5.不純な…
なかなか先に進まず…
螺旋階段を昇る私の後ろから、サンディーが話しかけてきました。
「イレット様、着替えられるワンピースは、私達で決めてしまってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、お母様達のお色もあるでしょうから、お願いできる?用意している間に、湯浴みをしていますから、よろしくね。」
「かしこまりました。」
歩きながら、短時間で仕度を終わらせるために打ち合わせをした後、部屋についた私とサンディーはそれぞれの行動へ移りました。
寝室の奥にある湯浴み場へ向かった私は、空の浴槽に手をかざし、呪文を唱えました。
「出でよ、水。」
水が溜まった後、今度は浴槽の脇にある風呂釜へ手をかざし、魔法で火をつけました。
この風呂釜、使用人達の負担が減るようにという名目で、10歳の私が構造を考えたように振る舞い、作らせたモノです。
今までは、浴槽を湯でいっぱいにするのに、火で水を沸かしたり、運んだりと、とても重労働の上、湯が冷めてしまう始末…なかなかお風呂に入る事が叶わず、タオルで体を拭くしかありませんでした。
お湯に浸かっていた日本人の記憶があるため、何としても入りたい!という願望もあり、"良い方法はないか…"と考えていました。
寒い日に、暖炉の前で体を拭いていた時、火を見て、"そういえば…日本ではお風呂を、薪で沸かしていた時代があった"というのを、急に思い出したのです。
まずは、お風呂に入る事のメリットを伝えて必要性を説く事、『冷たい水は下に、暖かい湯は上にいく』習性がある事、湯を沸かす構造を造り出せる事などを、お父様に伝えることがとても大変でした。
その努力甲斐あって、今では風呂釜の普及に伴い、感染症の発症が減ってきていると統計で出た時は、"不純な動機で始めたのに大事になった"と、私はとても驚きました。
そんな風呂釜が付けられた浴槽に手を入れ、良い湯加減になったのを確認し、香りの粉を湯に混ぜ入れた私は、ワンピースを脱ぎ、湯に浸かりました。
その後、バスローブを着て、朝に着替えた衝立の中へ移動し、待っていたサンディー達が緑色のワンピースを着せてくれ、少し髪を手直しました。
ちょうど仕度が整ったところで、リリスがドアをノックし、入室してきました。
「イレット様、お茶会のご用意が整いましてございます。東屋へとおいでくださいませ。」
「わかりましたわ。」
後片付けをするウィンディーとリリスを部屋に残して、サンディーと庭へと移動しました。
先ほど、レッスンを受けていたホールには出入り口があり、私達はそこから外へ出ました。
外に出ると、目の前はテニスコートが4面くらい入ってしまいそうな芝生が広がっていて、真ん中には噴水があり、ガーデンパーティーに使用してる庭となっています。
私達は、そのまま建物に沿って東へ歩いていき、角を左に曲がると、それほど広くはない芝生の庭に出ました。
庭の真ん中へ続く石畳を歩き、東屋へ到着した私は、先に来ていたお父様達に一礼し、椅子に座ったあと、話しだしました。
「お父様、お兄様、お待たせしましたか?」
「いや、大丈夫だよ。仕事の区切りがついたけれど、お茶会にはまだ早いが、仕事を進めると終わりそうもない…。そこで、私達もお茶会の準備を手伝おうと思ったんだよ。」
「えっ?では、テーブルなど運ばれたのですか?」
そう言ったお父様に驚いて、私は思わず声が大きくなってしまいました。
「はははっ!そう思っていたんだが、後は料理を運ぶのみで、もうやる事がなかった。」
「うん。仕方がないから、花を咲かせて、華やかにはしたけれどね。」
お兄様にそう言われ、私は周りを見渡すと、テーブルの中央には豪華な花達が生けられており、東屋の柱には蔦が這い、様々な色のバラが綺麗に咲いていました。
「ふふふっ。とても、素敵なお茶会になりそうですわ。」
私は、お二人にいい笑顔を向けながら、答えていると、お母様が到着しました。
「まぁ!まぁ!とっても綺麗ですわね!遅れてごめんなさいね。」
手を頬に当てながら言ったお母様が、椅子に座ったのを見て、お父様が言いました。
「では、お茶会を始めるとしようか?」
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