第一章 第二話 突然に舞い込んできた話
「そういえば、王女殿下」
紅茶のカップを口から離し、アリシアはイリアを見た。
「どうかしたの?」
「今日、王宮に来るようにとの、国王陛下からのおおせ………」
「どういうこと!?」
イリアの言葉を遮りながら、立ち上がったアリシア。
その反応は当たり前だと言える。
彼女をこの離宮に囚われさせたのは自分の父。けれど、その父が自分を王宮に呼んだ。
離宮という名の光届かぬ場所。闇だけが深く、光は届かない。
アリシアにとって、ここはそんな場所だった。それ対し王宮は、光届く場所であり、自分が入ってはいけない場所だと、彼女は認識していた。
そんな光ある場所に来いとの命令。
それはとても、アリシアにとっては夢のような話だった。
「それが、今夜行われる国際晩餐に各国の貴族達が集まるとのことで、警護を願いたいとか」
「それで、私がそれに参加しつつも、警護にまわれとの仰せなのね?」
「はい」
アリシアの言葉に頷くイリア。そんなイリアの笑顔を見て、アリシアは顔を曇らせた。
「どうか………されましたか?」
サナリエが問うと、手に持っていた紅茶のカップをソーサーの上に置き、席を立ち窓の近くへと歩むアリシア。
窓の外は快晴で、鳥が数羽飛んでいた。
(私も、自由なら………)
アリシアが窓を開けると、風が入り込み、彼女の白銀の髪を靡かせる。母親譲りのそれはとても綺麗で、月の光のようだった。
「王女殿下、あの………」
「…………」
サナリエの呼びかけにも答えないアリシア。窓の外をただ見つめ、空を見上げる。
「イリア、サナリエ」
「「はい」」
二人は同時に返事をし、アリシアは二人に向き直った。
「私に見あったドレスを、選んでおいて?夕方には王宮に入ります」
その言葉に、二人は顔を見合わせて笑顔になり、「「はい!」」、と答え、慌ただしく大広間を出て行った。その姿を見ながら、アリシアは微笑んだ。
王宮。
母が数年過ごした場所であり、自分の生まれた場所。
ただ外を眺めることしかできなくて、光ある場所として憧れた。
どんなに願っても行けないと思い続けた場所。
その場所にやっといける。
それだけで嬉しくて、アリシアは夕方になるまで、ずっと、笑みを絶やさなかった。