神と怪獣としての世界 28
ドック内に轟音が鳴る。機体の内外で動作音と燃焼音が唸る。各種装備の動作を確認する信号や警報が流れる。アームや空中通路が避け、機体が上昇する。
ロボットは筒状のドックを回転しながら昇って行く。外では職員が整然と集まっていた。モニタールームから起動をチェックしていた。その模様はコックピット内にも聞こえた。
[基地の設備は主の能力に従うわ。『SMG』はもう粗大ゴミではないわ。対怪獣兵器の最強最後の切り札よ!]
少女……メインコンピューター・LaBrieが言った。
[『SMG』を起動できたのはキミが初めてよ。並の正義の味方では起動できないわ。ふつうはロボットの強力なエネルギーに呑まれて吸収されてしまうわ。起動できなかったらキミはボディアーマーにグシャッと潰されて、拳大の金属塊になっていたわよ]
LaBrieは両手でおにぎりを作る仕草をした。
僕は、そんな大それたことを気軽に引き受けていたのか。けど、平常な場面じゃないおかげで、冷や汗もかかなかった。
[でも、そんな小奇麗な鈍感さは、わりかし気に入ったわ。キミなら『SMG』を乗りこなす大役もふさわしい。キミの手で怪獣を撃退するとしよう]
ドックの頂上部が迫っている。四角形の屋根が四方に旋回して開き、灰色めいた空と、舞い込む雪の粒が見えた。
屋根が開放されたドックから、機体がせり上がる。僕はその開閉式の屋根を見て驚いた。見覚えがあった。
僕は以前、ここに来たことがある。
高校入試の時に。
そう、「解体工事中」ということにされていた第一高校だったのだ。体育館がドックの地上部だった。
機体は体育館の壁をかすめるように持ち上がり、背面のエンジンによって浮上した。メインコンピューター・LaBrieによれば、ESドライブによる反重力推進だそうだ。設備の先進性は4Rとは雲泥の差だ。こんな異様なモノをいとも簡単に作る神って、いったい何者なんだ。いや、そうか、僕も神なんだっけ? あり得ないと思うがなあ。
ピ、動作音がして、モニターにマップが表れた。『SMG』ではコックピットの窓は単純に外の景色を映すだけだ。ボディアーマーのアイカバーがモニターの役目をする。
マップは市内のA-1エリアに怪獣を検知していた。駅前だ。[近いわ。雪でなければ視認可能なほどの距離よ]、僕が思ったと同時にLaBrieが言った。思考が同化している。
「出撃します」
[気をつけて]
僕はロボットを発進させた。パネルの手順は4Rと同じだ。「飛行」関連の動作もシートで学習している。落ち着いてやれば大丈夫だ。
ロボットは中空に浮いた。地上200メートルまで高度を上げ、移動に転じる。滑るようにゆっくりと移動を始めた。重厚感と浮遊感が同居する奇妙な感覚。
[できるだけ市街には被害を与えないよう。着陸点はD-7。北東方向よりA-1へ]
「了解」
僕はアイカバーに投影される地図を見ながら方向をコントロールする。D-7エリアにロボットを着地させ、ロボットを歩かせ、南西に進路をとる。このあたりは山林や原野のようだ。雪が降っていても、市街かどうかは判る。南西方向は異常に明るく光っていた。光の形は雪に乱反射し、広いドーム状をしている。
操縦してみた感想は、ただ一言、凄かった。
ロボットの大きさから考えれば当たり前だろうけど、移動のスケールが違った。庭でも歩くように市内を進んでいた。
兵器もスケールアップしているはずで、一回の攻撃が人間には大惨事になりかねない。
しかし、視野が大きくて高いコックピットに居ると、人間への注意を忘れそうになる。進化した人間になったような錯覚。このロボットに同化して温泉に入ったり、春にはお花見をしてみたいものだなんて、場違いなことを考えた。何というか、巨大ロボットのコックピットに居ると、自分が生身の普通の人間であることを忘れそうになる。浮き世離れというのか、酔っぱらう感じに似ているのだろうか。僕はただの小さい人間であって、僕が戻る場所は、この小さい箱庭のような下界以外にはない。
