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神と怪獣としての世界  33

 

 *

 

 僕たちは銀色のゴンドラに乗っていた。基地本部と明神町を地下で結んでいる。

 70秒でハンバーガー屋の地下に着くはずだ。

 今度の怪獣のことを、泉さんは何か知っている様子だった。そこで僕達は泉さんの提案に乗り、明神町を目指していた。

 とはいえ、今までの「怪獣」の破壊で、電車もバスも使えないのは明らかだったから、早いのは直通のゴンドラに乗ることだった。基地まではロボットに格納されていた『SZ-ⅩⅠ』で戻った。

 僕達は、新しく出現した未確認の怪獣について、情報を持ってなかった。

 羽前さんにも予想外の事態なのだ。

「怪獣」は泉さんが倒したから、【正義】の一環でもない。

 まったく未知なのだ。

 あの怪獣は、何かが、決定的に違った。

見てはいないけれど、感じられるスケール感、おぞましさ、尋常ではなかった。声の方向からして、距離もあったはずなのに、怪獣のわきの下に立っている感じがした。

 基地に戻れた時、ようやくほっとした。

「泉さん、あの怪獣を知ってるの? あれは、一体なに?」

「『あの怪獣は、別』」

「別って、どういう意味? ロボットは泉さんが全部倒したよね?」

 泉さんはこくりと頷いた。

「『キャラクターの台詞を説明に費やすのは美味しくない』」

 と玄妙なことを言うと、泉さんは『名言集』のカバーに手を当て、十秒ほど目を閉じた。それから本を開くと、迅速にめくっていき、ある頁を破いた。

「『読んで』」

 破いた頁を僕達に渡した。僕はよく分からずに受け取り、隣の羽前さんと一緒に見る。

 こう書かれていた。


 

 正義の味方は、悪を必要とするパラドキシカルな存在。

 よって【正義】の能力は自作自演。

 しかし羽前杏奈の場合、自作自演にとどまらなかった。

 羽前杏奈は伊佐領祐一を目標とし、その影を追い掛け、神の修練を積んだ。

 つまり、神が神を必要としていた。

 伊佐領祐一から与えられた怪獣のイメージは、羽前杏奈にとっては伊佐領祐一の象徴と言える概念。それは深層のレベルで不可侵。羽前杏奈は無意識に怪獣を伊佐領祐一と同一化した。

 すなわち、神聖化した。

 だから、怪獣は神になった。

 神は、創造的存在。

 創造的機能を持つ。

 そして、神を創ることができるのは、神のみ。

 羽前杏奈は、【正義】能力とは別の、独立した神を産んだ。

 それは、純度100%の怪獣。

【怪獣】という神。

 真の【怪獣】を産み出してしまった。



「あたしが……」

 羽前さんは頁を握り、呟いた。自分から肯定はしなかったが、否定もしなかった。

「『わたしは怪獣の神が誕生したのを察知していた。羽前杏奈がそれを創り出した事実は、周辺事情より自然に導かれる。こんどの怪獣はわたしにも興味深い』」

 泉さんはずっと神を研究し、観測してきた。神全般への感度が僕達より優れている。

 おそらく泉さんの分析は正しいのだろう。

「羽前さんは悪くないよ。悪いのは僕だ」

 僕はそう感じた。怪獣を産んだのが羽前さんとしても、悪いのは明らかに僕だった。僕が塾に飽きてぷっつりと行かなくなったせいだった。怪獣物語を途中で放り出したから、怪獣が不可侵な亡霊になって一人歩きした。たとえば、僕が過去に怪獣物語を完結させておけば、こうはならなかった気がした。完結じゃなくても、物語内で怪獣を倒しておいたら、真の【怪獣】という神が産まれることはなかったろう。

 羽前さんには罪はない。無意識に産んでしまったんだ。羽前さんは精一杯に【正義】と向き合っていた。

 信じたくないし今も信じられないが、街だってぼろぼろに破壊された。このうえに、新しい【怪獣】という神が出現した責任まで、被せるわけにはいかない。

 それに、今度の怪獣が神なら、羽前さんや泉さんと同等。従えたり手懐けたりするのは、たぶん不可能だ。それこそ不可侵な存在になってしまった。泉さんが言うように、それは真の怪獣なのだ。そして、【正義】の一部であった「怪獣」よりも、神に成った怪獣は強大に違いない。

 僕のせいだ。

 ……これからどうなるんだろう?

