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神と怪獣としての世界  30

 怪獣は身を震わせた。炭化した表皮が地面にボトボトと落ちていった。体の奥は青白く光っており、新しい「皮膚」が露わになっていった。

 予感した通り、中から現れたのは、真新しいロボットだった。

[GR(ゴースト・ロボット)。起動に失敗した神たちの末路よ。ロボットに取り込まれ、「怪獣」のエネルギー炉の中心として永劫に利用されるの。以前の神の魂を内蔵した筐体(ロボット)。これが怪獣の正体よ。そして最終ステージの敵となる]

 LaBrieの言葉は耳のそばを滑った。でも、僕の予想通りのことを言っていた気がした。

 起動に失敗した神は取り込まれ、永遠に怪獣(ロボット)の動力となる。【正義】の能力が存在する限り、「怪獣」をやめることはできない。GR(ゴースト・ロボット)とは、事実を突いた名だ。取り込まれた神はどうなっているのか? 潰されて一握りの金属塊になる、とLaBrieは言っていた。僕は吐き気がした。羽前さんがここに居てくれて、本当に安堵した。羽前さんはロボットに通電しかできなかったと言ってた。おそらく本格的に起動にチャレンジする段階には行かなかったのだ。そのことが却って幸いした。取り込まれずに済んだ。

 でも、羽前さんは、怪獣の中からロボットが現れるのを見てしまった。敵の正体を知っただろう。羽前さんは「正義」に一身を捧げてきた。怪獣が【正義】の自作自演だったと知ったら、只では済まないだろう。全部の責任は神である羽前さんに降り掛かってくる。

「怪獣」がふつうの世界を巻き込んだ責任。

「怪獣」が「正義」自体だった責任。

 一人のカラダがその重みに耐え切れるわけがない。人格が崩壊するほどのショックを受けかねない。

 僕は後ろを向くのが怖かった。何をしたらいいんだ? 闘えばいいのか? 闘っていいのか? 同じ形……いや、全く同一のロボットが相手で、闘ってどうなるんだよ? どうしてこんな事実を最後に突きつける。残酷すぎる。これじゃあ神は能力に翻弄されてるだけだ。神に成る意味なんか、何も無いじゃないか……! 倒れているロボットの、ナナメになった窓から、敵ロボットの巨大な姿が見える。不遜にも思える機械の顔が僕達を見詰めている。悠然とした立ち姿は、不覚にも美しかった。それは僕達のロボットと同じ姿なのだ。めためたに破壊された街に立っている、ふたつの巨大な力。その存在感はこれ以上なく圧倒的だ。


「――なるほど。こういうことですか」


 こつ、こつ、と響く足音。

 羽前さんが僕の横を通り、窓へと近付いた。

「あたしは『正義』に努めてきたつもりでした。しかし、こうして最後に『正義』を敵にすることになろうとは。皮肉な話ですね」

 羽前さんは敵ロボットをじっと見詰めていた。僕達を見下ろす巨大な目と口。機械の唸り声が低く鳴っている。僕は落胆のどん底だった。何をしても無意味な気しかしなかった。かける言葉が無かった。

[どうしたの、君。なぜ何もしないの? 早く戦闘を継続――]

 やめてくれ! 

 LaBrieの通信に、僕は心の中で叫んだ。筋違いだと分かっていたけど耐えられなかった。こんなことをやる意味が分からなかった。何が神なんだ。神の能力だ。人間の世界を破壊するだけの暴力じゃないか。ふつうの人間達を紙きれだとでも思っているのか。それだけじゃない。神本人だって翻弄される。殺されたり、裏切られたり、散々な目に遭ってる。こんな力は、世界には必要ではない。存在する意味がわからない。僕はそういう意味のことを内心でまくし立てた。僕は怖かった。カラダが急激に風化して消えるような不安を覚えた。

[――君が喚いたからといって、消えた街や人間(もの)が元に戻ると思うの?]