お花見といえば、今は季節でいえば春だった。しかし、怪獣という異変によって、四六時中雪に閉ざされた。怪獣は、ふつうの人間の狭い世界を破壊する、恐怖の化身なんだ。このロボットで、今から怪獣と戦う。怪獣をやっつけて、下界を異変から開放しようと思う。
[天気が変動している]
LaBrieが伝えてきた。僕にも変化は分かった。窓の外が今までと違うことに気付いた。
徐々にだけど、確実に、視界がよくなっている。白い吹雪から、青い凍てつく風へ。
降る雪の密度が薄くなっていた。
ドーム状に覆われていた市街の景色が、うっすらと晴れていく。
破壊され、瓦礫の台地のようになった駅前が見える。
そして、ビルの合間でひときわ存在感を示す、山のような黒い姿。
古代からタイムスリップしてきたような。
いや……映画から現実世界へと存在の場所を移動させたような怪獣。
目は煌々と白一色に輝いていた。生きている死体のような不気味な光だ。
異変が僕の身辺に訪れてから、初めて肉眼で観る、本当の怪獣の姿。換装視界で見たコミカルなデザインとは全然異なっていた。生々しい巨躯から立ち昇る迫力は、恐怖そのものといっていい。映画なのか現実なのか、ときどき、疑ってしまう。ロボットと怪獣が存在していても、僕が居るこの世界が現実世界でないわけがない。
ロボットを待っていたかのように怪獣は咆哮した。音響で体が痺れた。全身を鋼線で縛られるような恐怖感。緊張感。使命感。僕は間違いなく、怪獣と戦おうとしている。
怪獣の背後、崩れたビルの奥に『SZ-ⅩⅠ』の機体が見えた。
「――羽前さん!」
[『SZ-ⅩⅠ』に通信を試みているわ。呼びかけてみて]
「ありがとう、LaBrie」
頭上に通信用のマイクが下りてくる。手が使えなくても通信ができる。
右上の空中に小さなスクリーンが出現した。アイカバーに映像が送られたのだ。
暗い室内にヘルメット姿の羽前さんがナナメに倒れているのが見えた。
「羽前さん、羽前さん、返事してくれ! 大丈夫か? 助けに来た」
[怪獣にも目を配って。大丈夫。バイタルセンサーには極端な異常なし。気絶状態よ]
「ありがとう、LaBrie」
怪獣が歩いて来た。
凄まじい足音。
しかし、大きさでは互角。向こうにも同じように見えているはずだ。渡り合えるだろうか。やってみるしかない。シートの成果を見せる時だ。
[操縦の腕しだいで、互角以上にやれるはずよ。機体はわたしがモニタリングしているから心配しないで。杏奈君に巻き添えが行くから、飛び道具は撃たないでね]
「了解――やってみます」
怪獣は獰猛な形相で体当たりしてきた。腕で機体を打たれる。僕はパネルを必死に動かし、一歩後退。ロボットの右手を引き、打撃を与える。怪獣は下がり、身構える。――思ったよりも、やれるぞ。機体へのダメージもない。
「羽前さん、応答してくれ! 羽前さん! 大丈夫か! 羽前さん!」
戦いながら『SZ-ⅩⅠ』に呼びかける。怪獣の近くに居るのは危ない。脱出してほしい。気付いてくれ。
[大丈夫よ。『SZ-ⅩⅠ』の装甲はダイアボリカルダイアモンド。このロボットでも破壊できないわ。でも怪獣を倒せるかというと話は別。『SZ-ⅩⅠ』にはCPCが搭載されているけど、杏奈君がやられたのを見ると、通用しなかったのね。まったく――]
少女はふわふわと僕の前に来て、画面の向こうに呼び掛けた。
[杏奈君、起きなさい、わたしだ。おい、杏奈君]
返事はない。すると、少女は腕を組み、ぶつぶつと呪文のような言葉を唱え始めた。
こういう姿は確かに「師匠」みたいだ。口調にも威厳が漂っている。
怪獣が首に噛み付いてくる。こちらは頭突きで応戦。まるでプロレスだ。そろそろ僕も操縦に慣れ、心地良い一体感を機体に感じつつある。このままプロレスごっこが続けばロボットは楽だろう。だけど怪獣は腹に一物ある闘い方をしている。体をぶつけ、こっちのデータを探っている感じ。
そのとき、羽前さんが、のろのろと頭を上げた。気がついたみたいだ。
羽前さんは頭をぶるぶると振り、ヘルメットの遮光フィルターを上げた。こちらを見て、驚いた顔をした。向こうの機内にも、こちらの映像が映っているようだ。
羽前さんからの音声が入る。
