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それは年に一度人知れず行われる生贄の儀式。
一番端の教室がその標的。
消える教室。あるいは消された教室。
その教室にいた生徒はいなかった事にされ、そのクラスの存在も学校から抹消される。
ただ、空き教室として、名残を残す。
なぜ、消えるのか、消えた生徒がどうなったのか誰も知るものはいない。
*---*
美晴は呆れて言った。
「その話だと誰がそんな話をなぜ知っているかって事にならない?」
「そう言われてもねー」
「噂だよ、噂。所詮、噂。されど噂」
「噂ねぇ」
最近になって急に流行りだした消える教室の噂。
気になって噂好きのグループに聞いたがやっぱりその程度だったか。
「というか、一番端の教室ってここじゃない」
「おおー」
「気付かなかった」
「なんで気付かないのよ」
「でも、正確には一番端じゃないんじゃない?」
「なんで?」
「だって、隣にも教室あるでしょ」
「空き室って言わない?」
「でも、机とか椅子とかはあるじゃん」
と、ふいに黒板を叩く音が聞こえた。
数学担当で担任の五条先生だ。
「ほら、もう授業は終ったんだ。用がないなら帰った帰った」
両手をはたいてチョークの粉を払い、教室から出て行った。
今だに教室には何だかんだで半数くらいが残っている。
「帰ったってなにがある訳じゃないしねー」
「都会じゃともかくこんな田舎じゃな」
「あれ美晴、帰るの?」
「その前にちょっとトイレ」
美晴は席を立って廊下に出た。
何気なく並ぶ教室を見渡す。
校舎3階の教室は全て2年生で閉められていた。
唯一の例外が、隣の空き教室である。
なぜ空いているのか、理由は簡単で教室は13部屋あったが、2年生は12クラスまでしかなかったからである。
「実は元々13クラスあって噂の通り消された…な訳ないか」
自分の馬鹿馬鹿しい想像を止めて、空き教室を通り過ぎてトイレに行こうとして、視界の端に気になるものを見つけて足を止める。
「え?」
空き教室の廊下側の窓から、教室内部が見えるのだがそこに私服姿の少年の姿が見える。
美晴より少し年下だろうか?
デニムのジャケットにジーンズ、青一色の姿だが、その背には艶やかな光沢を放つ布で包まれた棒状のものが強く自己主張していた。
何してるのかな?
美晴はしばし悩んだが、結局直接聞く事にした。
教室の戸を開くと、少年もこちらの方を向いたがすぐに真上に目を向ける。
「ねぇ、何してるの?」
聞きながら、少年の視線を追って上を見る。
しかし、蛍光灯と天上と染みぐらいしか見えない。
「ねぇ」
返事が返ってこないので少年の肩をゆすろうと手を伸ばすと
「情報収集、後は準備と保険。後者は大体終ったけどね」
まるっきり意味不明。
そして、ようやく少年がこっちを向いた。
「君は隣の教室の生徒?」
君ときたか。
どう考えてもあんたの方が年下でしょ。
そう思いながら
「ええ、そうよ。で、あんたは? 勝手に学校にもぐりこんじゃだめでしょ」
「正式な手続きなんて踏んでる暇なんてないし、通るとも思えないしね」
「なによ、それ」
「あまり君が気にする事じゃないよ。気にする事なら別にあるしね」
「?」
「もう、今日は帰った方がいいよ。教室にもどらずにそのまま」
「なんでよ。というかカバンとか置きっぱなしだし、友達が待ってるかも知れないのに」
と体が生理現象でブルっと震えた。
いけない、当初の目的を忘れていた。
「とにかく、先生に見付かる前に帰りなさいよ。見付かって叱られても知らないから」
そう言って、美晴は教室を出た。
「トイレ、おトイレっと」
*---*
空き教室に残された少年は去っていく少女を見つめて肩を竦めた。
「カバンと命、どっちが大切なんだろう」