プロローグ:00.無力な救世主の暇つぶし
俺の存在を感じている者がいる。その者は俺を恐れ、口をつぐんでいる。
俺は古くから存在しているアルベロ・サクロと共にある。
俺がアルベロ・サクロから生まれるのはそう遠くない。
厄災が近づいてくる足音が聞こえる。だがまだ近くはない。
しかしそれらを止めることができる者は"外"にはいない。
俺はずっと持っている本を今日も開く。
周りで少しずつ形を作っていく白と黒から離れ、根の奥の方へ潜り、本を開く。
その本には全てが書かれていた。
この世に"生"が生まれてから今に至るまで、そしてさらにその先の未来のことまで書かれていた。
しかしそれらはなんの意味もなさない。
なぜならあるページを境に真っ白で何も書かれていないページが続いているから。
そのページこそが俺が生まれる時だ。
何も書かれていない。それが何を意味するのか俺にはわからない。
厄災を止めることはできず、全てが滅ぶということを表しているのか、俺の行動により未来を変えることができ、全てを救うことができるということを表しているのか。
どちらにせよ今の俺にできることは何もない。
だから俺はページをめくり、今日という1日を消費していく。
俺が生まれるページにたどりつくまで。
1度アルベロ・サクロから生まれてしまえば、今考えていることも考えていたことも知っていることも全て消えてしまう。
それなら俺はやはり上へ出て、"外"の者たちが奮闘している姿をもう少し見ていようと思う。
どうせ忘れてしまうのだから、いい暇つぶしにはなるだろう。