2-Ⅱ 昼食
「やっぱりこの手の服は美少女が着てなんぼよね~」
ヘラが昼食のケバブを頬張りながら言う。
私達4人は搬入作業を行っている間、近くにある街で時間を潰すことにしたのだ。辺境の地というだけあってこの街で1番大きいショッピングモール(2階建て)を1時間半程度で網羅し、少し早いがモール内のカフェで昼食をとることにしたのだ。
「ちいさな街の割に大きいお店があるんですね。」
黒を基調としたゴシック・ロリータ・ファッションに身を包んだ真っ白な少女がぽつりと言う。
2日前ーその少女は突然現れた。
回収したコンテナに積んであった人工冬眠装置から出てきた彼女は所謂記憶喪失という奴だった。否、記憶喪失というより記録喪失と言った方が正しいのだろうか。
「君の名前は?」
「私はベルガモです。」
「年齢は?」
「8歳と推定します。」
「お家はどこ?」
「ここです。」
「お父さんとお母さんは?」
「どこかにいるようです。」
「なんでコンテナに入ってたの?」
「目的があるからです。」
「目的って?」
「あなたと会うためです。」
「私と?」
「或いは他の誰かとです。」
質問に対しては終始こういう感じである。分かりそうで分からないから手におえない。丁寧口調から察するに教育はしっかり受けているようだが、はっきりとこちらの質問に対して回答となっているのは名前だけだ。ふざけている訳ではなく、至って真面目に真顔なのがなおさら厳しい。推定8歳というのもよく分からない(まあ、全体的によく分からないのだけども)。果たして人体実験の被験者なのか、どこかで事故にあった船の生き残りなのか、はたまたただ捨てられたのかと色々考えてみたけど、結局、当然と言えば当然なのだが答えなどでず、ほっぽり出すわけにもいかないので保護という形をとることに決まったのだ。
「基地の近くにこの街しか無い以上、最低限の物は全部ここで買える。逆に言えばこの街はこのお店一つで全てがもってるのだ。街で他にあるのは飲食店が数件くらいだからな。」
ネメシアが説明する。私達だけの時はそこそこ喋ってくれるのだ。
「詳しいですね。」
「まあ、結構ここに来ること多いからね。というよりさっきネメシアちゃんが言ったみたいにここ位しか行く場所がないんだよね。私達の拠点が艦である以上物資の補給はできるとこで済ませないといけないし。」
「そういえば」
ケバブを食べ終わり、食後のコーヒーを飲みながらヘラが話し始める。
「私とネーちゃんは今から男物の衣類買いに行くけどリコちゃんとルゥちゃんはどうする?」
残酷な話だ。ベルガモの呼び方は結局ルゥで落ち着いた。ベルだとベルジュと被って分かり辛いからだ。
「あー、私はもう少しここで時間潰してようかな。なんだかんだで男用下着とか見る勇気ないし。」
「じゃあ、私もここにいます。」
「なんか懐かれてるわね~。んじゃ、ちょーっと行ってくるから!」
2人が席を立つ。私はその背中に手をひらひらと振った。
「あの…」
ルゥちゃんが声をかけてくる。珍しい。
「ん、どうしたの?」
「私は、ここにいてもいいのでしょうか。」
質問の意味がよく分からなかった。
「どうしてここにいちゃいけないと思うの?」
「分からないからです。」
「分からない?」
「私は分からない存在だと思います。どうして分からない存在を手元に置いておくのかが分からないです。分からないものを手元に置いておくのは危険、と、思いました。」
急に難しいことを言い出すのであった。確かに理解できないものとは恐怖の一種である。でも、
「自分の分からないものを切り捨てていったら、それはきっと何も残らないと思う。まあ、今回とは全然ケースが違うけどね。女の子を拾ってそんなもの知りませんなんてできるわけがないじゃない。」
「危害も加えないじゃないですか。」
「人をなんだと思ってるのよ…。これまでになんか合ったの?」
「何もなかったけど、人はそういうものと結論付けました。」
「結論付けたって表現がいまいちピンとこないわね。」
ルゥをちらりとみるとコーヒーに悪戦苦闘していた。
「…。ルゥはここが居心地悪いの?」
「そんなことないです。むしろ、ずっとここにいたいです。」
「じゃあそれでいいんじゃない?」
「?」
「ルゥが来てから2日。私達は誰もルゥが嫌いじゃないし、ルゥもここが嫌いじゃない。」
私はルゥを持ち上げて膝の上に置く。つめたくは、なかった
「居場所を求めない人間なんていないし居場所がない人間なんていちゃいけない。家族がいるのか、どこから来たのかとかは分からないけど、今はここがルゥの居場所。難しく考えなくてもそれで、それだけでいいんじゃないかな。」
ぴょん
と、ルゥが膝から飛び降りる。ゴスロリファッションのスカートの裾が跳ねる。
「変なことされると思いました。」
どうやら膝の上はお気に召さなかったらしい。これぞまさしく、安心させようと思ったのが裏目に出た形である。やはり過度なスキンシップはよくない。
「でも…」
くるっとこちらを振り返る。
「ありがとうございます。」
ルゥはにっこりと笑った。