ヒロインはノーマルエンドを目指す 2 〜最後の乙女ゲーム〜
調子に乗って続編を書いてしまいました。
前作同様 生暖かく見ていただけると幸いです。
「えっ それは契約違反じゃないの?」
私は 相棒を問い質した。
「ゴメーン。完全にこちらのミス。ホント申し訳ない」
桜色の小鳥の姿をした私の相棒が小さな頭を下げた。
私は死の間際に「乙女ゲームのヒロインにならないか」と この相棒にスカウトされた。
最近は悪役令嬢の逆襲や ざまぁエンドの増加で、めっきりヒロイン志望が減ったのだとか。
私は10の乙女ゲームの世界でヒロインを務めることを引き受けた。
報酬として すべての乙女ゲームを終了させたら 剣と魔法の世界に転生させて貰うことを条件に。
9つの乙女ゲーム世界でヒロインを終え、最後の乙女ゲームに臨もうとした今 困った事がおきたのだ。
ヒロイン稼業を引き受ける際、いくつかの条件をつけたのだが その中の一つに
“乙女ゲームはR15までのものとする”
というのがあったのだが…。今回この条件が破られそうなのだ。
「ヤダよ、R18ゲームだとイロイロ大人の要素が出てきて、私にはハードル高すぎる」
「そこを何とかお願い」
この相棒には、今までの乙女ゲームで 私の特別サポートとして色々手助けしてくれた恩もあるので、応えてやりたいとは思うけど…。
問題の最後となる乙女ゲーム『秘密の薔薇の園』は もともとR15にしては 結構ギリギリで、攻略対象者達がヤンデレなのだ。
それが ガッツリR18になったという、ありがたくないお知らせ。
「このゲーム、R15だったんだけど、展開が中途半端で 生温い、もっと刺激を!のファンの声に応えて改訂版が出ちゃったんだよねぇ」
困惑気味に話す相棒。
「今から 別のヒロインを探せないし…。何とか お願い!」
「……とりあえず 改訂版の『秘密の薔薇の園』を詳しく説明してちょうだい」
そして、語られた内容なのだが…。
攻略対象者は5人。
思いっきり甘やかされ、権力をほしいままに振るい、ヒロインを力ずくで支配しようとする 第三王子。
親に放置され 歪んだ愛情が、ヒロインに向かいストーカーとなる宰相の子息。
束縛が行き過ぎ ヒロインを監禁する伯爵家の子息。
自傷行為を繰り返し、ついにはヒロインと無理心中しようとする子爵家の子息。
何が有ったのか、女性への恨みから連続猟奇殺人を犯す教師。
余りにも濃過ぎる攻略対象者達。
一番マシなのでストーカーってどういうことだ。
しかもどのルートでも凌辱ぽいの有りとか……。
「無い無い無い!やっぱ無理!!生き延びられる自信が無い!」
私は激しく頭を振って拒否した。
こんなデンジャラスな乙女ゲームは嫌だ。
「 ほとんど犯罪者じゃん。こいつら、殲滅してもいいならやるよ」
「それはカンベンしてよ。乙女ゲームの要素 微塵も無いよね。
それに彼らがそうなっちゃうのは バッドエンドの時だから。
ハッピーエンドでは犯罪者にならないから」
しかしこの『秘密の薔薇の園』では攻略出来るのは一人だけ。
つまり犯罪者阻止ができるのは一人。
あとの四人はどうするか…。
放置でいいか?
それとも 本来このゲームには無い逆ハーを目指してみるか…?
一瞬そんな考えが頭をよぎる。
いやいやいや、待て 自分!
9つの乙女ゲームをクリアしたからって 勘違いしちゃいかん!
私自身の恋愛ハッピーエンドは1個もクリアしてこなかったじゃないか。
ゲームの攻略対象者達と 傍らにいた ライバルキャラの仲を取り持っただけ。
ただの世話焼きオバさんでしかなかった私の恋愛スキルは レベル1というのもおこまがしい程だ。
血迷っちゃダメだ!
