、左手を自分の胸に当てて目を閉じた。
「ティースト03適用」
たちまち彼女の左手が黒く光り、その光りが右手へ、そして扉へと流れて行く。
「我、魂の逢瀬を取り仕切る者。
魂の流れを途切れることなく循環させるために、魂の悲願を叶えるために、フェリチータとアスチータの狭間へ。 アスチータ最高総轄官長の名の下に。」
ガチャリという音がしてゆっくりと扉が開いた。
「さぁ、行こう。魂の逢瀬だ。」
ジュネーロはタケムラ ヨシヒトの手を引き、扉の向こう側へと消えて行った。