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ドール― after story ―  作者: 粟吹一夢
Vol.7 笑顔も涙も一緒に手を携えて
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第九章 ラスト・ライブ!

 池袋ザッパ。

 二年生の最後を飾るステージとして、二年生バンドは、このライブハウスを選んだ。

 一度、出演していて、勝手が分かっているということもあるが、メンバーにとって、このザッパが、今でも自分達の憧れのステージであることに変わりはなかったからだ。

 単独のライブで、観客を飽きさせることなく、二時間近くのステージを務めるということは、自己満足では済まされないクオリティが要求され、演奏だけではなく、MCを含めたステージ上のあらゆる行動アクションをスリリングなものとする必要がある。

 今回、出演を許されたということは、二年生バンドがその実力を十二分に持っていると、ザッパのマスターも太鼓判を押してくれたということだ。


 午後七時からのライブスタートで、午後四時には、リハが開始される予定になっていた。

 三月になって、少し寒さもやわらいできたこともあり、メンバーは、ザッパの入口の前で待ち合わせすることになっていた。

 ナオとカズホが手を繋いで、池袋駅からザッパに向かうと、同じく手を繋いだレナとマコトに会った。

 笑顔でうなずきあった四人は、そのままザッパまで歩いて行った。

 ザッパの前には、ハルとミカがいた。

「あれっ、何でミカがいるんだ?」

「何でって、応援に来たんですよ!」

 ハルもミカとつき合い始めたことは、まだ、誰にも言ってなかったから、マコトも知らないはずと思っていた。

 しかし、根が正直者のハルが、バレンタインデー以降、ずっと、にやけた顔をしていることと、塾があるにもかかわらず、一年生バンドの練習が終わるのを、毎日、その部室の前で待っているハルの行動を見れば、バレバレであった。

「そうか。じゃあ、楽屋にも入るか?」

「良いんですか?」

「ああ、もちろんだよ。もう、来てるのに、一人で外で待ってろなんて言えないよな。ハル?」

「そ、そうだよね」

 メンバーが揃って、笑いながらザッパに入ると、バイトをしているショーコが、モップでフロアの拭き掃除をしていた。

「おっ! 来たな!」

「ショーコさん、お久しぶりです」

「おひさ~。ナオちゃんもレナちゃんも、本当、久しぶりだね」

 ナオとレナも笑顔でショーコに挨拶を返した。

「何か、二人とも良い顔してやがるな。ナオちゃんは当然として、レナちゃんも何か良いことあった?」

「ええ、すごく」

「何だよ? 教えろよ!」

「秘密ですよ。良いことが逃げちゃうといけないので」

「アタイは人の幸せを取ったりしねえよ!」

 ショーコがわめいていると、ザッパのマスターがやって来た。

「ほら、ショーコ君、あっちがまだだぞ」

「へ~い」

 ザッパのマスターも、笑いながら、ショーコの背中を押した。

 ショーコが、口を尖らせながら、店の奥にモップを掛けながら行くと、二年生バンドのメンバー全員が揃って、マスターに頭を下げた。

「マスター、今日は、よろしくお願いします!」

「いやいや、こちらこそよろしく。僕も君達のライブが久々に見られるのは嬉しいよ」

「ありがとうございます! 早速、セッティングを始めて良いですか?」

 はやる気持ちを抑えられないマコトだった。他のメンバーも同じだった。


 ライブが始まった。

 歌い出しの時、メンバー全員がレナに注目した。

 マイクを通して聴こえるレナの声は、生声よりも何十倍もあでやかで、そして力強かった。

 PAブースで腕を組んで、ライブを見つめている、ザッパのマスターの表情もまったく変わらなかった。

 もし、レナの声が前回よりも酷くなっているとしたら、ザッパのマスターに、今のような笑顔は見られないはずだ。

 そして、観客達が、レナの声に酔いしれていることは、誰の目にも明らかだった。

 そんなライブハウスの雰囲気が、のし掛かっていたプレッシャーから、レナを解き放してくれたようで、ホール全体にレナの声が鮮やかに響いた。

 心の奥底で、レナのことを心配していたメンバー達も、そんなレナの声を聴いて気が軽くなると、全神経を演奏に集中することができ、そんなバックの熱い演奏に、レナの気分も高揚してきて、一層、その声が輝き始めるという相乗効果が出てきて、ライブはいよいよ盛り上がった。


 鳴り止まぬアンコールの手拍子がステージと客席に鳴り響くなか、メンバーは舞台の袖にいた。

「レナ! もう歌いたくないか?」

 歓声と手拍子にかき消されないように、マコトが叫ぶようにレナに訊いた。

「そんな訳ないじゃない! 歌いたいよ! 歌いたいに決まってる!」

「それがお前の出した結論なんだな!」

「そうだよ! もう、弱音は吐かないよ!」

「みんなは、どうする?」

「続けるさ。体が続く限りな!」

 カズホがステージを真っ直ぐに見つめながら言った。

「僕も続けたい! でも……」

 ハルが最後、口ごもった。

「今、結論を出す必要はねえよ! 卒業まで、まだ一年ある。ゆっくり考えろ!」

 ハルが大きく頷いた。

「ナオっちはカズホと一緒か?」

「分かってるんなら訊かないでください!」

「ははははは、そうだったな」

 マコトが振り向いて、レナの顔を見た。

「レナ!」

 マコトが左手を差し出すと、レナがその手を握った。

「ナオちゃん!」

 今度は、レナがナオに左手を差し出した。ナオはすぐにその手を握った。

 そして、カズホを見ながら、左手を差し出した。

 カズホもニコニコと笑いながら、ナオと手を繋いだ。

「ハル!」

 呼ばれたハルが、カズホの左手を握ると、自分の左手をミカに差し出した。

 二年生バンドのメンバーではないミカは、その手を繋いで良いのかどうか迷っていた。

「ミカ! 一緒に来い!」

 マコトがミカの顔を見ながら言った。

「で、でも」

「ハルだけ女の子と手を繋いでないなんて寂しいだろ」

「……マコト先輩」

「ミカちゃん、最後だし、一緒に暴れよう! ミカちゃんも知っている曲をするから、私のギターを弾いて!」

「良いんですか?」

「出たくて、うずうずしてるんだろ?」

「は、はい!」

 ミカがハルの左手を握ると、二人は微笑みながら見つめ合った。

「さあ、行くぜ!」

 マコトを先頭に、ミカまでの六人が、手を繋ぎ、並んでステージに出た。

 大きな歓声がホール全体に響いた。

 ナオは、カズホと繋いでいた左手に力を込めた。カズホも、ぎゅっとその手を握ってくれた。

 全員が、手を繋いだまま、揃って頭を下げた。

(この手は絶対に離れない!)

 ナオは、自信を持って、そう思った。

 顔を上げたナオ達をスポットライトが眩しく照らしていた。

(みんなで歩いていく!)

 ナオには見えていた。手をたずさえて歩いて行くみんなの姿が。

 だから、この六つの音符達は、もう迷子になることはない。

 絶対に!

 

(完)

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