Prologue:悪夢ノ始マリ
「いーち、にーい、さーん、しー……もういいかーい?」
「まーだだよ」
新緑の中に子供達の声が木霊する。
木々が生い茂る神社の周りは子供達にとって絶好の遊び場。この島には都会と違って何も無いが、こうやって木々の中を駆け回ったり、探検したり、それだけで子供達は皆満足していた。
「もういいかーい?」
「もういいよー!」
かくれんぼの鬼になった少年は、木々の間を小走りで駆け抜けながら、隠れている友達を探す。
そんなに遠くには行っていない筈なのに中々見つからない。少年の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
急に寂しさに襲われ、半ベソをかきながら少年は必死に悪友達の姿を探す。遊びのレベルではないほど、少年は焦っていた。
――ふと、景色が開けた。
其処にあったのは小さな祠。そして、其れにあわせて作られたかのような小さな鳥居。
鮮やかな鳥居の‘赤’色は綺麗というより不気味な表情を持っていた。
「…ん。…くん……健一くんてばっ!」
隣の席の少女に起こされ、健一は目を覚ました。
「あーあ、結局誰も見つからなかったなぁ。」
「ちょっと!何寝ぼけてるのよ!もう放課後よ、放課後!!」
健一は半分夢の中に居るような状態で、ふらふらと腰を上げる。
まだ夢の中の感覚から抜け切れない。
新緑の中の心地よさと、寂しさから来る焦り。相反するような2つの感情を味わえた不思議な夢は、健一にとってどこか懐かしいものでもあった。
健一はまだ知らない。
この夢が、覚める事の無い悪夢への入口だということを――。