「【正義】が終わっても、怪獣は居なくならない……、というわけですね」

 羽前さんは消え入りそうな声で言った。

「ならば仕事は続行です。市街の『MGT』の配備を急ぎます。ロボットもリペアしなければいけません。あたしが創ったものは、あたしが始末します」

 羽前さんは顔を上げた。

 驚いた。羽前さんは前を向いていた。こんな時も「正義」のことを考えていた。たまには休んでいいんだと声をかけてやりたい。でも怪獣が居る以上、休むわけにはいかない。僕は、気休めすら言えない。こんどの怪獣は僕に原因がある。

 けれど羽前さんは自分を非難した。

「思えば、『怪獣』をのさばらせたのは、あたしの責任でした。『怪獣』の正体は【正義】でした。『怪獣』と『正義』は同一でした。『怪獣』の状態には、あたしの状態が投影されたのは明白です。もしかしたら怪獣を倒せないのかもという不安。怪獣を倒したら『正義』の役割が終わるのかもという不安。あたしは不安を手放せませんでした。『怪獣』を育てたのは、あたしでした」

「怪獣」と羽前さんは、繋がっていたのだろうか。

 そういえば、僕が正義任務を手伝い始めてから、怪獣の襲撃が激化した時期があった。

 その頃、羽前さんは僕に基地に来るよう持ち掛けていた。「正義」への本格的な参戦。僕が参加するかどうか。参加したら僕の身が危なくならないか。そういう心配が反映され、怪獣が強化されたというのか。

 だけど、羽前さんだけのせいとも思えない。怪獣から羽前さんへの反映もあるはずだ。払い切れない呪いのような不安は、怪獣からの反映かもしれないのだ。いくら正義の味方でも、怪獣を倒せるかどうか不安になるのは当たり前だ。そういう思考すらも怪獣のパワーアップに反映されてしまう。だから自分を休みなく闘いに駆り立てなければならない。想像するだけでも、心がひび割れる。

 羽前さんは慣れてしまっただろうか。事実に絶望し、感情的には泣いてしまうような時でも、羽前さんは表情が変わらない。いや、感情自体が揺れていないのだ。殆ど揺れないのが、いまの羽前さんの、素の感情なのだ。おそらく羽前さんは、神に成る訓練の課程で、弾性のある鉄板のような、現在の感情を作り上げた。昔の羽前さんは、ふつうすぎるほどふつうの感情を持っていたことを、僕は知っている。羽前さんがふつうの感情のままだったら、怪獣はみるみる強化され、街はずっと早く滅びていたはずだ。

 麻形市の一部は、今、ボロボロに壊れた。けれど、「この程度で治まった」というニュアンスが真実なのだと思った。胸を撫で下ろし、息をつくべきだ。羽前さんは本当によくやってる。僕はほめてあげたかった。

「あ――。何をするんです? 祐一」

 僕は羽前さんの手を強く握った。不安を少しでも和らげてやりたかった。いや、和らげるなんて無理かもしれない。日中でも闇の中にぽっかり浮いているような生き方を、羽前さんはしている。いつも闇に包まれている不安や恐怖は、ふつうの人間には計り知れない。せめて僕はそこに近付いてみたかった。そばにいて見守るぐらいはしてやりたかった。安心させられるかどうかなんて知らないけど、僕にできるのはそんな事だけだ。

「ありがとう、羽前さん」

「何を言っているんです? おかしな方ですね。――でも、ありがとうございます」

 羽前さんはくすりと、笑うように乾いた息を吐く。そのさりげない動作は、僕には嬉しかった。

「『……到着する』」

 泉さんが淡泊に言った。

 ゴンドラが減速し、レールの終わりで止まった。

 

 *

 

「あら皆さん、何故そんな所から? サキちゃんまで、一緒に」

 異常に長い銀色の階段を上がり、ハンバーガー屋の厨房に出た僕達は、店内で紅茶を飲む引込さんの笑顔に迎えられた。

 引込さんの隣には、関山さんも居た。引込さんは泉さんを明神町駅まで送った後、偶然関山さんと会った。そこでライブの打ち上げも込みで、二人で軽食をとっていたらしい。この店に来たのも完全に偶然だった。けれど引込さんは神だから、偶然という言葉がどういうニュアンスかは分からない。僕達が来るのが判っていたなんてことは、さすがに無いと思う。でも、たぶん普通の人間が思う「偶然」よりは大きな意味のはずだ。

