第一章 第八話 聞いて、知りたいけれど、聞けなくて、知ることができなくて
あれからセナがアリシアを探しに来て、レックスと一緒に大広間へと戻ったが、入る気は無いらしく、王宮に今日急いで設えた部屋にイグドラシルを連れて戻った。
髪留めや髪飾りをはずし、ネグリジェに着替えて椅子に腰掛けた。
青玉の瞳は、テーブルの上で丸まり、寝ているイグドラシルに向けられており、アリシアは何かをしようとはしない。聞きたいことがあるはずなのに、知りたいことが彼女にはあるはずなのに、干渉することを拒むように、聞くことをしなければ、知ろうともしない。
イグドラシルはその視線に耐えかねたのか、体を起こしアリシアの瞳を見据えた。
『何が聞きたいのか、知りたいのか、教えてはくれぬのか、巫女よ』
その言葉にアリシアはたいして反応を見せなかった。まるでそれが解っていたかのように、首を横に振った。
『何故教えてはくれぬのだ』
「干渉をして、あの時のようにはなりたくない」
イグドラシルから顔を逸らし、
「あの時のようになれば、また私は我を忘れてしまうでしょう。魔力の使いすぎで以前は倒れたものの、今回は死ぬまでしそうな気がするのよ。だから、余計な詮索はしたくない」
言い終わると直ぐに立ち上がり、寝台に横たわった。
『やはり欲のない』
そう言い終えるとイグドラシルはアリシアの側まで飛び、寝台の上で丸まり語り出した。
『巫女が聞きたいことや知りたいことは解る。我はそれに答えることができる。だが、巫女が言うように、とても残酷だ。今は聞かぬ方が良いだろう』
その言葉を聞いた途端、アリシアは横たわったままイグドラシルに背を向けた。
『だが、巫女が知りたいと願い、我に聞きたいのであれば、今話しても構わない。巫女が聞きたくて知りたくてたまらない、我が巫女が生まれる前から見守っていたのか、そして、なぜ魔導士は伝承をしなかったのか。聞きたいときに聞けば良い』
そう言うと、イグドラシルは寝息を立て始めた。
そのイグドラシルの優しい気遣いに、アリシアは涙を流した。
真実を知りたいと願いながらも、それを聞けないでいる自分。
もどかしい思いをしているけれど、進むことができないアリシア。
もっと関わり解り合いたいと思う度に、自分が干渉してはいけない領域に入っているようで、怖くなることがある。
アリシアの青玉の瞳から溢れ出る純粋な涙は、彼女の心の葛藤の表れであり、彼女が怯える恐怖からの涙でもある。
いろんな思いを抱えながら、アリシアは寝台の上で静かに瞳を閉じた。