「祐一――? そこは、『SMG』の機内ですか? どうして――――――まさか、あなたが起動できたのですか?」
「そうらしいんだ。僕もよくわからないんだけど、でも、詳しい事は後で喋ろう。ここに羽前さんの師匠さんも居る。ロボットのメインコンピューターなんだ」
「御師匠様が?」
[わたしの姿は彼女には見えないわ。居ないものとして会話を進めて――とっ]
勝手に僕の手が動き、タッチパネルを操る。怪獣の正面からの体当たりを、ロボットは浮上してかわした。
少女は僕の神経回路とも同化しているらしい。びっくりしたけど、心強い。怪獣は飛べないので、上を向いて、悔しげに歯を噛み締めている。
「そんなことより、羽前さん、思い出した。塾のこと。僕が悪かった。今まで忘れていて本当にごめん。羽前さんを【正義の味方】なんかにさせてしまって」
怪獣と戦って、殺されそうになって。責任を取ることなんてできない。僕は羽前さんの人生を変えてしまった。
「思い出した? ――――――――――本当ですか? 本当に、思い出したんですか?」
羽前さんは繰り返した。夢中で画面に近付く。唖然とした様子。羽前さんが普通人っぽい動作をするのは、新鮮な驚きがある。
「あなたは、悪くないです」
ふにゃり、と相好を崩した。画面越しに、じわっと、羽前さんの感情が伝わってきた。
そんな顔をする羽前さんを初めて見た。
羽前さんを【正義の味方】にしたのは、僕だ。その事実は消えることはない。だからせめて、一人で戦うんじゃなくて、僕にも手伝わせてほしい。
「もう無茶しないでよ。助けに来たんだ。機体は動く? そこから脱出して」
ドン、ドン。ロボットが揺れた。怪獣が撃ち出した氷弾が命中した。僕はヒヤリとする。
[大丈夫よ。損傷なし。氷弾ごときが効くわけがないわよ。でも、図に乗っちゃうから、お仕置きタイムにしましょうか。杏奈君を起こしたのは、助けるためじゃないのよ]
「え?」
[決まってるじゃないの。彼女は正義の味方の神よ? つまり、一緒に戦うためよ。いいかしら、今から言うセリフを、杏奈君に伝えて]
少女は息を吸い、はきはきとセリフを言った。
僕も口を開け、大きな声でなぞった。
「[羽前さん、合体しよう!!]」
叫んでから、言葉の意味を曲解してしまい、恥ずかしくなった。
少女は堂に入った小悪魔の半眼で僕を鑑賞していた。「師匠」というだけあり、年の功を感じた。ハイと羽前さんがふつうに答えてくれたのが助かった。
羽前さんは天井の操縦桿に懸垂でしがみつく。上下逆の体勢。手足を突っ張って、体重をかけて操縦桿を引く。
怪獣の後方、ガレキの山から、『SZ-ⅩⅠ』の黒い機体が出て来た。飛びながら横回転、上下を立て直す。羽前さんがふたたびコックピットに座ったのが確認できた。
ところで、合体なんてできるのだろうか?
[大丈夫よ、天井に把手があるでしょう、それを引いて]
「把手って……これ?」
[違うわ、それは非常用の脱出レバー。その隣よ]
僕は言われた把手を掴み、下に引っ張った。
[背部装甲が変形するわ。『SZ-ⅩⅠ』と合体できるようになっているの]
――モニターにロボットの背面図が現れた。変形箇所が赤に塗られている。図が動いて変形の様子が分かる。同時にロボットも図の通りに変形しているらしい。断続的に大きな音が響いている。
背中のパーツが開閉し、合体用と思われる縦横の溝が出現した。けれど、『SZ-ⅩⅠ』はずんぐりとした六角形だ。あれが背中にくっつくとは考えにくい。
[ロボットは空中姿勢を保持。あとは杏奈君に任せて]
と少女の声。僕は、言われた通りに空中で浮上を続ける。
後方に回った『SZ-ⅩⅠ』は、接近して来て、静止。そして、『SZ-ⅩⅠ』自身も変形し始めた。変形合体――なるほど。
六角形の外装が二つに分かれて変形・展開し、ロボットの腕と両肩を包んで接続する。中心部の装甲も同様にロボットの顔と胸部に展開する。中心の操縦席の部分は、ロボットの背部の溝にピッタリと収まり、上からロボットの装甲が閉じて保護。