「あんた、……なんで厨房から出て来たの!?」

 関山さんは僕達に呆れたふうだったけど、すぐに冷静な顔つきになった。関山さんは僕達が4Rに乗り込んだところも見ている。少し非常識な程度の出来事には耐性ができたと思う。

「『ちょうどいい。あなた達も一緒に逃げたほうがいい』」

 泉さんはまばたきの速度すら変えずに言った。二人が居るのを知っていたかのようだった。泉さんの【存在】の力は、「時間」と「空間」を超えた能力だと聞いた。もしかすると「未来」を観るような使い方ができるのか。範囲や確実性はどれくらいなんだろうか。ともかく現状では泉さんの力が頼りだ。

 二人と合流できたのも良かった。何処に行くにしたって、固まって動けるのは大きい。

「どういうこと? 怪獣が出たの?」

 関山さんは立ち上がった。

「穏やかではありませんね」

 引込さんは紅茶のグラスを置いた。

 僕は窓に駆け寄り、景色を見た。

 いい意味で、裏切られた。

 静かな雪と明かりの町並みがあった。いつもの明神町があった。ここから見える限りでは、破壊されていない。

「『怪獣』は、麻形市に来る寸前、町軍を討滅しました。瞬間移動と半重力の機能を用いて、ステルス的に駐屯地を襲ったと思われます。町の被害はほとんど無いようです」

 隣で羽前さんが言った。軽く息をついたのは、安堵の溜め息だろう。

「――泉さん、これからは?」

 僕達は、言われた通り、明神町に来た。これからどうしたらいいのか。泉さんのプランを聞きたかった。

「『明神町駅に向かい、10分待つ』」

 店の時計を見て、泉さんは言った。

 それから店員さんたちも急いで避難の支度をした。

 ハンバーガー屋の扉には『CLOSED』の看板が掛けられた。

 

 *

 

 麻形市はもう破壊されていた。

 明神町駅。僕達は駅舎の二階に上がり、市街の方向を見ていた。

 雪にけむる山の輪郭の向こう。幅広い光の柱がぎらぎらと揺らめいていた。あきらかに麻形市の一部を覆ってしまっていた。僕はゾクッとした。それは流体のようにも見え、少しでも傾斜があればすぐに町にまで滑って来そうだった。

 みんなが言葉を失っているのが分かった。なんていう破壊力なのだろう。凄まじいまでの光。その力を言い表すのにふさわしい語は、確かに「神」しか無かった。

 僕は放心して立っているのだろう。

 雪煙の向こうに輝いている圧倒的な破壊を、ただ見ていた。不思議なほどに、ひたすら静かだった。物音はしなかった。人の気配なんて感じなかった。あの中に怪獣が居る。――あたらしく生まれ出た神。

「『闘うと言っていたが、あなたの設備では到底無理。だから退避した』」

 泉さんは羽前さんに言った。もちろん羽前さんも、隣町からも見えるほどの破壊を見せ付けられ、力の差は肌で感じたろう。僕も感じていた。『SSMG』が万全でも歯が立たないだろうと思った。

 だけど、羽前さんが退くかどうかは別だ。そして退かないのも解っていた。

 羽前さんは、怪獣と戦い続けるしかない人なのだ。

「しかし、あたしが逃げるわけには――」

「『はっきり言う。あなたの設備は型遅れ。もはや今までの怪獣ではない。あなたの役目は終わった』」

 羽前さんは抗うような目で泉さんを見た。

 けれど、言葉は続かなかった。

 羽前さんの設備は【正義】の「怪獣」に対応した機能だった。完全に別の敵に対しては対応できない。まして神が相手なら通用しない。

 ……だから、師匠のLaBrieが言ったように、「型遅れ」の能力を神化・・させる必要があるのだ。それには時間もかかる。今は逃げるしかないんだ。

「あたしの役目は、終わった――」

 羽前さんは呟いて、うなだれた。

 僕は気付いたことがある。

 いま見ている光景は、僕がむかし観た怪獣映画をなぞっているってことだ。

映画でも怪獣は何度も甦る。正義を自称する人間の軍や兵器に倒されても、まるで亡霊のように、絶対に復活する。しかも前よりも凶悪になって、強くなって甦る。人間はしっぺ返しを食わされて、また軍備や兵器をパワーアップさせたりして……それでもやっぱり、怪獣に引っ繰り返される運命にある。いたちごっこなんだ。

