第一章 第六話 国王の決定は
「余の末娘で、この国の末姫、アリシア・エル・リーア・レクソティアンだ」
レクソン国王レイナードの言葉と共に、大広間を歩むアリシア。
けれど、晩餐に呼ばれた貴族達の目は、アリシアの肩に集中していた。
「あ、あれは何ですの?」
「この世界に住む生き物でしょうか?」
「でも、あんなドラゴンは見たことないぞ?」
この国でもドラゴンは存在しても、異空間で暮らしているためにお目にかかれることは数少ないが、何十体かはこの世界を気に入り過ごしているが、全てが下級ドラゴン。
イグドラシルのような神竜に出会うことなどまず無い。
そして、アリシアは大広間の中央に着くと、反転し、ドレスの裾を持ち上げ、優雅に一礼した。
「お初にお目にかかります、レクソンを支える貴族や重臣たちよ。私の名は、アリシア・エル・リーア・レクソティアンと申します。この国の第四王女であり、この国唯一の王宮魔導士の役目を果たす者にございます」
王宮魔導士。その言葉を聞いた途端、貴族達や重臣達が騒いだ。
「そして、皆様が気にしているこの子は、イグドラシル。私と盟約を結びしドラゴンであり、世界創世神話に登場した、光の角持つ竜です」
この言葉には、誰しもが驚いた。
なんせ、その竜は空想とされ、ただ神としてしか崇めたことがなかった国の者にとっては、見ることなど叶うはずがないからだ。
「リーア」
アリシアを第二の幼名で呼んだのはレイナード。
アリシアは振り向き、玉座に座る自身の父を微笑みながら見上げた。そしてその隣には、現王妃が座っている。微笑んでいるが、その瞳は怒りでいっぱいだ。
「なんでしょうか」
「余は、そちにこの日をもって、王太子妃の座を与えたい」
もう、この場は驚きに満ちていた。
なのにそれを、それ以上にしてしまったレイナードの発言。それに、そう簡単にはそれが決められないということは、彼自身が一番よく解っているはず。
そして、その言葉に一番反応する人達のことも、解っているはずなのに。
「国王陛下!」
「父君様!」
反応したのは、レクソン王妃リスティアルとクレアシアだ。
「なんだ、王妃」
「それは、第一王女に与えられるべき座です!」
「だが、決定権は余にある」
「そうですよ!父君様、どうか御考え直しを!」
悲痛な声で叫んだのは、クレアシア。それも、アリシアの目の前で。
「それはせぬ」
クレアシアの言葉を間髪入れずに否定したのはレイナードだった。その声音は、誰もが平伏したくなる声だった。