 LaBrieが僕の心に伝えてきた。

 戻るわけがないのは分かっていた。そして、荒廃した街は、すでに実現していた。僕はそれが恐怖だった。全身が竦んでいた。

[神の力はコントロールされなければならないのよ。神本人によってね。能力を制御できない神は滅びるわ。自身の能力に食われてしまう。そしてGR(ゴースト・ロボット)のように「神に使われる神」に堕落する。そうなった時は、人間の世界は混乱するわ。人間にとっては悲惨だわ。当たり前じゃない。人間というのは当たり前のことが分からない生物だから困るのよね]

 そう言いながらもLaBrieの様子は少しも困っていなかった。その瞳に映る微細な光沢は奇麗だったが、宇宙人の目でも見ている感じがした。

[神の力っていうのは、ほんとうに紙一重なの。神であるのならば、神の力を使うに足る者であるように、寸暇を惜しまず修練を重ねなければならないの。神がしっかりした器なら、世界に調和を与えることができるわ。能力の制御もできない脆い器なら、世界をボロボロにして自分も破滅する。それだけの単純な理屈よ]

 調和を与える? できるはずがないと僕は思った。「正義」と「悪」が戦い続け、空転するだけの能力。どう調和に結びつくっていうんだ?

[能力が、変容するのよ。進化、いえ、神化・・とでも言えるかしら? 能力は神のコントロールを受けて変化する仕組みを持っているの。問題点を修正し、バージョンアップするのよ。だから一人前の神ならば必ず世界に調和を与えるわ。能力を使って世界を荒らし回るような神は、邪道よ。神の資格を失っているわ。言ってみれば、神の能力なんてものは、付録みたいなものなのよ。神が人間世界に顕現するさいの鋳型のようなものに過ぎないわ。だから【正義】の能力が空っぽであろうと、別に問題ないのよ。修練して、統制して、能力を神化・・させればいいだけよ。踊らされてるうちは真に神とは言えないわ。神の本体は能力じゃなく、神自身よ。本質はあくまで神であること。神でありつづける態度・・なの。神は万全だし無敵よ。なぜなら神だもの。だから神の問題なんて解決できないわけはないわ]

 LaBrieの流れるような言葉には、どこか心の奥を鼓舞するパワーがあった。だけどやはり僕には支離滅裂だった。神の領域の話は、他人事のように感じられる。

「祐一」

 羽前さんは振り向いた。

 背後には、敵のロボットの巨大な顔。

「戦闘準備をお願いします」

「え? ……で、でも」

「ロボットが怪獣の正体なのでしょう? ならば闘いましょう。『正義』の仕事は『怪獣』を倒すことです。正体が何であろうと、闘うことでしか先には進めません。あたしはロボットを動かせません。ですから、闘って下さい」

 驚いた。羽前さんの様子は変わっていなかった。今までのように、怪獣を見る目でロボットを見ていた。羽前さんは真相を知ってしまったはずだ。これが「正義」の内輪揉めとは思わないのだろうか? 先に進む……? ここで闘うのが「前進」なのだろうか?

「神であるならば、こんな事態は任務を始めた初期に知っていてしかるべきでした。あたしが未熟なばかりに、偽装された怪獣との戦いにだらだらと時を費やし、怪獣の正体を知る時期がこんなにずれ込んでしまいました」

 僕は驚いた。

 羽前さんは、【正義】の真相がどうだろうと、気にしていなかった。羽前さんは【正義】を丸ごと受け入れているのだ。【正義】が自分に何を与えようと、与えられたものを受け入れ、解決していく。それを続ける事が「前進」なのだ。

 これが羽前さんの答えなのだ。神に成った人間の覚悟だった。

「ふつうの世界」の基準や道徳とは違いすぎる判断に、僕は衝撃を受けた。でも同時に、明快で潔いとも感じた。

「あたしは情けない『正義』です。怪獣の正体も明らかにできませんでした。正体を目の前にしても、ロボットを動かせず、肝心な場面で役に立てません。闘いたいのに闘えません。あなたに全部を委ねてしまうことを申し訳なく思います」

 羽前さんは淡々と言った。気のせいか、いつもよりも神妙な面持ちだった。言葉を探すように視線を落とし、しばらく黙っていた。二秒か三秒のあいだだったかもしれないが、敵が襲ってきそうな緊張の中、極限まで長く感じた。

