第一章 第四話 晩餐までの時間は第三王女と
アリシアとフローリアは席についた後、セナに紅茶を頼んだ。それから程なくして、セナが紅茶を運んできた。
「ありがとう、セナ」
「いえ」
そして、セナはまた一礼し、部屋の外に出た。
アリシアが、セナが部屋の外に出るのを確認していた間に、フローリアは早くも紅茶に手をつけていた。
「ノル殿下」
アリシアはフローリアをミドルネームのうちの一つで呼んだ。
「何?」
「いつも食べ物や飲み物には手が早いですよね。勉強にはあまり手をつけていないのでしょう?」
「何よ、別にいいじゃない。この国を継ぐのは多分ファリフィナ姉様でしょうし。クレアシア姉様は論外だけれど」
「それでも、他国に嫁ぐという可能性は十分に考えられます。勉強をしておくことは、将来につながります」
アリシアの言い分に、観念したのかしてないのか、解らない表情で、「そういうエルはどうなの?」、と尋ねてきた。その問いにアリシアは、少し苦笑してから答えた。
「してますよ?もっとも、私はこの国から出ることはありませんが」
フローリアは納得したように頷いた。
この国から出られない、というのは、これも魔導士が関連してくる。
アリシアはこの国でたった一人の王宮魔導士。そんな彼女が他国へと嫁げば、この国の繁栄は終わったと言っていいほど。
その為、この国から他国へと嫁ぐことは許されず、最悪の場合、この国から永遠に出ることは叶わない。
それでも数人の魔導士候補が生まれたならば、アリシアの役目は終わりと言ってもいいが、彼女は世界屈指の魔力の持ち主。故に、王宮魔導士としての役目は終わることはない。
「貴女はそんな窮屈な生活でいいの?」
「いいの?、と聞かれましても、それが私の運命です。受け入れるしかありません」
「でも、国民に一人くらいはいるでしょう、魔導士候補」
「そうそう、私と同等以上の力を持つ魔導士など現れません。それに、魔導士の数が減少している原因は、魔導士の家系が、魔力を持たない家系との婚姻を続けているからです。今更魔導士を増やそうと試みたところで、無意味なのですよ」
手に持っていた紅茶が入ったティーカップをソーサーの上に音も立てずに置き、アリシアは言葉を続けた。
「そもそも、魔導士というのは神の代行者として、この世に遣わされました。けれど、魔導士だけの世は、世界を揺るがしかねません。なぜなら魔力の大きさには差がありますから、強大な魔力を持っている家系が出しゃばるに決まっています。故に神は、それを防ぐ為に、魔力を持たない人間をこの世に遣わしたのです。ですが、その甲斐も虚しく、今のような現状に至っているのです」
「そんなの、どうやって調べたの?」
「昔の記憶を探ったのですよ。そして今現在解っている事実はこれだけです」
その言葉を最後に、部屋は沈黙に包まれた。
そんな中、控えめにノックされた音に、二人は顔を上げ、アリシアが入室を促した。現れたのはセナだ。
「フローリア殿下、アリシア殿下。晩餐の開かれる会場に参りましょう」
その言葉に、二人は立ち上がり、晩餐が開かれる大広間へと向かった。