第六章 サンタがライブにやって来た
クリスマス・ライブの日。
ハルが、ライブハウス「キャラバンビート」に行くと、まだ、店のシャッターは閉まっていた。
集合時間には、まだ三十分以上あった。
どこかで暇を潰そうかと思案していると、すぐにミカがやって来た。
「ハル先輩! もう来られていたんですか?」
「ああ、村上さん。新宿はあまり来たことがないから、迷ったりして遅れちゃいけないって思って、少し早く家を出たら、思いの外、早く着いちゃって」
「私もです。まだ三十分以上ありますよ」
「そうだね」
「寒くないですか、ハル先輩?」
「凍えていたよ」
「あそこにコーヒーショップがありますから、入りませんか? ずっと立って待っているのも辛いですから」
「そうだね。そうしようか」
コーヒーショップに入った二人は、注文したコーヒーを受け取ると、カウンターテーブルに並んで座った。
「女の子と二人きりでこうやっていると、何かデートしてるみたいだね」
「えっ!」
「あっ、ご、ごめん。変なこと言っちゃって」
「いえっ、……ハル先輩はお付き合いしている方はいらっしゃらないんですか?」
「いる訳ないよ」
「そうなんですか?」
「うん。村上さんはどうなの?」
「ど、どうなのって?」
「いや、付き合ってる男の子とかいないの?」
「いませんよ!」
「そうなんだ。でも、村上さんは一年生の男子にすごく人気があるそうじゃない?」
「そ、そんなことないです!」
「でも、マコトがそう言ってたよ」
「マコト先輩が?」
「うん」
「……あの、ハル先輩」
「うん?」
「変なことを訊いて良いですか?」
「な、何?」
「マコト先輩って、その……誰かと付き合っているんでしょうか?」
「えっ、マコトが?」
「はい。レナ先輩と仲良いですよね?」
「うん、そうだね。でも、どうなんだろう。僕もよく分からないけど、彼氏彼女の関係には見えないけどね」
「そ、そうですか?」
「うん、まあ、レナさんは、イチャイチャするってイメージではないしね」
「確かにそうですねよ」
「マコトのことが気になるの?」
「あっ、いえ。……マコト先輩もレナ先輩も大好きな先輩なので、どうなのかなあって思って」
「そうだね。確かに、恋人っていう感じではないけど、二人の間には、阿吽の呼吸ができているような気がするな」
「阿吽の呼吸ですか?」
「うん。お互いの考えていることがすぐに分かったりとか、何て言うか、言葉に出す必要がないみたいな感じかな」
「そ、そうですか」
「……村上さん」
「は、はい」
「こんなこと言うと、酷いと思われるかもしれないけど」
「な、何でしょう?」
「う、うん……」
「あ、あの、どうぞ」
「マコトはさ、村上さんのこと、可愛い後輩という目でしか見てないと思う。何というか、ナオさんと同じく、村上さんに対しても、無意識だと思うけど、マコトなりに距離を取っている気がする。でも、レナさんに対しては、思いっきり、ぶつかって行ってるような気がするんだ」
「……」
「ご、ごめんね。でも、マコトの近くにいて、僕なりに感じていることなんだ」
「い、いえ、……そうですよね。何て言ったって、レナ先輩は『クイーン』なんですものね。そのレナ先輩の一番近くにいるのに、私なんかを見つめてくれるはずがありませんよね」
「……村上さん」
「あっ、ハル先輩。誤解しないでくださいね。私は、別にマコト先輩をレナ先輩から奪おうなんて、夢にも思っていませんから。そもそも、レナ先輩に敵う訳もない訳ですから」
「う、うん」
「……でも、ハル先輩って、意外としっかり見てるんですね」
「えっ、意外ってどういう意味? そんなに頼りなさげかな?」
ハルは思わず微笑んだ。
「あっ、すみません」
「別に怒ってないよ。というか、村上さんも面白いね」
「そ、そうですか?」
「あっ、もうこんな時間だ。そろそろ、行こうか?」
「はい」
ハルとミカが待ち合わせ場所に行くと、カズホとナオ、そしてマコトと、一年生メンバー全員が来ていた。
「あれっ、お前達、一緒に来たのか?」
「ち、違いますよ!」
ミカが焦って否定する。
「早く着いてしまって、村上さんと一緒に、そこのコーヒーショップで暇を潰していたんだ」
「そうか。後はレナだな」
マコトがそう言った頃を見計らったかのように、レナがやって来た。
足元は黒いエナメルのブーツに、襟にファーが付いた濃紺のロングコートを着ていた。
「お待たせ! って、まだ十分前でしょ? みんな、気合いが入っているわね」
「レナは入ってないのかよ?」
「もちろん、入っているわよ」
そう言うと、レナは、コートのボタンを外すと、前をはだけた。
「えっ!」
レナは、ミニスカートの裾にファーが付いた真っ赤なサンタ衣装を着ていた。
「レナ、それって?」
「マコトが言ってた、ミニスカサンタよ」
「俺のために?」
「んな訳ないでしょ。お客様のためによ」
「ああ、そうかい」
「私も気合いが入りすぎて、爆発寸前よ! みんな! 今日、私は暴れまくるから、覚悟しておいてね!」