ロボットは黒い甲冑に包まれ、両腕はアンバランスなほどの巨大な砲身と化した。胸部には『SZ-ⅩⅠ』の象徴を残すかのような六角形の凹面鏡が輝く。コックピットからは、どういう形態になったのかは見えない。だけど前とはかなり違ったフォルムとなっていることは予想できた。重量感は別物のように増したはずだ。
[『SSMG』、合体完了よ]
少女のアナウンス。ピリリリリリ、小気味いいアラートが鳴った。
グラスでも『SZ-ⅩⅠ』とのドッキングが示された。
各クラスターに異常なし。エネルギー循環も正常。
怪獣が威嚇の声を上げた。今までにない長い鳴き声だった。
いきり立ったような面相だ。激しい怒りの裏には、おそらく動揺もある。
怪獣はロボットに接近し、尻尾を回して攻撃した。ロボットは空中で後退し、かわす。[そうよ、いいわよ祐一君! 飛べない弱点を徹底的に利用するのよ]――少女も声に熱気が籠もっている。
油圧式のドアが開く音がして、僕は振り返った。
羽前さんが立っていた。
ヘルメットを被り、フライトベストを着たままの格好。羽前さんは、よろめいて歩いて来て、シートの傍に立ち、コックピットを眺めた。
「祐一。ほんとうに、起動できたのですね――」
ひし、と僕に体を預けてきた。
「う、羽前さん……?」
僕はグラスを外す。慌ててしまったが、驚きはしなかった。冷静だけど大胆。羽前さんは、そういう一面がある。体を寄せていても、僕の視界はちゃんと確保されている。怪獣の動きは捉えてる。僕も片手でギュッと力を込めた。着膨れしたベストの固い感触。でも、塾時代から今までの羽前さんの思いを、少し感じられた気がした。
「ごめん、勝手に部屋から脱け出して、ロボットを動かしたりして。ほかにも、色々と今まで、僕は忘れてて」
「謝らないで。それに今は怪獣を倒す時です」
羽前さんは操縦席から離れた。僕はアイカバー型のグラスを渡そうとした。ここからは操縦を代わったほうがいいだろう。……すると、羽前さんはからかうように半眼を向けた。師匠の少女にどこか似ていた。
「何をやってるのですか? あたしはロボットを動かせないのを忘れたのですか? 正義任務の補助なら、ロボット以外の設備で手伝って頂きますよ」
「あ……」
そうだった。ロボットを起動できるのは、なぜか僕の役目だ。
「見せてください。祐一の腕前。あたしは何も心配してないです」
羽前さんは、自分が替われないことを気にする様子もなく、黙ってヘルメットを取った。
ジャケットを脱いだ内側から外套が現れる。黒のファッションは羽前さんの白い肌を際立たせる。近未来のロボットや基地には似つかわしくないレトロ風味な服装。
羽前さんは穏やかに微笑する。塾のときのような気後れや戸惑いは、ない。一緒に戦う仲間どうしの、公正で迷いのない笑みだった。ぺこりとお辞儀をして、言った。
「至らない神でごめんなさい。もう一度だけ、頼らせてください」
羽前さんの思いと責任を、僕は受け取った気がした。どうしても負けられないと思った。僕は再度、グラスを装着した。
[よし、いくわよ]
「――はい!」
また少女の姿が見える。羽前さんには見えていない。ロボットの操縦者だけが彼女――LaBrieと同化しているためだ。僕が思った以上にスムーズにロボットを操作できるのは、4Rと相似形という理由もあるけど、半分以上は同化作用のおかげだった。少女が少しだけ未来を歩いていて、僕は二人三脚で引っ張られていた。現在ロボットに搭載されている兵器や防衛システムも、自分の知識として、把握できている。基本的には4Rの操作法でカバーできる。どの兵器もアップグレードされている。
怪獣は身をかがめ、氷弾放射を繰り出した。今までで最大級の乱射だった。無数に命中するか――と思われたが、ロボットには何の衝撃も来なかった。
[ロボットには元々、怪獣の雑多なエネルギー場を打ち消す、ノイズキャンセリング機構が搭載されているわ。それは『SZ-ⅩⅠ』のウェイビング・システムによって増幅され、100%に達する。胸部の凹面鏡がその機能を果たしているわ]
つまりロボットは、『SZ-ⅩⅠ』と合体した時にフルパワーが発揮されるように設計されている。今が、そうだった。
