1-プロローグ
どれくらいの頻度になるかは分かりませんが、書きたいものを書き切れればなあと思います。
「君は何故彼女を欲するのかね?」
軍人とは思えないほど痩せており銀縁メガネに銀髪をワックスでオールバックに固めている男が問う。
「私が彼女を手中に収めたいと思っているのは先程述べたとおりだ」
取調室というより会議室のような明るく広い部屋で、淡々と男はそう述べる。
「彼女は力の象徴だ。彼女さえいれば無駄な血を流すことなく和平条約すら結ぶことができる」
私は喋らない
「君の父上が火星と木星との間で起きた戦争〈シノーペ戦争〉に終止符を打ち散って行った英雄であることは調べがついている。そんな人間の娘であれば私の言っていることの正しさが理解されると思っているのだが、どうだろうか。」
思い出すのはお父さんの顔
笑っている
「当時、私は彼と対峙したことがある。伊達に木星の撃墜王と噂されていないな。白銀の人型戦闘機〈HAF-Humanoid‐Armored‐Fighter〉を駆る姿はまさに流星の二つ名通りだった。瞬く間に私のHAFは動くことすらままならなくなってしまった。」
どこか懐かしむような表情だ。まるでそれを誇りに思っているような。
「最近火星木星連合軍が地球軍と小競り合いしているのは君も知っているはずだ」
火星木星連合軍ー火木連ーはお父さんが取り付けた和平条約が結ばれた際にできた連合軍だ。
お父さんを、英雄を犠牲にして生まれた平和。
笑っている
「あの戦争では多くの血が流れた。」
当時士官候補生であった私は戦場を経験していないが、双方に多大なる損害があったのは記憶に新しい。
たかだか3年前の事なのだ。火星側は資源と土地を木星側は技術を得るために始まった戦争。
互いに利益を求めるために避けては通れなかった争い。公平を求めないからこそ、不公平を求めないからこそ起こる争い。
「君の父上が成し遂げられなかった事を彼女がいれば可能にできる。争うことなく地球軍との戦争にも発展しかねない小競り合いを収めることができる」
あの日のお父さんはー
やっぱり笑っていた
「今一度問う」
「君は何故彼女を欲するのかね?」