 羽前さんは顔を上げた。

「あたしは、あなたに任せるだけです。あたしがあなたよりも信頼する人は、あたしの世界には、居ません。あなたは、最高の『正義』です」

 昔を思わせる顔で、柔和に微笑んだ。

 昔、塾で僕が話す物語を聴いてた時と同じ顔だった。頼りなげだけど、自分を全部預けるような、すべてを任せ切った顔。そこに僕は、一人の力を超えた、不思議な力が宿っているのを感じた。

「――勝ってください」

 柔らかい表情のまま、羽前さんは囁いた。

 勝ち負けなんかどうでもいいかのような顔で。

 僕は静かに頷いていた。腹に一本の芯がスッと入ったような心地だった。じゃあ闘おうと、自然に心が決まった。自分でも理解できない不思議な決断だったが、これでいいのだと感じていた。僕は一人ではない。羽前さんも一人ではない。一緒だから自然に決まる方向がある。「一人」という狭い枠が破壊される。そういう幸福が実際にあるということは、ある意味で神の能力の存在なんかより、ずっと神秘的に思える。

 僕はロボットの機首を持ち上げた。

 敵ロボットはこちらの戦意に反応し、威嚇の声を上げる。同じ機械の鳴き声。耳をザラザラと擦る。

 早く勝負を決めなければいけない。長引けば破壊は更に続く。

 敵ロボットの(パイロット)は死んでいるが、僕達は生きている。まだステージは途中なのだ。未来は選べる。僕達が負けたら状況は一層混沌とする。敵ロボットはふたたび「怪獣」の外皮をまとい、羽前さんの次の神を呼び寄せることだろう。時には子分の1stの怪獣も使役して、破壊を続けるだろう。【正義】の循環が繰り返してしまう。

 ここで止めなきゃいけない。

 僕は必死でパネルを打ち込んだ。敵から操作を妨害するノイズが出ている。こちらと同じ機能。同一の機体なのだ。身を削り合う戦いだ。

僕は何とか機体を浮遊させる。敵から距離を取る。敵の熱線が足元に吹き付ける。閃光と爆風で機体が大きく揺らぐ。こちらも同じ技、プラズマ・バスターで応戦する。双方の熱線が中央で衝突、やがて大爆発を起こした。

 威力が同じなら、手数だ。僕はCS(カプリース・ストリーム)を同時発射しようとする。入力を開始する。

 そのとき敵ロボットが消えた。

 モニターに警告が現れた。敵が至近距離に現れたことを示していた。しかし前方には怪獣は居ない。

 僕はモニターのマップで座標を読む。

 敵は真後ろだった。――ふたたび警告。敵の熱量の急激な増加を探知。

 そうだ、敵にはその手があったのだ。僕はいままでの「怪獣」の謎がみんな解けた気がした。怪獣が神出鬼没だったのは、『SMG』の技術を移植されていたからだ。反重力と瞬間移動の機能。雪の条件に加え、基地の先進的な機動力があれば、誰にも知られない破壊すらも可能となる。『SMG』にあって4Rに無い性能は、二つある。反重力と瞬間移動がそれだった。LaBrieから僕の脳に手順(コマンド)は送信されていたが、僕の脳は新しい情報を無意識に避けていた。シートに載っていた、慣れたコマンドだけで勝負しようとしていた。僕の頭は先進技術についていくのが遅れたのだ。

 僕は一瞬でそんなことを思った。

 手遅れであることを察知していた。

 熱量の増加。ということは相手はすでに熱線のスタンバイ状態にある。スタンバイから発射までに要する時間は0.19秒。その間に反撃可能な兵器は、存在しない。もちろん、こちらの熱線での反撃は間に合わない。せめてできるのは、全速浮上して損壊を軽減すること。僕はすでに浮上のコマンドを打ち込み終わっていた。ロボットは気球のようにじれったく上昇した。

 バッシイイイインと機体が内側から割れたような衝撃が、走った。浮きかけたロボットは、ゆっくりと重々しく、地上に墜落した。敵は知っていたのだ。僕達の機体は『SZ-ⅩⅠ』とのドッキング部分に耐久力の落ちる箇所があった。それが背面下部だった。そのポイントを至近距離から熱線で攻撃された。DD(ダイアボリカルダイアモンド)のコーティングも無意味だった。

