第一章 第五話 かけがえのない存在として
あれから、アリシアはセナに、フローレスは自分の側付きである、シュナ・リィに連れられて、大広間へと向かった。
晩餐の主役はアリシア。そのため大広間に彼女は入らず、フローレスだけが入った。
アリシアは、大広間へと続く扉の中で、一番大きなものの前に立った。彼女の隣にはセナが控えている。
「ねぇ、セナ………」
「どうかされましたか?」
扉を見据えていたアズライトの色に酷似した瞳を、セナに向けた。
そして、形の良い桃色の唇が動き、言葉を紡いだ。
その言葉には、セナも耳を疑った。
「私は、王女としての、資格はないと思っています。それに、王女の座に君臨することも、してはいけないと、私は考えています」
「な、にを、申されるのですか………」
その言葉は、この国をずっと、今も護り続けているアリシアが言う言葉なのかと、セナは素直にそう思った。
驚くセナから、扉に視線を戻してからも、アリシアは言葉を紡いでいく。
「私は、ずっと、この国を護り続けてきました。それは、顔も知らなかった父の命令だったからです。そうでもしないと、ここから、追い出されると幼い私は思ったのです。成長していくに連れて、私は魔力を操れるようになり、今では自分の魔力を実体化させるようにまでなりました。そこまで………そこまでは、良かったのですよ」
アリシアは、実体がないものに怯えるかのように、露わになっている二の腕をだいた。
そして、肩を震えさせていた。
「どういう………意味ですか?」
声が震えるのを抑えずに、セナはアリシアに問うた。
アリシアは瞳を閉じながら息を吐き、瞳を開けて、言葉を紡いでいく。
「離宮には、魔法や魔術、魔法陣に関する書物がたくさんあります。その中の魔方陣の書物の中に、禁断召喚魔法陣に関する書物があったのですよ」
「禁断………召喚魔法陣……………!?」
セナが驚きつつも口にした言葉に、アリシアは頷いた。
「貴女も知っていますね?禁断召喚魔法陣は。この世界のあらゆる理を超えてしまう魔法陣。その内容は、この世に存在していない、別の空間に存在して居るとされている、空想上の生き物を召喚する魔法陣。それ即ち、禁断召喚魔法陣」
「それが、どうかされましたか?」
「私はそれを、実行してしまったのですよ」
「………っ!!」
セナは驚愕し、後ずさった。
「い、ま………何とおっしゃいました………!?」
「私が召喚したのはドラゴン。日の光を受けて虹色に輝く金色の鱗を持ち、四肢は太く、力強く。魔力は私と同等かそれ以上。そして、額には鱗と同色の一本の角」
「その、ドラゴンは…………」
「そう。この国の民、いいえ………この世界の人間全てが知っている、世界創世神話に登場する、この世を創世したーーーーーーーーーードラゴンよ」
話し終えたアリシアの表情には、悲しげな中に、少しの喜びが混じっていた。