 だけど、怪獣映画での主導権は、常に怪獣のほうだった。人間は怪獣に翻弄され続ける。引き立て役なのだ。

 僕は映画の本当の展開を羽前さんに喋ったことはなかった。昔の羽前さんは怪獣を怖がっていた。いつか話そうとは思っていたけど、その前に僕は塾から去ってしまった。

 だけど皮肉にも。

「怪獣」を倒しても「真の怪獣」が誕生した流れは、映画と合致していた。

 まるで、映画が現実の予告編であったようにだ。

「『ちょうど10分経過。皆、そろそろ下へ』」

 窓から駅の下を見ていた泉さんが言った。一台のマイクロバスが、ざりざりと雪を踏み分けて、ロータリーに入って来た。この町が「平常運転」しているのは、地味ながら奇跡としか思えない。まだ麻形市の怪獣の報告は入っていないのだろう。いや、あの破壊の光景からは、人間が生存しているとも思えない。

 僕達は泉さんについてバス乗り場に行った。そこはスキー場へのバス乗り場。前に泉さんと使ったことがあった。泉さんはダイヤを把握していたのだ。

 僕達はスキーに行くわけではない。この町を離れ、X山に逃れること。それが泉さんによれば一番安全という。こんどの怪獣は、山には来ないはずだと……。

 ……なら何処に・・・来るのだろう?

 バスに乗ったのは、僕達だけだった。運転手さんは前と同じ人だった。バスはロータリーを一周、ひっそりとX山に向かった。

 バスの中、泉さんは、怪獣の分析と見通しを話してくれた。

 新しい怪獣として生まれた神。その性質は、【真の怪獣】であり、つまり「破壊神」だという。

[正義vs悪]の二元論にも制約されず、多数も少数も、強者も弱者も、等しく破壊する神。それは神の中でも異色な神であり、『わたしとしては興味深いところ』と泉さんは言った。

 今回怪獣が破壊する規模と場所は、見当がついているという。

 映画からも分かるとおり、怪獣は縁のある国や都市を襲来する傾向がある。

 今の怪獣は、羽前さんの内面から生まれた。

 だからまず、羽前さんが具体的に知っている範囲に襲来する。特に、正義任務においてカバーしていたエリアが相当する。

 つまり、麻形市の一部かつ明神町の全域が壊滅する。

 座席は異様な重苦しさに覆われた。

 本当にそんな事が起きるのか。起きたとしても、何もできない無力感。そんな中、引込さんと泉さんだけは、目立った落胆を表さない。その異常なマイペースが、どこか頼もしくも映った。

 運転手さんには僕達の会話は聞こえていない。聞こえても笑われるだけだろうな。

泉さんは続けた。

 破壊は、もっと広範囲に及ぶ場合もある。

 怪獣はすでに神として自律行動できるから。

 X山に来たら『あきらめて』。

 そう泉さんは言った。


「おおっ、なんだこりゃあ!?」

 運転手さんの叫び声がした。

 光のカーテンが掛けられたようにバスの中が明るくなった。

 バスは山の陰側の斜面を抜け、ちょうど下界が開ける道に出たところだった。雪が降り始める以前は、明神町方面を一望できた場所だ。きゅうに眩しくなった。たまらずバスは停まった。

 下界には巨大すぎる、光の池があった。

 明神町を覆い尽くし、山の麓にまで迫っていた。たゆたう破壊の光。雪のせいで膨張して見え、せり上がってくるようだ。おぼろげな光のプレートが目の前に浮かんでいるような、奇怪な錯視のような光景だった。

 その中で、黒い高層ビルのような半透明の影が、不規則にゆらめいていた。

 怪獣が、あそこに居るのだろうか?

 だけど、巨大な影は、光と溶け合って、姿を隠していた。

「ああ――」

 羽前さんは食い入るように見た。

「――ああ、――あああああ、――ああ」

 座席の下にうずくまり、子供のようにうめいた。

「羽前さん」

 僕は肩を叩いた。ぶるぶると、震えていた。振り向こうとはしない。壁に頭をぶつけるようにして、羽前さんは固く、小さく、うずくまっていた。追い詰められたゴキブリのように、震えていた。今はどういう顔をしているんだろうか。塾のときのような自信のない顔に戻っているかもしれない。羽前さんがかわいそうだ。僕は両手で肩を抱いた。でもそれ以上、なにもできなかった。かける言葉は見付からなかった。僕一人の言葉で怪獣が消えるほど、世界は簡単にはできていない。羽前さんはもう限界だった。これ以上、現実を突き付けられたら、崩壊してしまいそうだ。どうにかしないと。

