第一章 第一話 レクソンの第四王女と第一王女
ここ、夏の季節が一番長いレクソンの王宮の少し離れた場所に、王宮より一回り小さな離宮がある。
離宮に住むは、レクソンの第四王女、アリシア・エル・リーア・レクソティアン。この離宮という名の籠に囚われている16の少女。
アリシアは生まれてから、この離宮で今日に至るまでを過ごしながら、外に出たことはない。
その理由は、魔導士。
この世界で魔法を使う魔導士達は重要な役割を担っており、そのため魔導士達は国で管理される。たとえそれが、魔力を少ししか持たない魔導士だとしてもだ。
魔導士の重要な役割とは、国を護ること。
敵国が侵略を始めれば、そこに一番に赴き、敵陣を蹴散らし、国を護るのが、魔導士の役目。
けれど、どこの国でも年々その魔導士達の数は減って行く一方。
その中でもレクソンは、一時期その魔導士が一人もいなかった。
そしてその中で生まれたのが、アリシアだ。
アリシアは膨大な魔力をその身の内に宿して、この世に生を授かった。それは、アリシアの母であり、レクソン国王レイナード・ウル・ド・レクソティアンの側妃であった、ティターニア・メル・レート・ハイディアルトの体内に宿っていた時から、彼女の膨大な魔力は確認されており、そしてレイナードはアリシアがまだ生まれる前に、離宮を建てた。
そしてアリシアが生まれれば、彼女と、その母のティターニアと、メイド二人を離宮へと住まわせた。
それでも、まだ幸せだったと言える。王宮ではなく離宮で暮らすことになって、乳母ではなくティターニアの手でアリシアを育てられることができるのだから。けれど、その幸せも続くことはなかった。
ティターニアは、アリシアを身籠っていた時から病を患っていた。その病が牙を向き、アリシアが一歳になる前に、亡くなった。
それからアリシアは、メイド二人に育てられた。
母ティターニアの顔は見たことがない。父レイナードに会いたいと願えど、この離宮からは出られない。ただ、メイド達からその二人が両親だと言われて育ったアリシア。
そんな環境であっても、アリシアは文句を言わずに顔も見たこともない父親の命に従い、ずっと魔法の修練を重ね、今では彼女にしか扱えない魔法もできた。
そんな生い立ちを持つ彼女は、今でも離宮に囚われている。
「王女殿下」
自室の扉が叩かれアリシアは紅茶が入っているカップをソーサーに置き、「イリア?」、と二人の内のメイドの名を呼んだ。すると扉が開かれ、銀色味がかかった黒髪を一つに結い、メイド服を着こなしている、アリシアより少し年上の女性が現れた。
名をイリア・リヴィエラという。新しくアリシアの側付きとなったメイドだ。
「どうかされましたか、イリア」
アリシアが問うと、イリアは一礼し、口を開いた。
「第一王女殿下がお見えになられました」
「クレアシア殿下が、ですか?」
「左様です、王女殿下」
レクソンの第一王女、クレアシア・テル・ナータ・レクソティアン。
アリシアの母が側妃であるに対し、クレアシアの母は正妃。そして今でもレイナードの傍らで政をしている。
「クレアシア殿下は、どこに?」
「大広間にいらっしゃいます」
「………解りました、行きましょう。行かなければ、貴女と…サナリエが罰を受けてしまうのだから」
そう言ったアリシアは、悲しげな笑みを浮かべ、立ち上がった。