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神と怪獣としての世界  29

 怪獣の死骸は、全体の輪郭がボロボロに崩れていた。恐竜型の原形が判りづらいほどだった。目があった部分も真っ黒になっていた。多少、縮んだだろうか? 目視では分からなかった。

 僕はパネルへと手を伸ばした。腕が石のように重い。怪獣の死亡を確かめるため、ロボットを一歩ずつ接近させる。

 

[死骸の内部に熱反応]

 

 少女(コンピューター)からの警告。鳴り響くアラート。僕はパニックに陥った。この状況は僕の危惧の中心を突いた。ロボットのエネルギー残量が少ない時に予定外のことが起きたらどうするか? 羽前さんなら先回りして手を打っておくかもしれない。しかし僕は戦いに熱中していたのを隠れ蓑にして、対策をわざと立てなかった。高をくくっていたと言われても仕方ない。オールウェポンの照射で決着はつくだろうと、楽観してしまったのだ。

 怪獣の目が、開いた。

 機械仕掛けのシャッターのように。

 その目に青い燐光が漲った。

 どういうことだ? 怪獣は倒したんじゃなかったのか。怪獣は硬化した全身を軋ませ、空高く咆哮した。僕には何分にも及ぶ咆哮に聴こえた。(カラダ)が凍り付いた。

 ……やんでいた雪が、バラバラと降ってくる。

あっというまに吹雪に包まれる。

「祐一! どうしました? しっかりして! ――はやく再起動を!」

 羽前さんにカラダを揺すられ、気付く。パニックから復帰する。ビカビカビカッ、怪獣の体が内側から光った。幽霊のような青白い燐光。瞼に焼きつく不吉な色。悪い予感と動悸が止まらない。僕は必死で少女(コンピューター)に応答を求める。

[――ら、――――し――、――ない]

 混線していた。聞き取れなかった。とりあえず怪獣から離れなきゃ。パネルを触るがミスタッチを頻発してしまう。何をやってる。自分を制御できていない。

「心を落ち着けて。集中してください。祐一の能力は、まだ不安定です。平静を保たなければ能力水準が維持できない」

 羽前さんがアドバイスをくれる。僕は少し落ち着いた。言葉では分かっても、まだ全身で戸惑っている。羽前さんのように平静を保つのは、本当に難しい。深呼吸をしてリズムを整える。パネルタッチの速度も落とし、着実に入力していく。通信が回復し、少女の声が届いた。

[聞こえる少年? 3rdステージが始まるわ。準備はいいかしら?]

「3rd………………ステージ………………?」

 ………………どういうことなのか? 

 少女は脳に語り掛けてくる。思った瞬間にレスポンス。

[最初の怪獣を倒せば真の怪獣が現れる。最初の怪獣は言わば中ボスよ。1stステージというわけよね。君達は怪獣を学校に追い込み、CPCで仕留めた。1stステージをクリアしたわ。だから2ndステージの真の怪獣が現れた。君達は新怪獣と呼んだわね。新怪獣を倒したら、【最強最後の怪獣】が姿を現すわ。それが、3rdステージ――最終ステージよ]

「【最強最後】――!? 待ってくれ。どういうことなんだ? 君は何を言ってる!?」

 怪獣が接近してくる。時折体内から青い陰気な光を発する。

 今までとは違う。底知れない空気を感じた。

 僕は後退のコマンドを入力した。ロボットが不活発だ。怪獣の体当たりを受け、ロボットはゆっくりと倒れた。半壊のビルを全壊させてしまった。コックピット内はAS(アブソリュート・スフィア)により平衡を保っている。僕は急いでロボットを立ち上がらせる。二度目の入力でようやく動作する。モニターでも反応低下が示されている。なぜか急に戦いにくくなった。

[敵はロボットのエネルギーを打ち消す磁場を持っているわ]

 ふぁん、と少女の立ち姿が目の前に来た。少女はにこやかに僕を見下ろす。余裕のない今は、焦っている僕を見て楽しんでるように思えてしまう。

[言ったわよね。『SMG』を起動できたのは君がはじめてだって。君は最終ステージに到達できた、はじめての【正義】なのよ。今までの【正義】はロボットを起動させられないで終わっていた。それがどういう意味か解る?]

「どういう意味なんだ!? いったい君は、何が言いたい!?」

 怪獣が追撃してくる。僕はロボットに受け止めさせる。さっきとは比較にならない重いパンチだ。怪獣がパワーアップしているのか。それとも……。

[君に教えるわ。最終ステージが何なの・・・・・・・・・・を。ここまで来た君は、秘密を知らなければいけない。怪獣の正体・・・・・を]

 怪獣の正体・・・・・……? 怪獣は、怪獣じゃないのか? 正体なんてあるのか? 僕は慄然とする。

[今は戦闘中だから、一瞬でまとまった情報を伝達するために、コンピューター(わたし)のデータを君の脳に同期させる手法をとるわ。洗脳ともいうけど、事実によるかぎり洗脳は許されると信じるわ。それに、君とわたしとの信頼関係もね。じゃあ、転送する(いく)わよ]