 ――だけど、どうしてか知らないけど、僕はどこか落ち着いていた。

 破壊がひどすぎて、アタマがおかしくなったのか。

 いや、ちがう。心の中につつましく光っている、ぎらりとした確信。まるで、怪獣の光と共鳴するかのような、確かな光を感じた。

 きっとどうにかなる。なぜか、そう思った。

「『一部可変ループ』」

 呟く声がした。

 泉さんが座席のてっぺんに腕を乗せ、僕達を覗き見た。

「『破壊神の意義は、破壊。町や住民は破壊されるために存在し続けなければならない。消失させてしまうと・・・・・・・・・破壊の恐ろしさを存分・・・・・・・・・・に伝達できない・・・・・・・だから怪獣は破壊を反・・・・・・・・・・復する・・・

「――え?」

「『わたしの推測どおりなら、麻形市と明神町の建物や住民は、いちど徹底的に破壊された後、元通り復元する』」

 羽前さんは、暗がりから、おそるおそる顔を上げる。

「――え? 本当なの、泉さん?」

 僕は訊く。

 こくり。泉さんは頷く。

「『最後までやらせてあげて。半端な破壊では、ループは発動しない』」

 復元されると聞いて、まず安心した。神の力による破壊なら、同じように復元が起こっても不思議ではない。しかし気になったのは破壊が反復するというところだ。反復だから、ループと……? でも、『一部可変ループ』とは、どういう事なのか。泉さんの話の意味を反芻する。怪獣は破壊を反復する……。それはつまり……。

「それって、町はたしかに復元するけど、その後にまた壊されるっていうこと?」

 泉さんは、頷いた。

 なるほど。ちっとも笑えないことに僕は気付いた。復元されるけれど、それは次の破壊を受ける準備なのだ。復元は、束の間にすぎない。復元されたら、また破壊される。また復元し、また破壊される。果てるとも知れないループなんだ。

「でも、『一部可変』というのは?」

 僕は考える。ただのループではないはずだ。それなら『ループ』とだけ言えばいい。『一部可変』と言う理由は……。

 はっと僕は気付いた。

 泉さんは、怪獣が破壊を繰り返すのは、破壊の恐ろしさを存分に伝えるためと言った。それはつまり……。

「『復元・・された人々は・・・・・・自分が殺された記憶を・・・・・・・・・・持って甦る・・・・・?」

 こくり。

 泉さんは同意を示した。

「『この地方は破壊神を受け入れる未来を歩む。怪獣映画は有限なシリーズ。破壊神の破壊は、無限のシリーズ』」

 そうか。

 破壊を尽くすことが怪獣の意義。

 だから怪獣は、破壊しては甦らせる。

 記憶を持ったまま人々を甦らせ、骨身に沁みて破壊を味わわせる。怪獣の気が済むまで人々は破壊を味わうことになる。

 町は怪獣に取り憑かれてしまったのだ。

神に立ち去れなんて言う事はできない。怪獣が飽きるか、心変わりを待つしかないのか……?

 確かに言えるのは、町は今までのようにふつうでは、なくなることだ。怪獣に滅ぼされては復元される。人々は果てのない恐怖の下で暮らす。集団で引っ越せばどうにかなるだろうか。怪獣はついてくるかもしれない。第一、引っ越す時間もなく破壊されるのかもしれない。怪獣に殺されるために生きる一生。その反復。そんな暮らしを送る価値があるだろうか? 実質的にはもう滅びているも同然だ……!

 僕が滅ぼした。

 僕が原因で怪獣は作り出された。だけど怪獣は、もう神だった。僕達の手には負えなかった。もう逃げ回るしかなかった。今からは全く未知だった。映画でも体験したことのない領域だ。ひたすら破壊される未知のゾーン。今からの日々にどう向き合えばいいのだろうか。どうやったら立ち向かえるんだろうか。できることは一つも無いように思えた。

 怪獣は、雲を掴むような巨大な恐怖だった。

 未知の恐ろしいものが居ること。

 それこそ怪獣の正体である気がした。

 僕は初めて、本当の怪獣と出会ったのかもしれなかった。

「『復元されても、瞬時に破壊が為されるわけではない。備える時間は、あるはず』」

 泉さんは言った。励ましてくれたのかもしれない。

 それでも、いまの僕達には、絶望感しか無かった。

 バスが動き始めた。

 亡霊のような白い光は、胸に焼き付いて離れなかった。

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