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クロノス・モンステラ  作者: おでん少年
3/6

1-2 邂逅


「リコ、お疲れ様。10分後に依頼を再開するに当たってのブリーフィングをするからそれまでに食堂に集まってくれ。報告はその時でいいから。」

格納庫に入ったままコクピットの中でぼんやりしていると、ウェーブがかった濃い茶髪でくりっとした大きい黒目に虫眼鏡のようなメガネの青年から映像通信が飛んできた。

「わかったよ、パスク。」

「それじゃあ、僕は一足先にネメシアと一緒に行くから」

「相変わらず仲がよろしいことで。」

「僻むなよ、いい彼氏ができるのを祈っとくよ。じゃあまたあとで。」

パスクはそう言うと通信を切った。

この艦(艦といっても輸送用シャトルを改造しただけだが)で独り者は私だけである。そもそも5人しかいないから当然一人余るわけで、それが私だ。その時点で彼氏などできるわけないのに嫌味な奴め。


パチン


鬱々とした気分でジャケットのポケットから懐中時計を取出し蓋を開け、時間を確かめるついでに蓋の裏に貼ってある家族写真を見た。


精悍な顔立ちで短い金髪に金眼のお父さんと少し頬が膨らんでいて肩までの黒髪に碧眼のお母さん。そして二人の間で手を振っている父親似であろう精悍な顔立ちに金髪碧眼の少女。

「まだ8歳の頃だなぁ。」

懐かしさと憂鬱さの混ざった溜息を吐く。

16年たって成長したのは身長だけだ。ちらりと胸を見るとまた溜息が込み上げてくる。せめて身長5センチ分がバストにいけばもう少し男に縁があったのかもしれない。貧乳がステータスというのはレアケースなのだ。今まで告白されたのは2回。両方とも女の子相手である。残念ながら私にそういう趣味はない。

「多少は髪を伸ばしたりもしたんだけどね。」

呟きながらそっと目にかからないくらいに伸ばした前髪に触れると、首元が覆われる程度には伸びた後ろ髪が申し訳なさそうに揺れた。気が滅入りそうになったので思考の転換。


私たちが乗るHAFは木星軍規格の物を自分たちの戦闘スタイルに合わせてアセンした物だ。元々Gによる負担が軽減されるようにかなり頑丈に作られている。そのため胸部が中々でかい。そして、それを支えるために当然脚部も太い。しかし、それなりに機動力も必要なため腕部は貧相で頭部は小さくとても見た目のバランスはいいとは言えない。バイザー型のアイカメラだけはお気に入りだけど。


ぐるりと周囲を見渡す。

見慣れたコクピットの風景。

天井は低いが無茶をすれば二人乗りできそうな程には広い。中々に居心地がいい狭さである。ここでぼんやりするのがたまらなく好きだ。何も映っていなくて真っ暗なパノラマ型のモニターは全てを受け入れてくれそうである。


パチン


と懐中時計の蓋を閉じジャケットに仕舞い込む。同じ場所に同じものがないと不安だ。

座席の裏側にあるレバーを降ろすと厚いコクピットの上部のハッチがスライドして格納庫の天井が露わになる。座席を台にして這い出た。

「んじゃ、行きますかね。」

誰に言うでもなく呟いて食堂に向かった。




「えぇ?食べちゃったの?ホントに?信じらんなーい!私言ったじゃん、残しといてって!確かに言ったじゃん!その時アンタ何て言った?『あー、うん』って言ってたじゃん!しばらく木星出るからって折角買っといたのに!」

