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ドール― after story ―  作者: 粟吹一夢
Vol.6 聖夜に悪戯な天使が舞い降りて 
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第三章 プレゼントの想い出

 クリスマスライブの出演も決まり、美郷高校軽音楽部は、一年生も二年生もそのライブに向けて、練習にも気合いが入っていた。

 企画立案から出演まですることになったレナとしては、ライブの成功のためには、トリを務める自分達のバンドが盛り上げるしかないと考えており、いつも以上に気合いが入っていた。

 授業が終わると、すぐに部室に行ったが、既にマコトが椅子に座って、アンプにつなげていないギターを弾いていた。

「何だあ、マコトだけか」

「悪かったな、俺だけで」

「ふふふふ、ハル君は掃除当番だけど、ナオちゃんとカズホも?」

「ああ、今日の昼に、カズホがそう言っていた」

「そうか。でも、マコト。部室に来るの、早すぎない? 授業をサボっているんじゃないでしょうね?」

「してねえよ! まあ、チャイムとともにダッシュはしているけどな」

「ふふふふ。あっ、そうだ」

 レナは鞄の中をまさぐると、ビニール袋に入ったステッカーを取り出して、マコトに差し出した。

「はい。マコトにプレゼント」

「えっ、俺に?」

「他のメンバーみんなの分もあるけどね」

「何だよ」

 マコトは、自分だけへのプレゼントだと思っていたようだ。

 マコトが受け取ったステッカーを見ると、クリスマスリースの背景に、ギターを持ったサンタクロースがポーズを取っている図柄だった。

「今度のクリスマスライブの宣伝用ステッカーよ」

「へえ~、気合い入ってるな」

「うん。自分が言い出したから、絶対、成功させたいって思ってて」

「成功するさ! なんせ俺達、ペパーミント☆キャンディ☆ポップ☆クラブ☆バンドが出演するんだからな!」

「すごい自信ね。でも、私も同じ思いは持ってる。……盛り上げようね、マコト」

「おお、任せとけ!」

 マコトに微笑みを見せてから、レナは、部室の奥に行き、そこに置いていた自分のギターをケースから出し、パイプ椅子に座って、チューニングを始めた。

 その間、マコトは、ステッカーを自分が使っているギターアンプの側面に貼り付けていた。

「レナからプレゼントもらったのは、二回目だな」

 ステッカーを見つめながら言ったマコトに、椅子に座ったまま、レナが答えた。

「えっ? 私、マコトに何かプレゼントしたっけ? 誰かさんと間違えてるんじゃないの?」

「間違えるような女はいねえよ」

「そう……なんだ」

「小学校の三年か四年生の時、クラスでやったクリスマス会でプレゼント交換があって、俺にレナが持って来たプレゼントが当たったんだよ」

「ぷっ……ふふふふふ、そんな前のこと、憶えてるの?」

「ああ、……レナからもらった最初のプレゼントだったからな」

「……私、何を持って来てたんだっけ?」

「憶えてないのか?」

「全然」

「これだよ」

 マコトは、ギターアンプの側に置いていた、空のソフトギターケースのネック部分の先端を指差した。

「えっ? …………あっ」

「思い出したか?」

「うん」

「俺のお守りだ」

「お守り?」

「ああ、ギターが上手くなりますようにって、ずっと願を掛けてたんだよ」

「じゃあ、少しは御利益があったみたいね」

「大有りさ」

 ギターソフトケースのジッパーには、ミニチュアのギターが付いたストラップが付いていた。

「よく憶えていたわね。記憶力が悪いマコトなのに」

一言ひとこと余計なんだよ!」

「ねえ、マコト」

 立ち上がって、ギターをスタンドに置くと、レナはマコトに近づいた。

「んっ?」

「マコトはさ、好きになった女の子はいないの?」

「いるに決まってるだろ」

「そうなの」

「ああ、ただし、一人だけだ」

「……その女の子が、他の男の子が好きだって言ったら?」

「自分の前から消え失せろって言われるまで待ってるさ。実際、今まで待ってたんだからな」

「気は短いのに?」

「ああ、そうだな。何でだろうな?」

 そこに丁度、ナオが部室に入って来た。

「こんにちは!」

「あっ、ナオちゃん! カズホは一緒じゃないの?」

「掃除当番の上に今日は日直だから」

「そっか。……ナオちゃん、ちょっと」

 レナは、ナオの手を取って、部室から出ると、廊下の窓にもたれかかるようにして立った。

「何、レナちゃん?」

「ちょっと訊きたいことがあるんだけどさ」

「うん」

「ナオちゃんは、いつからカズホのことが好きになったの?」

「えっ?」

「私の家で、お互いに悩み事を告白し合った時、ナオちゃんは、自分でははっきりと認識してなかったみたいだけど、カズホのことが好きだったでしょ?」

「う、うん」

「でも、今、思い出してみて、いつ頃から、カズホのことが好きになったと思う?」

「う~ん、…………初めてドールで会った時から、何となく気になる存在にはなったけど、…………その後も、ドールで会うたびに、どんどんと心の中にカズホが占める割合が大きくなってきて、…………いつからカズホのことが好きになったかなんて、よく分からない」

「そうか」

「ごめんね。ちゃんと答えることができなくて」

「ああ、私が勝手に訊いたことだから、……こっちこそ、ごめんね。変なこと訊いて」

「ううん。……でも、どうして?」

「……人を好きになるって、どういう感じなのかなって思ってね」

「えっ? ……レナちゃん、ひょっとして?」

「うん? 何? ひょっとしてって?」

「えっ、え~と、……な、何でもない」

「ナオちゃん」

 レナは、とびきりの笑顔でナオに近づくと、ナオの脇の下に両手を入れて、くすぐり始めた。

「ちょ、ちょっと! レ、レナちゃん! くすぐったい!」

「ナオちゃんらしくないぞぉ! 何を言い掛けたのか、白状しろ!」

「あはははは……。ゆ、許して~」

 レナは、すぐに手を戻した。

 ナオがレナを見ると、目を伏せ目がちにして、何かを考えているようだった。

「レナちゃん?」

「自分でも自分の気持ちがよく分からなくてさ。捜すことも見張ることもする必要がないくらいに、ずっと近くにいたから、全然見てなかったのかもって」

「……」

「私って、実は、人の気持ちなんて思いやらない酷い女なのかもね」

「そんなことない! レナちゃんは、人としても女性としても、私が、いつもなりたいって思ってるくらい素敵な人なの! ただ、きっと、……近くにいすぎたんだよ」

「……だと良いけど」

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