第一章 第八話 聞いて、知りたいけれど、聞けなくて、知ることができなくて
あれからアリシアは十分に寝付き、朝は気持ち良く迎えられ、とても清々しい気分でいた。
早めの起床だったので、側付き達の姿は見ていない。けれど、彼女等がいなくてもなんでもこなしていくアリシア。クローゼットを開け、目に付いた淡い桜色のドレスをネグリジェから着替える。髪には空色の最低限の髪留めをつけて終わる。
椅子に座り、優雅にティーカップに口をつけるアリシア。寝台の上には今だに眠るイグドラシルの姿が。
「イグドラシル、起きなさい」
イグドラシルの方を向かずに言うアリシアに対し、イグドラシルが放った一言といえば、
『我はまだ眠い』
何を夜にしていたのかと聞きたくなるぐらいの寝入りっぷり。
アリシアは呆れて物も言えなくなった。が、アリシアはイグドラシルが眠る寝台に歩み寄り、抱え上げ、椅子に戻り膝の上に置く。
「貴方は、自由ね」
そう呟くと、イグドラシルが体を起こした。
『巫女は不自由の身だ。仕方がない』
その言葉に苦笑し、アリシアはティーカップに口をつける。
「ねぇ、イグドラシル」
『何だ』
「空気がおかしいわ。何かが来る」
朝からアリシアは違和感を覚えていた。森がざわつき、森に住む精霊達が騒ぎ出している。
「シルフィードもウンディーネもサラマンダーもノームもアルフも、五大精霊が騒ぎ出している」
五大精霊とは、風を生み出し、水を生み出し、炎を生み出し、地を潤し、光を与える精霊達のこと。それぞれに属性があり、シルフィードは風を、ウンディーネは水を、サラマンダーは炎を、ノームは地を、アルフは光を生み出しこの世の森羅万象を司っており、この精霊達もイグドラシルが生み出したものだ。魔導士にはその精霊の姿が見えたり声が聞こえたりする。特にアリシアにとっては身近な存在と言える。幼い時からずっと共に過ごしてきたのだから当然だ。
すると、バンッ、と勢い良く扉が開き、イリアとサナリエが息を切らして入ってきた。そのことに驚き、アリシアは立ち上がり、イグドラシルは彼女の右肩に乗る。
「どうしたのですか」
「王女殿下!」
「イリア?」
「国境付近に、アルリエナの王族軍が!」
その言葉が終わる前に、アリシアは魔法で巫女装束に着替える。
いつもなら着ない千早を羽織り、アリシアは駆けて行く。