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ドール― after story ―  作者: 粟吹一夢
Vol.6 聖夜に悪戯な天使が舞い降りて 
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第七章 レナ・プレゼンツ・イブナイトキス!

 自らの言葉どおり、レナが観客をあおりまくって、トリを務めた、ペパーミント☆キャンディ☆ポップ☆クラブ☆バンドが二回のアンコールを受けるなど、クリスマスライブは大盛況で幕を閉じた。

 美郷高校軽音楽部のメンバーが、キャラバンビートを出た時には、午後十時を回っていた。

「それじゃあ、みんな、お疲れさま!」

「お疲れさまでした!」

 今日は、実質的なプロデューサーでもあるレナが仕切っていた。

「みんな、気をつけて帰ってね。ナオちゃんは、これからカズホとどっかに行くの?」

「もう、こんな時間だし、行きませんよ~」

「そうなの? でも、もう、親公認になったんでしょ?」

「そうですけど」

「そうだからこそ、ちゃんと家まで送り届けるんだよ」

 カズホが割って入ってきて、ナオの手を取った。

「じゃあ、俺はナオを家まで送ってから帰るから」

「了解。ミカちゃんは?」

「私も電車で帰ります」

「僕も」

「ハル君、ミカちゃんと同じ方向だったでしょ? ミカちゃんを送ってあげて」

「えっ、ああ、そうするよ」

「ハル先輩、大丈夫です」

「ミカちゃん! 結局、同じ方向に帰るんだし、ハル君に送ってもらいなさいよ」

「は、はい。それじゃあ、失礼します」

 二年生バンドと一年生バンドのメンバーは、それぞれの家路に着いた。

 後には、マコトとレナが残った。幼馴染みの二人の家は同じ方向だった。

「それじゃあ、帰るか」

「うん」

 新宿駅に向かって、二人は並んで歩き出した。

 街のイルミネーションに誘われるように、多くの人が通りを歩いていた。

「マコト」

「うん?」

「私のミニスカサンタ姿、どうだった?」

「どうだったって?」

「マコトの感想はどうなの?」

「い、いや、まあ、目の保養にはなった」

「ふふふふ、それは何よりでした」

「あ、ああ。でも、どうしてミニスカサンタの衣装にしたんだ? 嫌がってたのに」

「マコトが言った時は嫌だったけど、その後、色々と考えたら、やっぱり、クリスマスだし、サンタの衣装しかないだろうなって思い至った訳よ」

「へえ~、まあ、レナらしいな」

「私らしい?」

「ああ、自分が良いと思ったら、もの怖じしないで、即それを実行するところがな」

「ふふふふ、ありがとう。褒め言葉だと取っておく」

「褒め言葉さ」

「うん」

 二人は、多くの人がたむろしている改札口前にやって来た。

「マコト!」

「うん?」

 改札を入ろうとしたマコトが振り返ると、立ち止まったレナが、ライブの時に被っていたサンタ帽を頭に乗せていた。

「何だ?」

 レナは、ニコニコと笑いながら、コートのポケットから、緑の包装紙で綺麗にラッピングされ、赤いリボンが付いた掌サイズの小さな箱を取り出した。

「はい! メリークリスマス!」

「えっ? お、俺にか?」

「他に誰がいるのよ?」

「あっ、そうか。あ、ありがとうな」

「うん」

「開けて良いか?」

「どうぞ。……あっ、変な期待はしないでよ。在り来たりの物だから」

 マコトがリボンを丁寧に取って、包装紙を外す間、レナはマコトの隣に立ち、一緒に箱を見ていた。

 箱の蓋を取ると、中は空っぽだった。

「んっ? 何だ、これ?」

 マコトがすぐ隣に立っていたレナの方を見ると、いつの間にかコートを脱ぎ捨てて、ミニスカサンタ姿になっていたレナの顔が、ぶつかるように近づいて来た。

 目を開けたまま、呆然としているギタリストに、ミニスカサンタがキスをした。

「……!」

 周りの人達も呆気に取られている空気の中、レナはすぐにマコトから離れて、とびっきりの笑顔を見せた。

「今まで、ありがとう! マコト!」

「へっ?」

「いつも私を守ってくれて……。そのお陰で、私は好き勝手することができた。好きな音楽もずっと一緒にしてくれて、すごく楽しかった」

「……」

「マコトに今までの感謝を込めたプレゼント……。嫌だった?」

「そ、そんな訳ないだろ! 突然だったから、ちょっと、びっくりしただけだよ」

「良かった」

「レナ。……レナは俺のことを、そ、その、好きなのか?」

「何、その質問?」

「えっ、変か?」

「女の子に気持ちを訊くのなら、男の子から先に言うべきじゃないの?」

「そ、それもそうだな」

 マコトは、しっかりとレナの方に向いて、真剣な顔付きになった。

「俺はレナのことが好きだ! ずっと好きだ!」

「うん」

 レナは少し頬を染めて、うつむき加減になったが、すぐに顔を上げて、マコトを見つめた。

「私は、マコトのことが好きなのかどうか分からない」

「へっ?」

 すかされたようで、少しずっこけたマコトだった。

「マコトが今、言ってくれた『好き』ってことは、友達としてとか、バンドメンバーとしてとか、幼馴染みとしてとかじゃなくて、恋愛の対象として『好き』と言うことでしょ?」

「ああ、もちろんさ」

「マコトは、一番仲が良い異性の友達で、最高のバンドメンバーで、何でも言い合える幼馴染みで、そう言う意味では間違いなく『好き』だよ。だから、そんな大好きなマコトに私はキスをしたの。キスしたいなって思ったから」

「……」

「でも、マコトと、この後、何回でもキスできるかな? 四六時中一緒にいられるかな? エッチができるかな? なんてことを考えると、まだ、私の中で結論が出ていないの」

「そ、そんなことを考えていたのか?」

「あら、私が好きでもない男とエッチをする女だと思っていたの?」

「そんな訳ねえだろ! レナのことは俺が一番分かっている……つもりだ」

「ふふふふ」

 レナは少しマコトから距離を取ると、後ろで手を組んで立った。

「マコト! 私、今までマコトのことを、友達とか、バンドメンバーとか、幼馴染み以上の存在だって、考えたこともなかった。でも、これから考えるから! ちゃんと考えるから!」

「あ、ああ」

「その結論が出るまで、待っててくれる?」

「今まで、ずっと待ってたんだ。これからだって待つさ。レナから、もう顔も見たくないと言われるまでな」

「……ありがとう、マコト」

 レナは、コートを拾って、羽織った。

「寒くなっちゃった」

「そんな格好でいたら寒くなるのは当たり前だ」

「それもそうだね」

「ったく! ほれ!」

 マコトは自分が締めていたマフラーを外して、レナに差し出した。

「首元も寒いだろ? これも巻いとけよ」

「マコトは寒くないの?」

「レナのキスで寒さは吹っ飛んだよ」

「ふふふふ。……じゃあ、帰ろうか?」

「ああ」

 遠巻きに二人を見つめる大勢の人の目を気にとめることもなく、二人は改札を入って行った。

 手を繋ぐことも、甘い言葉を交わすこともなかったが、隣にいることが当然のような二人だった。

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