[敵の熱線が左背面から胸部を貫通。第三エンジン損傷。飛行不能。AS(アブソリュートスフィア)消失。炉心の駆動率著しくダウン。起動停止まで60秒。コンピューター停止まで8秒]

 LaBrieが早口で状況を告げた。コックピットは横倒しだ。照明が明滅した。モニターには何も映らなくなった。

 僕はLaBrieに通信を試みた。[あとは何とかして。じゃあね]。出会った時と同じく、小気味よい応答を最後に、LaBrieのホログラムは消えた。

 倒れた機体の縦長の視界から、敵が見えた。心地良げに吹雪を全身にまとい、鬨の声を上げた。怪獣の時の姿より、ずっと凶悪だった。

 僕達のロボットは、敵のロボットの足下に這いつくばっていた。コックピットの中は真っ暗だ。計器もパネルもよく見えない。銀色に輝く敵だけがハッキリと見えた。ロボットを起き上がらせようとするが、動かない。そういや飛行不能だった。立ち上がらせて、歩行させるしかない。時間の余裕はあるか? その時、羽前さんが駆け寄り、パネルを二度、三度、触った。ロボットは反応しなかった。機関部の損傷がひどいからか。あるいは、羽前さん自体を認識しないのか。

 敵ロボットの機体に燐光が次々と灯り、照度を増していく。エネルギーを高め、熱線を放つつもりだ。

 こちらの機体は損傷している。この距離で熱線を食らったら、機体が残存する保証すらない。

「くそぉっ!!! どうすればいいんだよっ!!」

 僕は敵を見上げたまま、動きが取れなかった。敵ロボットはイルミネーションのように全身に燐光を点灯させていた。…きれいだ…。歌舞伎役者のように、右に左に機体を揺らす。来る。熱線が。万事休した――。

 僕の手がひとりでに動いていた。――ように感じた。落ち着いて認識すると、羽前さんの手によって、僕の手が動かされていた。

 羽前さんは僕の腕を握り、自分の手のように操っていた。僕はその時、4Rを操縦する羽前さんの様子を思い出した。目にも止まらない俊敏さでパネルを打ち込む、熟達の操縦技術。羽前さんは自分の体が認識されない現状から、僕の手を使って、何かをしようとしている。

 僕は一瞬のうちに羽前さんの意志を汲み取ろうとする。動作に協力する。打ち込まれようとしているコマンドを推測し、指の一本一本を準備する。流れに乗せる。その情景はスローモーションにも、こんなに早い一瞬はないとも感じた。窓の外に脇目をふることもなかった。自分の指が、た、た、た、とパネルに触れるのを通して、すべての情報が脳に集まった。入力されるコマンド。羽前さんがしようとしている事。まわりの状況の遷移。僕の指は、つまり、羽前さんの腕は、ミスひとつなく動き、入力を確実に進めた。がぱぁ、敵ロボットが口を開け、熱線を吐いて来た。

 僕達は敵ロボットを後・・・・・・・・・・ろから見ていた・・・・・・・

 入力の流れは続き――敵が振り向く直前、入力完了した。僕の人差し指はパネルの最後のキーを触った。

 スタンバイされた熱線が一気に敵を襲った。出力は、最大。放射時間は、無制限。敵の首根っこを熱線がビシビシと炙った。悲鳴をあげる敵。こちらの熱線の威力が敵の動きを押さえ込んでいる。反撃は許さなかった。

 バシィと音を立て、敵ロボットの首が飛んだ。頭部は地面に落ち、顎を震わせていた。しばらくして、目の光は消えた。

 敵の胴体は熱線の余波で倒れ、もう二度と動かなかった。

 僕はしばらく、呆然としていた。敵が動かなくなった後も、状況が信じられず、息が収まるまでジッと黙ってた。

 僕達は……。勝ったのだろうか?