ここはいつも通りの方法で行こう。
まずは、攻略対象者達の性格矯正から取り掛かるか。
て 事は5歳くらいから始めるか…。
いや、三つ子の魂百までって言うから3歳から始めるべきか…。
ゲームが始まるのは16歳からだから 準備期間13年あったら何とかなるか…。
などと長考していたら相棒がおずおずと声をかけてきた。
「…あのー、もしもし…?」
「わかった。引き受けるよ」
私のヒロインとしての集大成とも言える最後の乙女ゲームだ。
最高のエンディングを迎えてやろうじゃないか!
「ホント?助かるよ」
「その代わり しっかりサポート頼むわよ」
「任せて。絶対に君を守るよ!」
いつになく真剣な声だけど 小鳥の姿で言われてもな。
さて 最後の乙女ゲームの世界で、私頑張った。
それぞれの性格のヤンデレ風味を少しでも軽くするために超頑張った。
まずは傲慢我が儘王子だが、悪い事したら怒られる、という当然の躾をした。
ポイントは、やらかしたら すぐその場で叱る。(犬の躾を参考にした)
しかし、今一つ効果が薄かったので拉致って無人島に連れて行った。
(其の間 相棒には 王子の影武者をさせておいた)
絶海の孤島でサバイバル生活。
泣こうが喚こうが甘やかしてくれる人はいない。
すべて自分でやるしかない。
時に獣に襲われ、死にかけた。
嵐に翻弄されて、自然の脅威の前で 己れの非力さを痛感させた。
満天の星空を眺めて己の小ささを知った。
自分を中心に世界があるのではないと思い知った時、王子を王宮に戻した。
次に 育児放棄されていた宰相の子息に対しては、親に説教…は無理なので 彼の周りの人たちを巻き込んだ。
つまり 乳母を筆頭に侍女や執事、料理人に庭師などを誘導して彼を構い倒したのだ。
何とか親の愛情は薄くとも人の慈愛を知ってもらえたようだ。
無表情だった彼に笑顔が見られ、年相応の我が儘を言えるようになった時は思わず目がしらが熱くなった。(母親か!←相棒のツッコミ)
束縛・監禁の伯爵子息には、将来 己がやらかすことになる束縛をたっぷり味合わせてやった。
美幼女に化けて伯爵子息にベッタリ貼り付き
「私以外の人と仲良くするな」とか「私以外見ないで」に始まり
「今日は何してたの?明日の予定は?」など かなりウンザリさせてやった。
自分がされて嫌なことは、人にしてはいけないよ。肝に銘じておくように。
無理心中予定(?)の子爵子息は身体が弱く見た目が可憐で儚げだった。
女子にはモテていたが、それが面白くない男子にイジメられていた。
かなり悪質なイジメに泣いていた彼の前に謎の転校生として男子に変身して登場した僕(私)。
友達になって彼の盾となりつつ、二人で必死に鍛練した。
強くなった僕らは、いじめっ子共を撃退した。
すっかり逞しくなった子爵子息は、将来 近衛騎士を目指すと言う。
うん 頑張れよ。と握手を交わす僕達。
……ん?何で顔が赤くなってんの?
…あのー、そろそろ手を離してくれないかなぁ…。
僕(私)を見つめる彼の眼差に 何やら怪しい雰囲気が感じられるが…。僕達男の子同士だよ?
はっ、…まさか友情以外のモノが育っちゃった⁈
……気づかないふりをしよう……。
騎士団に入れば、よりどりみどり。きっといい人が見つかるよ。たぶん…。
じ 、じゃあバイバイ…?
そして最後の連続猟奇殺人犯予備軍の教師なのだが、いったい何があってそんな事をしでかすようになったのか。
プロフィールによると、夫に顧みられ無かった母親に虐待されて育ち、さらに思春期の頃に母による性的虐待を受けた事で 女性に対する嫌悪感やら憎しみを持ったとある。
重っ!その設定 重すぎるよ!