「えーい、かしましい!悪かったって言っているだろう。あれがラストだとは思っていなかったのだ!」

「なにそれ!?開き直り?元教官の台詞とは思えないわッ!」

食堂に入るとけたたましい口論が始まっていた。

「えーと、何が起きてるの?」

様式美ともいえる質問をする。

「あ、リコちゃん!聞いてよ!ベルジュったら私のカップ麺食べちゃったの!」

けたたましい声の張本人が、声を張り上げる。栗色の瞳に桃色の髪で、童顔、低身長、豊満なバストと男のツボを押さえたかのような見た目。世の中はなんて不公平なのだろう。

「そりゃまた随分ベタなことで…」

「食堂でお前らの帰艦を待っている間に小腹が減ってな…。何かないかと目についたものを食ったらラス1だったようなのだ。しかもそれがヘラニアのだったようだ。」

がっちりとした体格に無精髭、短髪黒髪の見るからに軍人のおじさんである。本気で困っているようだ。鬼教官も結婚してしまえば随分丸いものである。

「…揃った訳だしそろそろ始めないか?」

ネメシアがポツリと言う。女の低音ヴォイスはポツリと言っても中々に通る物だ。

「まだ1分あるよ!」

ヘラが主張するがその意見は通らなかった。

「じゃあ、私の報告から。」

「ああ、リコ頼んだ。」

「今回交戦したのは民間の旅客機を襲っていた元木星軍と思われる4人で、使用機体は全員ジュピテルを黒色にカラーリングしたものだったよ。色以外の大きな性能の違いも見受けられなかったかな。目的は強盗だったみたい。」

「ジュピテルか。まあ、普通の元木星軍軍人のようだな。火木連ができた時に廃番になってしまったが、木星軍に所属していれば1番思い入れのある機体だからな。退役する時に退職金代わりに貰って行った奴も多かった。」

「そいつらが海賊になって困ってるんだけどね。」

ヘラが口を尖らせる。

「海賊になる奴もいれば俺達のように真っ当に稼いでる奴もいる。マイナス面ばかりじゃないさ。」

「それにしたって機体を上げちゃうのもどうかと思うけどね。」

「軍が解体され、再統合される際にくいっぱぐれ軍人が暴動を起こさないようにするための苦し紛れの政策だからな。実際に海賊なんてやる連中は少数さ。」

「アグレッシブな少数派程性質の悪い者はない。」

ネメシアがこれまたポツリという。

「…報告はそれだけか?」

軽く咳払いをしてベルジュが問う。

「それだけだよ。」

「僕から一ついいかな?」

パスクが手を上げる。

「少し先取った話になるんだけどさ、火星にいく時にその戦闘があった宙域に寄って欲しいんだよね。具体的な要件を言えば、ジャンクが欲しい。」

「20分程度のロスは…まぁいいのだが、あの磁場帯にはなるだけ寄りたくないな。」

「腕2本と足6本、回収しておきたいんだよね。マシンガンの弾薬も中々に美味しい。特にジュピトリスともなれば殆ど何もいじらなくても僕達の機体と互換性があるからね。」

「それ海賊とかわんないじゃーん。」

「目的の違いとういのは大きいものだよ。それを回収しに来るとは思えないし、ほっとけばただのゴミさ。ゴミ拾い、何てエコなのだろう。さらにそれをリサイクルだよ。」

「さて、そろそろ依頼の話だ。分かっていると思うが今は木星基地から預かった新型機『カデンツァ』の輸送中だ。届け先は、火木連火星部弐番隊の基地だ。」

「あそこって火星の中でも辺境の地だよねー。面積も少ないし。なんでそんなとこに最新鋭機を配備するんだろ。」

「余計な厄介事はつまらんから変な詮索はするな。話は逸れたが、俺達はそれを明々後日の正午に届けるのが目的だ。」

「何事も起きなきゃ明後日にはつくね。」

パスクが不穏な発言をする。

「寄り道でもしなきゃ何事も起きんさ。」

「えー、ここで回収しておくことによって何事が起きた時の対処がぐっと楽になるんだよ!」

ベルジュは自分の顔に手を当てる。本気で面倒くさくなってきたようだ。

「もしかしたら流されてどこかにいってしまうかもしれない!そうなるともっと時間食うし面倒だよ!」

「分かった分かった。ただし目視できないほど流されていた場合の捜索はなしだ。」

ベルジュはヘラと一緒に操縦室へ向かった。



「磁場帯に入ったよ!」

ヘラから通信が入る。そして5分後

「目標物確認。2機とも回収作業に移ってくれ!」

ベルジュからGOサインが出た。

「リコリス、スティング、出ます!」

「ネメシア、ハンター、出撃する!」

スティング、ハンターは共にジュピトリスをベースにした改造機だ。

高機動戦闘用に足と背中にバーニアを増加したのが私の乗るスティング(予算の都合で残念ながらミサイルは積んでいない)で、ネメシアが乗る機体が、肩・腕部を強化し、腰部に4方向に固定用のワイヤースパイク・背中にライフルを装備した狙撃機ハンターである。


