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ドール― after story ―  作者: 粟吹一夢
Vol.5 Live! & Love!
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第二章 リハ・ビンタ!(2)

 そして、放課後。

 第一音楽準備室では、二年生バンドのメンバー全員が集まって、学園祭ライブに向けたミーティングが行われていた。

「去年までは、入れ替え時間を含めて、我が軽音楽部全体で一時間の発表時間だったが、今年は、一つのバンドで実質三十分間の演奏時間をなんとか確保できた。一年生バンドと二年生バンドとの入れ替え時間十分を併せて、我が軽音楽部の持ち時間は、一時間四十分だ」

 マコトは、戦勝報告をしているみたいに、勝ち誇った笑顔であった。

 講堂の舞台を使用する文化系クラブとしては、軽音楽部の他にも、吹奏楽部、合唱部、演劇部があった。ステージでの発表時間として、各クラブ均一の一時間が割り当てられ、さらにステージが始まる前の準備と、終わった後の撤収のための時間として、それぞれ十五分が与えられた。したがって、一つのクラブに与えられた時間は最大で一時間三十分であったが、今年は、部長のマコトが実行委員会に掛け合って、一年生バンドと二年生バンドが別々に活動しているという軽音楽部の実情を説明して、その入れ替え時間十分を特別に加算してもらったのだ。

「運営委員を脅したんじゃないでしょうね?」

「何、言ってるんだよ、レナ。心を込めて、俺達の熱い気持ちを切々と訴えただけだぜ」

「ちょっと声が大きかった気はするけどな」

 マコトと一緒に説明に行っていたカズホが、笑いをかみ殺すように言った。

「こみ上げてくるものがあったんだよ」

 マコトは飽くまで真面目な顔だった。

「とにかく、軽音楽部として、俺達の活動の場は、やっぱり学校なんだから、学園祭ではガツンと見せつけてやろうぜ!」

 マコトの気合いに全員が頷いた。

「それじゃあ、今日のミーティングは、演奏曲目と衣装なんかを決めようぜ」 

「マコト。その前に、みんなに話があるんだけど」

 ナオも、みんなと同じようにカズホの顔に注目した。

「何だ?」

「実はさ、昨日、ショーコさんから電話があって、池袋のザッパで一緒にライブをしないかって話があったんだ」

「ザッパでライブ!」

「ああ。二バンドが各々一時間程度の持ち時間のジョイントライブなんだが、対バンが急に出られなくなったとかで、代わりのバンドを急いで探さなきゃいけないらしいんだ」

「いつだ?」

「来月十三日の土曜日午後六時からだ」

「学園祭の一週間前か。……後、三週間も無いな」

「単独ライブだと、曲数もまだ心許ないけど、一時間程度であれば大丈夫かなって思ったんだが、俺一人で決める訳にはいかないから、とりあえず、返事は留保してもらっている。でも、すぐに返事をしなきゃいけないんだ」

「出るっきゃないだろ!」

 マコトの結論は、すぐに出たようだ。

「他のみんなはどうだ? レナは?」

 マコトがそわそわしながら訊いた。

「もちろん、出たいわよ。それに、対バンがショーコさんのバンドなら、何かそれだけで楽しそうな気がするし、変な気を遣わなくても良い気がするからね」

「そうだな。ハルは?」

「僕は、みんなが出たいのなら出るよ」

「何だよ。本当は出たくないのか?」

「ち、違うよ。……ちょっと不安があるけど、……出たいよ!」

「よし! 決まりだな」

「あの~」

「どうした、ナオっち?」

「私には訊いてくれないんですか?」

「えっ、だって、カズホと同じだろ?」

「そ、そんなぁ! 私だって、ちゃんと自分の意見を持ってますよ!」

「それじゃあ、出たくないのか?」

「……出たいです」

「ほらっ、訊くまでもないだろ」

「……」

「ふふふふ。ナオちゃんって本当にいじりがいがあるよね」

「え~」

「カズホ! と、言うことだ!」

「分かった。さっそくショーコさんに連絡をしておくよ」

「今すぐしろよ! 他のバンドに、先に取られないようにさ」

 マコトの頭の中には、既にザッパのステージで演奏している自分達が映っているようだった。

「分かったよ。今頃だと、たぶん、ザッパでバイト中のはずだから」

 カズホは、ポケットから携帯を取り出すと電話を掛けた。ショーコは、すぐに電話に出たようだ。

「カズホです。昨日、連絡いただいたライブの件ですけど、メンバー全員一致で参加させていただくことになりました」

 その後、しばらく無言でいたカズホが、携帯を口元からはずして、みんなを見渡しながら言った。

「今日、これから来られないかって? ザッパのマスターが丁度いるので、演奏を聴かせてほしいということのようなんだ」

「ザッパ名物の事前ライブか?」

「ああ、どうだ?」

「練習を取りやめて行くだけだし、今日、俺はバイトも無いし、大丈夫だ。カズホとハルはどうだ?」

「俺も少しくらいなら遅くなっても大丈夫だ」

「僕も」

「女性陣は?」

 マコトがレナとナオを交互に見ながら訊いた。

「これから演奏するの?」

 不安な気持ちが先に立っていたナオがカズホに訊いた。

「ああ」

「急に言われると、何か緊張する」

「普段どおり、演奏すれば良いだけさ」

 頭では分かっていても、心構えもできていない中で、ちゃんと演奏できるか、ナオは不安であった。

「ナオちゃん。後日なんて言われたら、その日までずっと緊張していなければいけないわよ。ちゃっちゃっと今日、終わらせてしまう方が、気が楽じゃない?」

 レナが、いつもどおりのポーカーフェイスでナオに言った。

「そうか。……そうだね。レナちゃんはいつでも前向きなんだね。羨ましい」

「前向きというよりは、中途半端な状態で置かれることが嫌いなのよ」

「あっ、分かる。……うん、私も大丈夫です」

「もちろん私も」

 ナオとレナも頷いた。

「よっしゃ! カズホ、ショーコさんにこれからすぐに向かうって伝えてくれ」

「分かった」

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