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ドール― after story ―  作者: 粟吹一夢
Vol.6 聖夜に悪戯な天使が舞い降りて 
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第四章 恋人と家族を天秤に掛ける悪戯(2)

 その夜。

 ナオはカズホに電話を掛けた。

 メールではいつもやり取りをしていたが、電話は掛けるのは久しぶりであった。

「カズホ。……まだ、寝てなかった?」

「ああ、ナオに借りてるCDを聴いていたよ」

 そのCDは、ナオの父親のお勧めのものだった。

「ああ、……どう?」

「最初は、あれって感じだったんだけど、聴いているうちに、何か中毒みたいになってきてさ。やっぱり、ナオのお父さんの耳は確かだなって感心をしたよ」

「そうなんだ」

 くすりとナオは笑ったが、自分でも暗い笑いだなと気がついた。当然、カズホも気がつかない訳がなかった。

「ナオ。何かあったのか? 元気がないみたいだけど……」

「う、うん。実は……」

 自分の家のことを、カズホに話して、何か解決できるものではないし、それを聞かされるカズホはどう思うだろうと、ナオは考えたが、自分の生活が激変するかもしれないことは、ちゃんとカズホに伝えるべきだと思い至った。

「実はね、お父さんがまた転勤になっちゃって」

「えっ! 福岡から戻って来たばかりじゃないか?」

「う、うん。そうなんだけど……」

「どこになったんだ?」

「サウジアラビア」

「サ、サウジアラビア!」

「うん」

「ナ、ナオはどうするんだ?」

「私は行かない。だって、カズホと別れたくないもん。レナちゃんとも、軽音楽部のみんなとも、ミエコちゃんやハルカちゃんとも……別れたくない」

 ナオの目から自然に涙が流れた。

「でも、そうすると、お父さん一人だけ行くということなのか?」

「お母さんと沙耶は一緒に行くと思う。だから、私だけ日本に、ここに残る」

「……ナオは本当にそれで良いのか?」

「えっ?」

「いや、……せっかく家族と、本当に一緒に暮らすことができるようになったのにさ」

「家族と友達を天秤に掛けるようなことは嫌だけど、……私は、友達を選ぶ。カズホを選ぶ」

「……ナオ」

「……いざとなったら、ショーコちゃんにも相談して居候させてもらうこともできるし、……あっ、最近は、ちゃんと料理もできるようになったから、ここで、一人で暮らすことだってできるよ」

「……そうか。俺の所に来ても良いぞ」

「えっ! そ、それって……」

「あっ、いや、そ、そんな深い意味は無くて……」

 思いも寄らず慌てたカズホが可愛く思えたナオは、思わず吹き出してしまった。

「ぷっ、ふふふふ」

「な、何だよ。笑うことはないだろう」

「ふふふ、ごめんなさい。でも、……ありがとう」

「あ、ああ」

「うん」

「……しかし、サウジアラビアにも会社があるなんて、ナオのお父さんの会社って大きな会社なんだな?」

「私もよく分からないけど、商社だから外国の会社とも色々と取引があるんだって」

「ふ~ん。何て言う会社なんだ?」

「五十嵐商事って言ってた」

「えっ!」

「どうしたの、カズホ?」

「い、いや、何でもない」

「変なカズホ」

「うるさいな」

「ふふふふ。……やっぱり、カズホとこうやって話しているだけで楽しいし、嬉しいし、心が落ち着いてくる。……私は、絶対、日本に残るから」

「ああ。……ナオ」

「はい」

「この話、マコト達や先生には話さないでおこう」

「えっ、どうして?」

「まだ、正式に決まった訳じゃないんだろう?」

「そうみたいだけど……」

「そんな話は無くなるかもしれないじゃないか」

「……う、うん。無くなれば良いけど」

「だろ! もうちょっと待っていようぜ」

 ナオは、カズホの言っている意味がよく分からなかった。

 しかし、このことは、バンドのみんなにあらかじめ相談すべきことではなく、父親の転勤が正式に決まって、ナオ自身の去就が決まってから話せば足りることだと思った。

 一方で、学校にはあらかじめ知らせておいた方が良いような気がしたが、カズホの言葉を信じることにした。

「うん、分かった。……それじゃあ、もう寝るね。……カズホ」

「うん?」

「話を聞いてくれてありがとう」

「こうやって眠る前にナオの声が聞けて、俺も嬉しかったよ」

「じゃあ、明日から、お休みコールもしようか?」

「そうだな。でも、眠れなくなりそうな気がするな」

「そうかも。……じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ」

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