「羽前さん……今のは?」

「はい、メインシステムがダウンしていたので、操作系統を非常電源(サブシステム)に切り替えて瞬間移動させ、IB(インファナル・バスター)を発射しました。あたしのカラダは認証されないので、あなたの腕を借りました。うまくいきました」

 羽前さんがそのコマンドをなぞったのは分かった。使われたのは僕の腕だ。とっさの機転の速さと、迷いのない判断。しかも、自分が使えない『SMG』の操作にも、僕よりも長けているなんて、僕はつくづく感心してしまった。

「ロボットを起動できなくても、全ての操作手順はカラダに覚え込ませてありますから」

 羽前さんは感慨もなく言った。基地の主として全部の設備を掌握しておくのは当然なのだろう。

[敵ロボットの完全停止を確認。勝負あったようね]

 LaBrieの通信が入った。非常電源(サブシステム)に切り替えたことで復活したのだ。

[よくやったわ二人とも。とくに杏奈君。最後の動作は、さすがだった]

 LaBrieは羽前さんを褒めた。本人には聞こえないはずだ。あとで伝えてあげよう。LaBrieは言い加えた。

[じゃあ、これも伝えてもらえる? 杏奈君はわたしの弟子の中でも学習の遅い子でね。神を学ぼうとする意欲は人一倍あったから、体裁を整えて送り出してやれたわけだけれど、まだ彼女は神のスタートラインに立ったにすぎないわ。神の中で言ったら半人前、いえ赤ん坊も同然。彼女は自分の能力を数・・・・・・・・・・パーセントしか引き出・・・・・・・・・・していない・・・・・。それはこれからゆっくり学習すればいいわ]

 羽前さんには、まだ隠された力が眠っているということか。たしかに自分の力を引き出してはいないように思える。『SMG』を起動できなかったのもそうだ。しかし逆に言えば、羽前さんの数パーセントの力だけで敵ロボットを倒すことができたわけだ。

 能力は神化する、とLaBrieは言った。羽前さんが力に目覚めていけば、【正義】の能力も合わせて変化する。それは恐ろしくもあったし、頼もしくもあった。

[もうひとつ伝えることがあるわ。これは、あなたに。まもなく非常電源(サブシステム)は切れる。ロボットは完全停止する。だから、頑張って。まだ3rdステージは終わっていないから]

「……え?」

[――]

 LaBrieからの声が絞られていき、途切れた。コックピットを包んでいた低周波も消える。非常電源が落ちた。今度こそ室内は真っ暗となり、静寂に包まれた。

 ……どん ……どん ……どん ……

 機内が震動している。

 遠くで起きている、巨大な、悠然とした響き。

 それは……聞き慣れた足音。

 僕達は窓に駆け寄った。遠く、明神町のほうからだろうか、雪に包まれた影が見えた。

 二体目の敵ロボット・・・・・・・・・の影だった。

「こ……これって……!?」

 僕は目を凝らす。二体……いや、それだけではない。

 ロボットの左に、もう一体。

 その左にも、更に一体。

 見えているだけでも、三体の敵ロボットの影が、悠々と近付いていた。

 ザシャ ザシャ ザシャ、ザシャ ザシャ ザシャ、……野太い機械の足音。

 雪の雲の中に、黄金の眼が六つ。扇状に僕らを取り囲んだ。

 そういう、ことなのか。

『SMG』を起動できず、取り込まれた神は、羽前さんの前の神だけとは限らない。怪獣は何体も居たのだ。もしかすれば、この三体以外にも居るのかもしれなかった。あと何体……何十体……? 一体残らず倒さなければ駄目だ。LaBrieが[まだ終わってない]と言い残したのはそういう意味だった。

 山が動くように、敵機が迫ってきた。表面の銀色は、土や錆のようなもので黒がちになっていた。どこで年月を過ごしていたのだろう。僕達の機体は沈黙していた。

 動かすすべが、もうない。

 僕達は全力を尽くしたし、僕達のロボットも全力を出し切ってくれた。やっと一体の敵ロボットを倒せた。それが今は新しく三体。

 僕は天災に遭ったような心地で、ぼんやりと窓を見ていた。悲しくもなかった。怖くもなかった。もう逃げられないんだろうと、客観的に状況を見ているだけだった。絶対的なスケールと力の前では、論理的に、つまり体感的に、死を自然に納得するらしい。よほど運が良ければ、機体は破壊されても僕達は生き延びられるかもしれない。でもほとんど無理だと判っていた。感慨もあまりなかった。

 ゆっくりと淡々と、ロボットは迫って来た。

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