格納庫の下部のハッチが開いた。出撃するとすぐ近くに腕が2本転がっている。

「リコリス、腕2本発見しましたッ!」

「ネメシア、脚部6本発見。2本ずつ回収作業に移る。」

「了解だ。リコは腕部を回収した後脚部の回収に行ってくれ」

「了解ッ!腕の次は脚ですねッ!」

昔の癖か外で活動しているとつい敬語になってしまう。昔といえどたった3年前なのだ。そんなことを思いながら腕部の回収作業を終えネメシアと合流する。ネメシアはもう4本目の回収を終えようとしていた。

「先に艦で待ってるぞ。」

短い通信が入る。

「了解」

そう答えた後、2本の脚部を手に取ろうとしたその時である。


がいん


と鈍い音と衝撃が右肩方面から伝わる。慌てて頭部を振り周囲を確認する。

襲撃…?それにしては衝撃が温い。当然レーダーは反応しないし辺りにはなにもー、

あった。


何故気づかなかったか不思議な程、不注意と呼ぶには無理がある程の大きさのコンテナが目の前にあったのだ。スティングを成人男性とした場合における跳び箱3段程度の大きさのものが。

「こちらリコリス!謎のコンテナを発見しましたッ!」

とりあえず報告する。組織の基本はホウレンソウだ。

「コンテナだとぉ!?そんなもん…、…こちらも確認した。」

「どうしましょう。」

「どうしよう。」

「とりあえず回収でいいんじゃない?掘り出しもんかもしれないよ!」

パスクから連絡が入る。

「…仕方ない。悩んでいる時間がもったいないからな。とりあえず回収して中身次第ではリリースだ。」

「了解ッ!」

コンテナを抱えるようにして回収した。




「あたたかい」

その少女が最初に発した言葉だ。



ー15分前

「お疲れ様!いやー大漁大漁!さっそく開けてみよう!」

パスクが興奮しながら作業用アームを動かす。エルピスの格納庫は前部後部の二箇所あり、後部が仕事用、前部がドックとなっている。収納量は前部は最大4機、後部は最大2機となっていている。

「ぎりぎり入ったな。」

「入らなかったら後部で開けるだけさ!」

「ジョークでもぶっとばすぞ!」

ベルジュがパスクの頭ををはたく。同情の余地はない。

「ふっふ~ん」

どこ吹く風で素晴らしく上機嫌だ。

「さ~て、ご開帳~、っと…うん?」

中から出てきたのは長さ2メートル程度の横たわった円柱状の物体4基と廃材のようなものだ。

「う~ん、期待してたのとは違うなぁ。もっと未知なるあれかと思ったんだけどなぁ。だって見えない(正確には見えなかった)コンテナだし。」

そういって作業用アームの操縦室からでる。円柱を確認しに行くらしい。

「流石に何か出てきたら怖いしみんなで行こう。」

パスクが操縦室にいる二人を呼びに行った。こういう時ばっかり行動的である。まあ、誰しもそういうものだとは思うけれど。


5分後

皆揃ったので円柱状のものを確認しに行く。4基横1列に並んでいたので右端から確認することにした。

「なんだこりゃ?スイッチみたいなもんはくっついてるけど反応はないな。違和感と言えば型番号みたいなものは見受けられないし、素材は明らかに俺達の機体とは別のモンだ。っと側面のカバーを開けれるな。プラグみたいなのが結構つまってー」