少女からの情報が脳へと流れてくる。――とどめを刺すわよ。
僕は脳内で「了解」と返事をした。
いつのまにか、雪はほとんど収まっていた。こんなに視界がクリアになるのは、怪獣が出現した異変以来、初めてじゃないだろうか。
怪獣は、いきり立って早足で突進してくる。ロボットは距離を維持して後退・旋回する。ロボットの自動追尾機能に入力し、怪獣との距離を120メートルに維持している。怪獣は苛立ち、かぶりを振った。氷弾は通用しないし、肉弾戦も望めない。苛立つのも当然だ。現状、ロボットの燃料が切れるまでは、怪獣は決してロボットには手出しできない。
だけどこちらも燃料切れを待たれるわけにはいかない。雪も晴れたことだし、一気に決着をつける。[ロボットの勝利で決着させるわよ]。少女の声が言う。同化する思考により、戦法が導かれる。――空中からの遠隔攻撃で、怪獣を破壊する。一気に叩き潰す。焼き尽くす。
その手法は……オールウェポン発動による集中攻撃。
僕はパネルにコマンドを入力していく。4Rを操縦する時の羽前さんをイメージする。正確で流れるようなキータッチ。羽前さんが居なければ、僕はここには座っていなかっただろう。羽前さんは、僕が居なければ、【正義】には成らなかったろう。二人が居たから、今の場面があった。奇妙な流れだけど、必然的とも思えた。
僕はロボットの高度をやや下げていった。怪獣を見下ろす位置。
全ての入力を終えた僕は、パネルの最後のキーに触れた。
[「オールウェポン発射」]
ロボットの全兵器が怪獣に照射された。
肩部からの散弾状ビームは『カプリース・ストリーム』。怪獣の皮膚を細かく穿った。
胸部と腹部を占める逆三角形の砲門からは青白いレーザー。『ネメシス・エマージング』。生体組織を劣化・崩壊に導く冷凍兵器だ。
口からは圧倒的な光量の白いきらめき。強力でオーソドックスなプラズマ砲。『インファナル・バスター』。冷凍兵器との併用で対象に苦痛を与える。
そして、合体した『SZ-ⅩⅠ』の増設腕部装甲から発射される光線は『I・H・S』。両方のクラスターのエネルギーを循環・増幅して発射する、ロボットの最強の兵器だ。少女の情報によれば、その威力はロボット自身が受ければ粉々になるレベルだ。
怪獣は身悶えし、悲鳴を上げた。機動性に優れたロボットの、全兵器による集中砲火。逃れられないし、反撃もできない。怪獣に行動させる間を与えない。怪獣は巨大な火柱となって夜空に燃え上がった。はじめは手足や頭部を振り乱し、もがいていたが、やがて小刻みに震えるような動きになり、ほとんど動かなくなった。
ロボットは攻撃の手を緩めなかった。エネルギーの残量が45%となるまで攻撃を続けるように入力していた。怪獣は楽器の弦が緩むような低い鳴き声を響かせ、完全に動かなくなった。攻撃、完了。
とどめに超低温レーザーを打ち込むと、怪獣の体は大爆発を起こした。
光の花が咲いたように市街はパアッと明るくなり、急激に暗黒に転じた。攻撃を了えたロボットは着陸し、推移を観察する。
煙が引いていき、黒く炭化した怪獣が残っていた。
[やったようね。怪獣は倒したわよ]
少女の報告が入った。
僕は、まだ信じられない思いで、ぼんやりと窓を見ていた。
今までの凍えるような興奮が引き、気道が詰まるような不快感に変わった。怪獣とはいえ、ひとつの生き物の大きな命を奪った。いい気持ちではなかった。
怪獣と戦っている時、僕はちょっと熱中していた。もうちょっとで自制が利かなくなり、自分に酔いそうだった。それは、圧倒的な力を行使する快感だった。怪獣というターゲットが居たから、目的を見失わずに済んだ。自制が外れれば暴走していた危険だってあった。気分が落ち着いてきたら、自分が分裂するような吐き気がした。僕みたいなふつうの人間が、何の訓練もしないで、突然神の力を得るのは、たぶん良くない事だ。
羽前さんは窓まで行き、外を観察した。
黒焦げの巨大な物体が、正面に見えていた。
「終わりましたね」
羽前さんは【正義】として、祝福の言葉をくれた。僕の気分を察してくれたのか、笑ってはいなかった。