 少女の声は霞み、濃厚な光のように感じられた。

 その光は、情報の、すさまじい塊だった。

 時間の襞が引き伸ばされ、僕は一瞬のうちに、シャワーを浴びるように情報を得た。

 ……………………

 ………………

【正義】の能力は、意図的に怪獣を延命させたのよ。『SMG』の起動を高い障壁とすることで、怪獣を倒すのを困難にさせたの。

「神の自己保存の機能」により、『SMG』を起動させなかった。自己保存の機能って? 神の能力が等しく持っている性質よ。

 神という存在は、ふたつの要素で成り立っているわ。

 ひとつは神である本人。

もうひとつは神の能力と言われるもの。

つまり、「本人」に「能力」が合一することによって、はじめて「神に成る」わけなの。

 わたし達が先生や師匠と呼ばれたりするのは、人間が「神に成る」ことを手助けしているからよ。「塾」から送られた人間を訓練したり、適当な「能力」を探してマッチングさせるのは、すでに神であるわたし達の役割なの。いわば神の下での徒弟時代ね。

 でも、神の才に恵まれた人間は、その限りではないわ。塾にも通わず、卒業もせず、徒弟にもならず、勝手に「成って」しまうものよ。

 君のように。

 ここで言いたいのは、「能力」は「本人」から独立したものということよ。

 そうね、「概念」でも「物質」でもない、半透明の「球体」が空中に浮かんでいるとイメージして。

 わたし達は適当な「球体」を見付けてきて、生徒の内側に埋め込んでやる。そんなイメージなの。いうまでもなく、この球体が「能力」。「能力」はもともと神から独立した存在なの。

「能力」には、自身を維持しようとする機能があるわ。生命体のようにね。これが自己保存の機能。

【正義】の能力は、【「悪」と戦うこと】を内容としているわ。

 神は「正義の味方」となり、「悪」である怪獣を迎え討つの。

 でもこの能力はクセ者で、能力自体のバランスが危ういのよ。

 つまり、「悪」を倒したら「正義」の役割は終わるから、能力が必要でなくなってしまうの。

 そこで能力は、「自己保存の機能」にもとづいて、能力の内側に平衡を作り出した。――「正義・・が永遠に対峙できる構・・・・・・・・・・造を作った・・・・・の。

 さっきも言ったように、【正義】の能力は3ステージ制をとるわ。

 1stステージでは、怪獣は神の技量を見定めるのに最適な強さに設定されているわ。クリア率は42%。歯ごたえはあるけれど、神ならクリアしてほしいわね。

 2ndステージでは、怪獣は圧倒的にパワーアップした「真の怪獣」として現れる。この怪獣は神の力を上回っているわ。倒すには『SMG』を起動させることが必要なの。

 ところが、『SMG』も神の力を上回っているから、起動は原理的に不可能。神は2ndステージをクリアできない。だから、2ndステージのクリア率は0%……。この機構により、【正義】の能力は自身を維持してきた。クリアされると【正義】の意義がなくなる。能力自体が消失する。それを防ぐ自己防衛システム。

 2ndステージは、神の障壁だった。今までの「正義の味方」は、『SMG』を起動できなかった。杏奈君は通電を維持できなかったし、他の神も起動までは持ち込めなかったわ。

【正義】は何十人もの神を食い物にしてきたのよ。『SMG』を起動させず、怪獣を倒させなかった。そうして能力自体を維持した。わたしの比喩で言えば、「球体」へと戻り、ふたたび使われる時を待っていた。

 そこに【正義】を必要とする杏奈君が現れ、「球体」は杏奈君に埋め込まれた。そういう経緯で今に至っているわ。

 ところが伊佐領祐一という神により障壁は破られたのよ。外部の神であった君は、「正義の味方」を超える能力値を持っていた。初めて『SMG』を起動させ、真の怪獣を倒した。最終ステージに到達したのよ。

 ちなみに、勘違いしないでね。コンピューターにLaBrie(わたし)の名前がついているのは、わたしが元凶だとか黒幕だという意味ではないわ。要は杏奈君の世界観に設備が合わせているのよ。マッチングの時に「能力」の細部が設定されるの。「怪獣とロボットが闘う」という大枠は不変よ。以前の神の時は、コンピューターには別の名前がついていたはず。

 でも、堂々めぐりもこれで終わりよ。「能力」の自己保存の機能は、神の意志そのものを覆すことはできないわ。難度を上げてクリアを妨害できても、クリアすること自体は止められない。「正義が悪を倒す」という筋書き(プログラム)の中で・・・悪あがきはできても、筋書き(プログラム)自体を変えることはできない。だからコンピューター(わたし)は君に協力しているのよ。