「ね、ねぇ…ベル、あれ!」

ヘラがベルジュの袖を引っ張る。

「ん?どうした?」

ヘラが3基目を指さしている。ほのかに発光しているようだ。慌てて3基目に駆けつける。

「スイッチ、押すよ。」

私が呼び掛けると一同はうなずいた。スイッチを押してみる。所謂ポチッていうタイプのスイッチだ。

「ポチッとな。…うわぁ!」

スイッチが着いていた円柱における底面の部分が勢いよく飛び出してきた。

「なん…だ?こりゃあ?」

起き上がると、円柱から円柱が飛び出ていた。まるでネギだ。

「どうしたのー、ッ!」

思わず息を飲む。

出てきた円柱の上部は透明で中が見えるようになっている。そしてー、中にはー、少女が目を閉じて仰向けに横たわっていた。白髪で腰まで届くほど長髪だが前髪をゴムのような何かで頭頂部付近にまとめている。服装は下着(パンツとノースリーブ)だけで両腕、両足に3本ずつ点滴で使うようなチューブが刺さっていた。3分ほどみんながみんな言葉を失っていた。

次の瞬間


プシュー


と円柱が音を上げ冷たく白い煙を吹き出し、透明な部分がわかれるようにした開いた。少女の顔を覗き込む。生気を感じないほど白い。しかし、いや、だからこそなのかもしれないが惹きつけられる。思わず頬に手を伸ばした。冷たい。


「あたたかい」


「おーい、これを見てくれ!」

パスクが何か叫んでいる。

「こいつは人工冬眠装置だ!」

少女の目がゆっくり開く。その眼はとてもー、紅かった。









チャプター1 用語集

・シノーペ戦争…本作開始時点の3年前に終結した戦争

        火星側は土地と資源を、木星側は技術力を求めて侵略していた

        木星側に後に英雄と呼ばれた後処刑された凄腕のパイロットが

        出現したため木星側が有利な展開になるも彼が独断で和平を

        結んだため戦争は互いに納得できるだけ譲歩して終結した


・木星の英雄… 凄腕のパイロット

        独断で和平条約を取り付けたため木星の過激派から非難を受け

        最終的には処刑された

 

・磁場帯…   シノーペ戦争中に突如火星木星間に現れた謎の磁場帯

        発生域の中心部に月の大きさ程の人工衛星のようなものが

        確認されているがレーダーが使えないことと宙域を海賊が

        根城にしていることの2点があるため未だに解析されてない 

      

・HAF…  元は宇宙での精密作業を行うために作られた人型ロボットHAを

       戦闘用にしたもの 意味はまんま人型装甲戦闘機


・ジュピトリス…シノーペ戦争における木星軍の主力HAF

       カラーリングは緑色 胸部・脚部は太いが腕部・頭部は細い

       頭部にはバイザー型のカメラと索敵・通信用にそれぞれ1本ずつ

       アンテナがついている


・スティング…ジュピトリスのカスタム機

       カラーリングは黄色で脚部・背部に追加ブースターが装着されて

       いるため機動力が非常に高い

       元々ジュピトリス自体がGには強いため費用を考えなければ

       相性のいい組み合わせである

       搭乗者のリコリスが射撃を苦手としているため装備はダガーのみ


・ハンター… ジュピトリスのカスタム機

       カラーリングは青色でライフルの衝撃に耐えられるように腕部・

       肩部を補強してある

       腰部には反動で機体がブレないようにするためのスパイク付き

       ワイヤーが対角線状に4方向装備されている

       装備はスナイパーライフル・ダガー


・エルピス… リコリス達の母艦であり運び屋としての名前でもある

       大型輸送用シャトルを改造したもので

       操縦室Ⅰ食堂Ⅰ居住区ⅠドッグⅠ積 荷Ⅰ

       Ⅰ--1--Ⅰ-1-Ⅰー2ーⅠ-1ーⅠ(比率)

       となっている

       部屋数は6

       真っ当な運び屋で評判も悪くない

       主に機体の運送をメインでやっている

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