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ドール― after story ―  作者: 粟吹一夢
Vol.7 笑顔も涙も一緒に手を携えて
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第二章 頼りになる男じゃないけど(1)

 一月が今日で終わるという日の夕方。

 既にあたりは暗く、今にも雪がちらつきそうなほど冷え込んでいた。

 二年生バンドの練習が終わり、今日も一番に部室を出たハルが、一年生バンドの部室の前を通り掛かると、丁度、ミカが出てきた。

「やあ、村上さん。一年生バンドも、今、終わり?」

「はい! ハル先輩も?」

「うん。それじゃあ、お先に!」

「あっ、ハル先輩!」

「うん?」

 ハルが立ち止まり振り返ると、ミカが何か言いたげにしていた。

「何だい?」

「ハル先輩は、今日もこれから塾ですか?」

「うん、そうだけど」

「そ、そうですか」

「どうしたの?」

「あっ、いえ。ちょっと、お話をおうかがいしたいなって思ったんですけど」

「は、話?」

「あ、あの、マコト先輩とレナ先輩のことなんですけど。……でも、また今度で良いです」

 ミカから「話がある」と言われて、あらぬことを勝手に期待していたハルは、自嘲気味に笑った。

「その話ね。……村上さん、帰り道は、途中まで同じ方向だったよね? 歩きながらで良かったら聞くけど?」

「あっ、……じゃあ、お願いします」

 ハルとミカは共に電車通学だったが、塾に行くハルは途中で別の道を行くことになる。その分かれ道までと、二人は並んで歩き出した。

「マコトとレナさんのことって、どういうこと?」

「あ、あのですね。ちょっと訊きづらいのですけど、……マコト先輩とレナ先輩って、おつき合いしてるのですか?」

 レナが「マコトを恋人として考える」宣言をしたことは、二年生バンドのメンバー以外は知らないことだった。口止めをされていた訳ではなかったが、積極的に打ち明けることもはばかられた。

「えっと、その話は、前にも訊かれた気がするけど?」

「はい。その時、ハル先輩は、二人はつき合っている感じじゃないって、おっしゃいました。今もそうなんでしょうか?」

「どう言う意味? あの時から、何か変わったことがあった?」

「あ、あの、最近、マコト先輩とレナ先輩が一緒に帰っているって聞いたんです。私自身は見てないですけど、同級生で何回も見たという人がいて……。レナ先輩って、何と言っても我が校のクイーンですから、けっこう、話題になってるんです」

「そう」

 ハルは、本当のことを言って良いかどうか悩んだが、言うのであれば、マコトやレナ本人が言うべきことで、自分が言うべきことではないと思い至った。

「練習の後は、今日みたいに、僕が一番早く出ているから、マコトとレナさんが一緒に帰っているってことは、僕自身も初めて聞いたよ」

「そうですか」

「それに、練習中も、二人のやり取りは、そんなに変わった感じはしないけどね」

 ハル自身も、実際にそう感じていた。

「そうなんですか」

「って言うか、二人は、前から仲良しじゃない」

「それは、レナ先輩も言ってましたけど、幼馴染みとしてですよね? でも、最近、もっと仲良しになっているというか、まるで恋人同士のような気がするんです」

 ハルは、女性の勘の恐ろしさを実感した。

「村上さん。マコトとレナさんが、本当に恋人同士になっているのかどうかを確認したいってことは、やっぱり、マコトのことが気になるの?」

「あっ、……いえ、あの」

 明らかに動揺しているミカを見て、余計なお節介かもしれないけど、後になればなるほど、ミカの傷が大きくなるような気がしたハルは、ミカには早めに知っておいてもらった方が良いと考えた。

「村上さん」

「はい」

「たぶん、……たぶんだけど、マコトとレナさんの間には、もう誰も入り込めないような気がするんだ」

「えっ?」

「それは、二人が恋仲になっているのかどうかに関係無くにね」

「……」

「何だかんだ言って、二人は信頼し合ってるし、分かり合ってるし、認め合ってると思う」

「それは、……私もそう思います」

「うん。二人が恋仲になるってことは、それに『好き合ってる』ってことがプラスされるだけで、二人の関係が今と大きく変わることはないんじゃないかな」

「……確かに、そんな気もします」

「もし、村上さんがその間に割り込もうとしてたのなら、もう、できていると思うんだ。でも、マコトと知り合って、一年近く経つけど、マコトから、それらしいアプローチが無いということは、残念ながら、マコトの目は、レナさん以外の女性には向いてないんじゃないかな」

 ハルも、我ながら屁理屈だと思ったが、意外と、ミカは納得しているようだった。

「……そうですよね。……そう……なんですよね」

「……村上さん?」

 ミカの寂しそうな顔を見て、少し念を押しすぎたかと後悔したハルだったが、ミカは、すぐに笑顔になった。

「ハル先輩。お話を聞いてくれて、ありがとうございました。何か、ちょっとだけですけど、吹っ切れた気がします」

「いや、僕は、お礼を言われるようなことはしてないよ」

「そんなことないです。ハル先輩は、いつも真剣に話を聞いてくれて、真剣に考えてくれるから、すごく嬉しいです」

「いや、まあ、何というか、不器用って言うか、適当に済ませることができないんだよね」

「ハル先輩って、本当に真面目ですものね」

「そんなに言われると照れちゃうよ」

「本当ですよ。私が、こうやって、ハル先輩に話を聞いてもらうのも、ハル先輩が信じられる人だからです」

「ありがとう、ってお礼を言えば良いのかな?」

「あっ、すみません。何か、上から目線みたいなこと、言っちゃって」

「はははは、別に気にしてないよ。僕なんかと違って、村上さんはしっかりしてるし、はっきりと物が言えるし。僕も村上さんと話をしていると気持ちが良くなるよ」

「そ、そうですか」

 ハルは、ミカが、本当は落ち込んでいるのに、強がっているような気がして、ハルなりに慰めようと考えた。

「村上さんは、一年生の女子の中でも、すごく人気があるって聞いてるよ。彼氏なんて、すぐにできるんじゃないの?」

「えっ! そんなことないです! 誰がそんなこと言ってるんですか?」

「マコトが言ってたけど、僕も正直、そう思うよ」

「あ、ありがとうございます。でも、本当に人気なんて無いですよ。ずばずばと物を言う、うるさい女だって思われていると自覚してますから」

「そうかな? 少なくとも、僕は、村上さんと話していて、うるさいと思ったことはないし、いつも楽しいけどね」

「た、楽しいですか?」

「うん」

「……ハル先輩は本当に優しいです」

「まあ、それしか取りが無いからね」

「そ、そんなことないです!」

「えっ?」

「勉強もできるし、ドラムだって上手いじゃないですか!」

「はははは、どうもありがとう。村上さんから褒めてもらえると素直に嬉しいね」

 ハルも、今まで女性とつき合ったことはないが、別に、女性を苦手にしている訳ではなく、草食系で、のんびりとした性格のせいで、今まで縁が無かっただけであった。

「村上さん、僕が行ってる塾は、この公園を突っ切って行った方が近いんだ。僕は、こっちから行くよ」

 駅までの道の途中にある公園まで来ると、ハルがミカに言った。

「私もそんなに急いでないし、もうちょっとお話をさせていただきたいので、一緒に行っても良いですか?」

 駅に行くのには、少し回り道になるが、ミカが一緒に行くと言ってくれて、ハルは素直に嬉しかった。

「もちろんだよ」

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