記憶喪失
・・・ここはどこだ・・・
気づけば森の中にいた。ここはどこなんだろう。
俺は・・・誰だろう・・・。
「どうしたの?君は誰?」
遠くから男の声が聞こえた。
「聞こえてるのかな?君ー!聞こえるー?」
声のする方向を向いた。そこには男が不思議そうな顔で立っていた。年は俺と同じくらいか。
「・・・聞こえる・・・」
「よかった・・・会話できないのかと思った・・・。それで君の名前は?どうしてここにいるの?」
「・・・・・」
・・・分からない・・・俺の名前・・・なんで俺はここにいるんだ・・・。
「分からないのかい?窓は見てみた?」
「・・・窓・・・?」
なんだそれは。この人は何を言っているんだ?
「それも分からないのか?これだよ」
そう言いながら、男は右手の人差し指を上から下にスライドするように動かした。
すると、男の前に謎の液晶画面のようなものが出てきた。これが窓って奴なのか?
「君もやってみなよ。窓の左上に名前があるはずだから」
俺も男と同じように右手人差し指を動かした。
そしたら俺の前に窓が出てきた。窓の左上には・・・
「ユウキ・・・」
左上にはyuukiと書いてあった。これが・・・俺の名前なのか・・・。
「ユウキっていうのか。ユウキくんはどうしてこんな所にいるの?」
そうだ・・・俺はなんで・・・こんな所にいるんだ・・・
「・・・分からない・・・自分がなんでこんな所にいるのか・・・記憶がないんだ・・・」
「記憶喪失ってやつなのか・・・。ちょっと君の窓を見せてくれないか?」
「・・・ああ・・・」
そう言って俺は男に窓を見せた。
「それじゃあちょっと失礼・・・」
何かを探しているようだ。
「・・・天職が無い」
「・・・天職?」
天職ってなんだ?
「生まれたときに与えられた仕事の事だよ。普通ならここに書いてあるはずなんだけど」
男がさしたところを見てみる。そこにはcallingと書いてある。天職という意味なんだろう。その下には何も書いていない。
「天職がないとなると、君はもしかしてエレボスの迷い子なのかな?」
「エレボスの迷い子?なんだそれは?」
「名前の通り暗黒神の子供だよ。迷い子となってこの森に出てくるって話が昔からあるの」
「そうなのか・・・」
・・・分からない単語が多すぎる。それに自分についての記憶がない。なんで記憶がないんだ。何でここにいるんだ。なんで俺は・・・
「ユウキくんさ。良かったら僕の家にこないか?」
「・・・え?なんで?」
「だって記憶がないんでしょ?そしたら行く宛なんてないでしょ?」
「・・・ああ」
「君の記憶の手がかりを探すならこの森だけじゃ無理でしょ?それに・・・」
「それに?」
「・・・なんか君とは前にあった気がするんだ。だから・・・どうかな?」
「・・・・・」
確かに記憶の手がかりを探すならこの森だけじゃ足りないだろう。ほかの場所にも行って見ないことには。それなら・・・
「・・・お願いしようかな」
「おっけー。それじゃあこれからよろしくね。ユウキくん」
「ユウキでいい。よろしく頼む・・・えっと・・・」
「あーまだいってなかったね。僕の名前はシノ。シノって呼んで、ユウキ」
「ああ、シノ」
この頃の彼には分からなかった。今自分が置かれている状況に。そしてこれから起こる残酷な結末に・・・