第一章 第五話 かけがえのない存在として
それに対し、セナはアリシアの規模が大きすぎる発言に、驚きを隠せないでいた。
世界創世神話に登場するドラゴン。それは、この世の全ての森羅万象を司る。
「そのドラゴンは、今どこに?」
セナが恐る恐る聞くと、アリシアは左肩に手をかざした。すると、そこから幼竜程度の大きさの竜が現れる。しかしその竜は、決定的に他の伝承で伝わっている竜とは違う部位があった。
それは、額から出ている、一本の角。
それこそ、世界創世神話に登場するドラゴンの特徴だった。
「この子の名前は、イグドラシル。意味は、古語で創世」
「っ!!」
驚きで、セナは声にならない悲鳴を上げた。
伝説上のドラゴンであり、この世を創世したドラゴン。驚くのも当たり前と言える。
『リーア。なぜ我を現に現した』
「別に構わないでしょう?それに、暇だったのだから」
クスクスと笑いながらイグドラシルと会話するアリシア。
「あ、あの、皇女陛下」
「何ですか?」
「その………まさかとは思いますが………イグドラシル様も、晩餐に?」
アリシアは彼女の質問に、数回瞬きする。
すると、とんだ発言をするではないか。
「そうしますよ。もう、隠せないとも思いますから」
「え?」
「貴女は、まだ信頼に値しません。もし、貴女にイグドラシルのことを言われれば、私の立場なんて、簡単に、脆く、崩れてしまうのです。貴女の発言一つで………。それなら、私から話す方が楽です。それに、イグドラシルの力を奮えば、この国を簡単に護れますから」
「し、信頼に値しないとは!?」
「そのままの意味ですよ。貴女は今日私の側付きになったばかり。なのに、信頼するとでもお思いですか?」
アリシアの言葉に、セナは絶句させられた。
そこまで信頼されてないとは思わなかったのだ。
「へぇ〜」
「っ!?」
奇襲かと思い、アリシアは身構えた。けれど、すぐにそれを解いた。
「魔女、あんた禁術に手を出してたの?」
「答える義理など、ありませんよ」
「それが、姉に対する物言いかしら?」
妖艶な声に、アリシアは寒気を覚えた。そして、イグドラシルはアリシアの肩から飛び立ち、空中に留まる。
「そのドラゴンで、私を消しかけるの?」
そして、また妖艶な声で問いかけるクレアシア。
「ま、いいわ。私は会場に入ってくるわ」
そう言って、立ち去ったクレアシア。呆然とアリシアは、その背中を見つめることしかできなかった。
「もう、入っていい頃かしら?」
その問いは、セナに向けられたもので。
「はい、大丈夫だと」
「解ったわ。………イグドラシル」
アリシアがイグドラシルを呼ぶと、彼は左肩に乗る。
「扉を」
アリシアの言葉を合図に扉が開き、廊下の一部を照らした。
「行きましょう、イグドラシル」
そう言って、アリシアは大広間へと足を踏み入れた。