取り敢えず、毒親から即 隔離!最後の一線からは守る事が出来た。
それから、相棒と共に家族として一緒に暮らした。
出来る限り愛情を注いで育てた(母親か!←相棒のツッコミ)
さて、成人した彼との別れをどうするか…。
ありきたりだが、不治の病でポックリ逝く事にして、彼の前から消えることにした。
突然の別れに 彼は、暫らく嘆き悲しんでいたが、やがて医師を目指し勉強を始めた。
その手に持ったメスが仁術のために振るわれる事を 切に希望する。
こうして乙女ゲームの準備が整った。
「これ乙女ゲームだっけ?なんか攻略対象者育成ゲーム、もしくは子育てシュミレーションゲームになってるような気がする…。」
相棒のいささか疲労の混じった声が聞こえた。
うん、今回かなりこき使っちゃったからね。ゴメン。
でも これでヤンデレ被害の危険は、去った筈。
安心してこのゲームのヒロインを勤められそうだ。
そして最後の乙女ゲームの幕が上がり、舞台となる学園に入学した。
久しぶりに会った攻略対象者達は、乙女ゲームのテンプレ通りそれぞれタイプの違うイケメンに育っていた。
「うんうん。皆 立派になってくれて 嬉しいよ」
「 お母さんかっ!」
相棒のツッコミが入る。
「それで この後は どうするの?」
「もちろん いつも通り。私との恋愛フラグは誰かに押し付ける」
何を今更な問いに当然のように答える私。
「そして 可愛いあの子達に ぴったりなパートナーを見つけてあげるよ」
「だから どこのお母さんなの…」
宣言通り、私は攻略対象者とのイベントをお嬢様に譲り(押し付けたとも言う)、フラグをへし折り続けた。
そして見事五人の攻略対象者達にパートナーが出来た。(一組同性のカップル有り)
私の役目は終わった。
今日、私はこの学園を去る。
見送ってくれるのは、私が取り持ったカップルの皆さん。
ズラ〜っと校門まで数十組。
攻略対象者とライバル令嬢の仲を取り持ったり、アドバイスをしているうちに、モブの皆さんからも恋愛相談されるようになっていた私。
「ありがとう、貴女のおかげよ」
「幸せになるわ」
などなど、お礼の言葉に送られつつ門を出た。
「最後までブレない姿勢に脱帽だよ。“伝説の仲人”の称号を君に捧げるよ…」
若干呆れたように相棒が呟くが、スルーだ。気にしない。
私は10の乙女ゲームで、ヒロインをやりとげた!
『乙女ゲームのセンス皆無』と かつて、友人のアイちゃんを呆れ返させたこの私が。
「これでアイちゃんに 少しは見直されるかな?」
達成感で少しテンションが上がってた私が言うと
「いやいや、君 一回も誰かとラブラブエンディング迎えてないよね。
『こんなの乙女ゲームじゃない!』って怒られるんじゃないかな」
ごもっとも…。
ま、まあいいや。とにかく終わった。
ホント最後の乙女ゲームはどうなるかと思ったよ。
執着・ヤンデレ怖い。私は真っ平ゴメンですよ。
何はともあれ、終わりよければ全て良しって事で。
それでは 皆さん、お幸せに〜!
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
私は これから 約束の、剣と魔法のファンタジー世界に転生する。
チート能力を付与してもらった。
産まれる家族も選ばせてもらえた。
期待に胸を膨らませている私。
「もう、行くの?」
桜色の小鳥の姿をした相棒が私の前で羽ばたいている。
「うん!」
「……」
何故か 相棒は無言だった。
「結構長いこと一緒に居たから、ちょっとさみしいけど…。お世話になりました」
「……」
私の挨拶にも やはり無言。どうしたの?
「…?もう行くね。じゃあね」
相棒は無言のまま転生して行く私を見送っていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ミレニール国の辺境に位置するローザレム伯爵家に女児が産まれた。
今日はその赤ん坊のお披露目の宴だった。
揺りかごの中で赤児は まだ良く見えない筈の目で周囲を興味深げに見渡してるように見えた。
揺りかごの側に誰もいないその時、2・3歳くらいの男の子が近づき赤児に向かってニッコリ微笑んだ。
その笑顔は幼児が見せるには異質なモノだった。
赤児の目が不思議そうに瞬いた。
「やあ、久しぶり。僕のこと わかる?」
幼児のその言葉に 赤児の目が大きく瞠られた。
「ずうっと一緒に居たいから、僕もこの世界に転生して来ちゃったんだ」
そう言って また幼児に似つかわしく無い笑みを浮かべた。
赤児はヒクッと息をのんだ後、火が付いたかのように泣き出したのだった。
いつの間にかガッツリ執着されていたという…。
しかも今後の転生先にも付いて来るとか……。
読んでいただきありがとうございました。