 3つのステージの説明は以上よ。解ったわね。

 さあ、【最強最後の怪獣】を倒すわよ。これが最終ステージよ。倒せば怪獣は今度こそ完全に消滅する。

【正義地獄】を終わらせるわよ。

 ………………

 ……………………

 光の名残が脳を突き抜けて、僕は我に返った。

 怪獣の動きは、ほとんど止まってるように見えた。引き伸ばされた時間の影響が残っていた。

 僕は一瞬のうちに、驚くほど多量の思考を受容し、整理した。僕の脳は少女の情報を「疑いようのない事実」として受け取り、焼き付けた。これが洗脳というものか。

 とはいえLaBrieは言っていた。情報は事実なんだ、って。

「ロボットと怪獣が戦う3ステージ制のゲーム」――それが【正義】の仕事の中味だった。

 今まで何人もの「正義の味方」が2ndステージで挫折した。

 羽前さんのような人が昔から居たってことだ。本当なのか? ――本当なのだ。【正義】の能力は、自己を維持するために、クリアできないゲームの文脈に「正義の味方」達を投げ入れてきた。能力の暴走。

 いや、ちがう。【正義】の能力自体、暴走する性質を秘めていた。不毛なゲームに世界を巻き込んで、ふつうの人間たちに被害を与えてきた。羽前さんの前の神が実在したのはいつの期間だろうか。同じように麻形地方だったのだろうか。神の時空間のスケールはふつうとは違う。ずっと昔かもしれない。だから記録も残っていない。もしかしたら地方の伝奇や伝承には、名残があるのかもしれない。

 そういえばLaBrieは[互角以上にやれるはず]とか、[氷弾ごときが効くわけがない]とか、怪獣の力を俯瞰的に把握しているフシがあった。ロボットが起動さえすれば、2ndの怪獣は倒せると把握していたのだ。

 LaBrieはゲームのプログラムの一部で、正義側のプログラムだ。3rdステージをクリアするために協力してくれる。

 焼かれて炭となっても甦った【最強最後】の怪獣。いったいどんな強さなのか。

 ……待てよ? 

 いったい怪獣は、何なのか? 

 というか……怪獣は本当に、敵なのか? 

 暗い予感が体内を螺子(ネジ)のようにえぐる。

 都合が良すぎはしないか。ロボットを起動させず、わざと怪獣を見逃してきた、それは理解できる。

 でも、それにしたって変だ。

 どうして、1stで倒された怪獣が、2ndでは巨大化して甦る? 

 そういう筋書き(プログラム)が怪獣側に仕込まれている・・・・・・・のではないか? 【正義】の能力は、まさか、ひょっとしたら……。

[そう。【 自 作 自 演 】よ。正義設備によって造り出された「敵」]

 少女の声が、淡々と告げた。

[怪獣は、君が思っているような生物ではないのよ。勘違いしているみたいだけど、君の家に滞在している女の子が作り出したものではないわ。【正義】は最初から空っぽだったのよ。自分で作った怪獣と自分で戦っていたに過ぎなかったわ]

 

 僕の思考は凍り付いた。

 

 LaBrieが何か叫んだ。よく聞こえなかった。何か注意されたのか?

 ぶわり。ロボットは宙に浮いていた。

 地上に叩き付けられた。

 僕は上の空だった。怪獣に投げ飛ばされたのだ。

 警報が鳴り響いている。右肩のパーツが脱落したらしい。

飛んで下さい(フライト)っ!」

 羽前さんが叫ぶ。そうだ。羽前さん。……負けるわけにはいかない。僕はロボットをフライトさせる。後退しよう。怪獣は鈍重だ。距離さえあれば飛び道具で――

 目の前に怪獣の頭部があった。頭突きを食らい、後ろ向きに転倒する。コックピット内の照明は、不安定なフラッシュバック状態だ。

 冷静にみて戦況は悪すぎる。

【最強最後】のモードになってから、怪獣に押されている。

 いや、そこじゃない。引っ掛かると思ったが、なぜ今、逃げられなかったのか? ロボットは逆噴射して退がった。怪獣から離れられるはずだった。

 しかし怪獣は気付いたら隣に居たのだ。突然現れたように。

 ならば、転進だ。

 僕はレーザーを打ち込み、攻勢に出ようとする。しかしロボットはパネルからの命令を「不受理(リジェクト)」の応答で返す。炉心の駆動率が落ちている。そういえばLaBrieがさっき言っていたような。[敵はロボットのエネルギーを打ち消す磁場を持っている]と。

 ……それはどういう意味だ? 

 ノイズキャンセリングの磁場を持っているのは、ロボットだけのはずじゃあ……。

 僕はロボットを垂直に浮上させた。攻撃が出せないなら、もう一度逃れるしかなかった。



 そのとき、怪獣がひときわ明るく光った。



 全身から青白い閃光がほとばしる。

 怪獣は口を開いた。マグマのように光がせり上がった。

 怪獣は・・・爆裂的な威力の光線を・・・・・・・・・・吐き出した・・・・・

 光線は、飛び立ちかけたロボットの腹部を、直撃した。

 コックピット全体が、地すべりみたいに揺れた。機体が甚大な損傷を受けたのが分かった。山が崩れるようにコックピットが沈降した。光線を腹部に受けたロボットは、腰がぬけたように、倒れた。

 そうか、なぜ、注意しなかったのだろう。映画でもやっていたじゃないか。怪獣といえば口から光線を吐くものだったのに。

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